わたしの可愛い御主人様(2)

 昼過ぎにハン理事に呼ばれた。
「来たか」
 忙しそうに身支度をしながら、ハン理事はわたしを一瞥した。
「はい、何かご用でしょうか」
「二時から理事会なので手短に言う。来週から週三日ガヨンのところへ行け」
「え? ガヨン様のところへ?」
 わたしはわけがわからなくて聞き返した。
 ハン理事は義妹のガヨン様とは表立って対立していないが、冷え切った関係だ。
 いきなり名前が出てくるだけでも驚いた。
「家庭教師が欲しいそうだ。おまえ、ソウル大だったよな」
「……中退ですが」
「全く、めちゃくちゃな経歴だな!」
 ハン理事は鼻で笑った。
「とにかく、ガヨンがおまえを指名してきたんだ。夕方、車が迎えに来るからそれに乗ればいい」
「ガヨン様がわたしを指名……?」
 わたしはさらに混乱した。
 経歴を調べるのは簡単だろうが、わざわざガヨン様がハン理事の部下であるわたしを指名してくるのはおかしい。家庭教師くらいいくらでも良い人材を手配できるだろう。
 ということは、狙いは他にあるのではないだろうか。
 わたしが探るようにハン理事を見つめると、彼もわかったように言った。
「嫌がらせだよ。おまえは俺のお気に入りだから、欲しくなったんだろう」
 お気に入り、という言葉にわたしは頬が熱くなった。
 ガヨン様には確かにそういうところがある。ちょっかいをかけているのだ。
 他人の持っている人形が欲しくなったようなものだろう。
 可愛らしいといえば言えるが、ハン理事にとっては厄介な相手だろう。
「俺はおまえを独占するような狭量じゃない。家庭教師くらい行ってやれ」
 そう言ったハン理事の顔をわたしはじっと見つめた。
 ハン理事の下瞼は赤く染まっており、色素の薄い目には薄い膜が出来ている。
 泣く一歩手前の表情だ。
 ハン理事のお実母さまが亡くなって、すぐに籍を入れたという義母。そしてすぐに生まれたのがガヨン様だ。ハン理事がどれだけ傷つかれたか、想像するだに胸が苦しくなる。お父上との複雑な親子関係も、その時に由来するものだろう。
 わたしがガヨン様の元に行くことをハン理事が快く思っているわけないじゃないか。
 きっと今の言葉はハン理事の本心ではない、とわたしは確信した。
 焦りながら、きっぱりと言う。
「お断りいたします」
 わたしがハン理事の命令に逆らうのは初めてのことだろう。
 ハン理事は驚いて鼻白んだ。
「何だと?」
 わたしは負けずに言い募る。
「わたしはハン理事にお仕えしているのであって、ガヨン様にお仕えしているわけではありません」
「そんなことはわかっている!」
 ハン理事は癇癪を起こした。
「ここで断るのは俺のプライドが許さないんだ!義兄としての面目が丸つぶれだろうが!」
「ならば、私が嫌がっているとお伝え下さい」
 あくまで固辞しながら、ハン理事に近寄った。
「なんだ? その態度は!」
 余計に怒りをあらわにするハン理事の目の前にしゃがみこんだ。
「???」
 ハン理事の反応をよそに、わたしは身を屈めて、ハン理事の片方の靴にキスをした。
「!!!!!」
 抵抗はなかった。
 見上げると、ハン理事は驚きすぎて固まっていた。
「お、おまえ、いったい……」
「わたしはあなたのものです、ハン理事」
 きっぱりとそう告げた。
 するとハン理事はみるみる真っ赤になって、怒鳴った。
「シーバルセッキャ!!!!!」
「申し訳ありません」
「お、俺は忙しいんだ。さっさと出てけ!」
 わたしは冷たく追い払われた。
 部屋の外に出てドアを閉め、わたしは今更不安になった。
 ハン理事にわたしの気持ちは通じているだろうか、と。

 夜にハン理事の寝室へ呼ばれた。
 わたしはいささか緊張した面持ちで部屋に入った。
 あんなに怒らせてしまった後だ。いつものようにセックスのために呼ばれたわけじゃないと覚悟していた。
 部屋の中では、ハン理事がバスローブ姿で腕を組んでベッドに座って待っていた。
 やっぱりこれは怒っているな。昼間の続きをするつもりなのだろうか。
 ハン理事に逆らって無事だった者はいない。
 殺されるのは嫌だ、罰だったらどんなものでも甘んじて受けよう。
 辞めさせられるのは絶対に嫌だ。
 どうしたらいいだろう、どうしたら……。
 答えが出ないまま、ハン理事の前に立った。
「昼間は驚いた」
 ハン理事のほうが先に口を開いた。
「おまえがこんなにわたしの命令に逆らったのは初めてだな」
「はい。申し訳ございません」
 わたしは素直に頭を下げた。
「だが、おかげで断る口実が出来た。おまえのせいだと言っておいた」
「はっ。断ってくださったのですか?」
 わたしは驚いて顔を上げた。
「だからおまえのせいだ」
「はい! ありがとうございます!」
「嬉しそうにするな、バカ」
 バカと言われて嬉しかった。
 ハン理事は困っているが、怒っていなさそうだとわかったからだ。
「本当は、おまえまで奪われるのかと思って悔しかったんだ。あいつらは何でも俺のものを奪っていくから」
 絞り出すような声で言うハン理事に、わたしは胸が痛くなった。
 今までどれだけ苦しい思いをなさってこられたのだろうか。
 抱きしめて差し上げたい、と思ったけれど、命じられてもいないのに差し出がましくて手は伸ばせなかった。
 早くハン理事のほうから命じて欲しい。
 抱いてほしいと。
 しかし、ハン理事はわたしに命令なさらなかった。
 かわりに、いつもとは違う少年のような弱々しい声でたずねた。
「俺を、抱いてくれるか?」
 わたしは、急いで手を伸ばしてハン理事を掻き抱いた。
 

