お兄ちゃんと秘密の箱

 朝、起きたときからムラムラしていた。
 シャワーを浴びた後も、ムラムラは消えない。
 心当たりはある。
 昨日の会食で、すっぽん鍋を食べたからだ。日本料理の店で、精がつくと言われ、半信半疑だったのだが、どうやら本当だったようだ。
 俺は、ちらりと時計を見た。
 今日の予定は午後からだ。午前中は空いている。
 あいつを呼ぶか……?
 いや、確か今日は早朝から用事を任せていたはずだ。最近目障りな政治家をちょっとばかり脅迫してこいと言っておいた。もう出かけているだろう。
 困ったな。下半身が疼いてどうしようもない。
 しかたなく、俺は、クローゼットの部屋に入っていく。
 服や靴が並んでいるその一番奥の棚の上にある箱を探した。
 あった。これだ。
 使用人にも触らないよう言いつけていたため、封をしたまま埃をかぶっている。
 思えば、最近ちっとも開けていなかった。
 あいつと寝るようになる前は、よく使っていたのに……。
 俺はその箱を両手で持って、寝室へ戻った。ベッドの脇に箱を置いて、開封する。
 中には、色とりどりの大人のオモチャが入っていた。
 全部、日本から輸入したものだ。
 ピンクローターから、ディルド各種取り揃えてある。
 まだ未使用のものも入っていた。
「そういえば、これはまだ使ってないな」
 特大サイズの黒いディルドを取り出した。
 大きすぎてちょっと、と思い使わなかったのだが、今はあいつのでっかいちんちんに慣れてしまっているため、それほど大きいとは思わない。
 よし、これで行こう。
 俺はバスローブを脱いでベッドの上に寝転がった。
 いつも使っているローションを取り出し、手のひらに乗せる。その手で下腹部に撫でつけながらちんちんを扱く。
 この感覚をしばらく忘れていた。
 最近はいつもあいつの大きい手のひらでちんちんを扱かれていたから。
 あいつの手は温かくて滑らかで気持ちがいいんだ。
 俺は思い出しながら、自分でちんちんを扱いた。
 そうしていると、しだいに後ろが疼いてくる。
 指をローションで湿らせて、尻の穴を弄り始めた。ぐちゅぐちゅと音をさせながら、しだいに中へ指を挿れていく。自分で指の根元まで挿れるのはなんだか抵抗があるので、浅い部分を指の腹でかき回す。
「……んっ♡ ふっ♡」
 だんだん集中してじわっと汗をかいてきた。
 中を自分で弄っていると、だんだん奥のほうがきゅんきゅんしてくる。
 そろそろアレを使うときか。
 俺は片手で、傍らに置いていたディルドを手にした。
 それは黒く、全体にいぼいぼがついていて、凶悪な形をしている。スイッチを挿れると、モーター音と共にぐねぐね動き出す。
 すごいな……。
 ごくんと唾を飲み込んだ。
 俺はそれを尻の穴にあててみる。
「ん、やっぱちょっときつ……」
 あいつのでっかいちんちんを思い出す。いつもどうやって挿れてたっけ?
 カリの部分は結構ムリヤリ捩じ込んでた。それを越えれば、あとは一気に奥まで貫く。
 思い出しながら、ディルドを使って真似してみる。
「んぅ」
 強引に突っ込むと、カリの部分がうまく入った。そのままゆっくり進めていく。
 奥まで届いたので驚いた。本当に特大サイズだ。
「ふぅ……♡」
 充足感を味わってから、スイッチを挿れてみる。
 うぃーんと機械音と共に、中でディルドが回りだす。
 うっ、なんか変な感じだ。
 冷たい機械に体の中をかき回されているような気がしてあんまり良くないので、一度スイッチを切った。
 しかしせっかくここまで盛り上がったのだから、とまたあいつのことを思い浮かべてみる。どうやって動いてたっけ。そうだ、最初はゆっくり抜き差しから。ぎりぎりのところまで引いて、一気に貫く。緩急つけた動きを思い出しながら真似をする。
「……あ♡ んっ♡」
 良い感じになってきた。
 あいつはいつも必死な目をして俺の体を貪る。
 あの凛々しい顔を思い出して目をつぶる。
 あの顔が好きだ。俺を呼ぶ声も好きだ。もちろん、でっかいちんちんも……。
 