 傷つきやすい宝物を抱くように、撫でたり、くちづけたりした。
「ん……♡ ん♡ あ♡」
 ハン理事は物足りなそうにしていたが、悪くはないようだった。
 両方の乳首を丁寧に舌と指で転がしていると、急かすようにもじもじと腰を揺らし始めた。それに気づいたわたしは、ハン理事のちんぽを手で弄び始めた。
「あっ♡ んっ♡ はぁっ♡ あ♡ あっ♡」
 やさしく扱いて差し上げると、ハン理事は気持ちよさそうに呼吸する。
 だが、この程度では足りないことはわかっている。
 わたしはハン理事の体を抱き起こしながら、背を向けて尻を高く上げるように導いた。
「え……何だ?」
 ハン理事は不思議がって振り向いてわたしを見る。
 わたしは無言でハン理事の尻を両手で鷲掴み、尻の穴を露わにした。
 そして、そこに舌を伸ばしてすぼまったシワをひとつひとつほぐすように舐め始めた。
「あぁっ♡ やっ♡ それはっ♡」
 ハン理事は喘ぎながらも動揺する。
「そんなの♡ 恥ずかしっ♡ あぁっ♡」
 顔を真赤にしてシーツに伏せる。
「気持ちよくないですか?」
「きもち♡ いぃ♡ けどぉ……♡」
 それなら良いとわたしは構わず続けた。
 舌先を固くした穴の中へ突っ込み、内側から舐めるようにすると、ハン理事は腰を震わせた。
「あぁぁっ♡ あんっ♡ あぅ♡」
 シーツに顔を埋めて喘ぐので、唾液が染みをつくっている。
 よほど恥ずかしいのだろう、耳まで真っ赤に染まっていた。
 わたしは尻の穴が唾液でふやけるまで舐め続けた。その間にハン理事はくたくたになって力が入らなくなってしまったようで、かろうじて尻だけを高く突き出していた。
「も、もう……無理ぃ♡」
 羞恥と快感で震えるハン理事は、目線だけでわたしに懇願した。
「はい、理事。わたしも限界です」
 わたしはベッドの上に膝立ちになり、デカマラを手で握って、唾液でべとべとになった尻の穴へあてがった。
「柔らかくなったので、わたしが力を入れなくても簡単に挿入りますね」
「も、バカぁ♡ おまえのせい♡ だろぉ♡」
「はい、すべてわたしのせいです」
 ずぶずぶとハン理事の中に進入しながら、わたしは答えた。
 全てわたしのせいにしてしまえばいい。ハン理事が気に病むことは何も無い。
 もっと早く出会えていたら良かったのに、とすら思う。
 この世のろくでもない物事からこの方をお守りしたかった。
 わたしは自分の不甲斐なさをぶつけるように、デカマラを抜き差しした。
「あぁっ♡ あっ♡ あっ♡ んっ♡」
 ハン理事の上に覆いかぶさるようにして、腰だけを動かす。
「あんっ♡ あっ♡ あぁんっ♡」
 腹が圧迫される姿勢で挿入されて、余計に感じるのだろう。ハン理事はシーツに爪を立てて、発情期の猫のように啼いた。
「あぁーっ♡ あんっ♡ いぃっ♡ イク♡ イクぅ♡」
 わたしは後ろから抱きしめるようにして、思い切り奥をえぐった。
「あぁぁ――――♡♡♡」
 ハン理事は思い切り声を上げて絶頂に達した。
 わたしはそれでも腰を動かすのをやめなかった。
「あっ♡ あっ♡ イッてる……イッてるからぁ……」
 強すぎる快感についていけないというように、ハン理事は悲鳴を上げた。
「あぁっ♡ あっ♡ あんっ♡」
 痙攣するナカに、勢いよく精液をぶち込んだ。
「はぁっ♡ 熱、い♡ 腹の中が……♡」
「ハン理事っ、わたしはハン理事のものですっ!」
 射精しながら告白した。
 ハン理事は朦朧としながらも、何度も肯いてくださった。

おしまい

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