 その時だった。

「ハン理事! 聞いて下さい、あの政治家が言うことを聞くように……っ」
 ドアがいきなり開いてあいつが現れた。
「……え?」
 不思議そうな顔をしてこっちを見る。
「~~~~おまえ……っ」
 目が合って、俺はぶわっと恥ずかしさで全身が熱くなった。
「おまえ、ノックくらいして入れ!」
「し、失礼しました! すぐにご報告したくてつい……っ」
 慌ててかしこまって頭を下げるがもう遅い。
 俺はディルドが入ったまま、あられもない格好を隠しようがなく、固まっていた。
 だが、先に動いたのは相手のほうだった。
 大股で歩み寄ってきたかと思うと、ディルドを持っていた俺の手首を掴んだ。
「これは、何ですか、ハン理事」
「な、何って、見ればわかるだろっ」
「こんなものをお使いになるくらいなら、わたしを呼んでいただければよかったのに」
「だからそれは……」
 おまえは外出していただろうが、と言い返す間もなく、畳み掛けられた。
「それとも、こんなもののほうがお好きですか……?」
「え」
「理事は悪い子ですね、お仕置きして差し上げます」
「え……」
 目の色が変わった。
 俺の手の上からディルドを掴み、動かし始める。
「あぁっ♡」
 最初は小刻みに動かし、しだいに大きく、奥深くまで挿れては引き抜く。いつものこいつの腰使いと同じだ。
「あんっ♡ あ♡ あっ♡」
 特大ディルドを抜き差しされて、俺は機械に犯されているような気分になった。
「あ♡ やだ♡ やだぁ♡」
「何がいやなんです? ご自分でなさっていたことでしょう?」
「ちがっ♡ んんっ♡ やだっ♡」
 何回か抜き差しした後に、スイッチに気がついたらしい。奥に挿れたまま、スイッチをオンにした。モーター音を立ててディルドはぐねぐね回りだす。
「あぁっ♡ だめっ♡ へん♡ へんな♡ かんじっ♡」
「気持ち良いんじゃないですか? こんなもの、どこに隠し持ってたんです? あぁ、他にもたくさんあるようですね。わたしというものがありながら、こんなもので楽しんでられたんですね」
「ちがっ♡ ちがうぅぅ♡」
 俺は首を横に振りながら、ムリヤリ突き上げられるような快感に耐えた。
 違う。こんなのは全然好きじゃない。
 本当に好きなのは目の前にいるおまえだ。おまえと、おまえのでっかいちんちんだ。
 そう言いたかったけれど、言えるはずもなく、俺は目に涙を溜めた。
「やだっ♡ きもちい♡ けどやだっ♡」
「何でですか? 何がいやなんですか?」
「おまえのっ♡ おまえのがいいっ♡ おまえの熱いちんちんがいいっ♡」
 正直に言わされて、俺はすすり泣いた。
 しかしこいつは満足そうに微笑んだ。
「よく出来ましたね、ハン理事」
「うぅっ♡」
「こんなものは捨てて、わたしのデカマラでお楽しみください」
 そう言って俺の中からディルドを抜くと、箱の中に放りこんだ。
 そしてかわりに、でっかいちんちんが尻の穴にあてがわれた。
 触れるだけで熱い。血の通ったちんちんだ。
「あっ♡」
 ぐいぐい中に強引に入ってくる。一番太い部分が全部入ると、奥の方へぐーっと迫ってくる。いつものやり方に安心感を覚える。
「あんっ♡ あっ♡ いぃっ♡」
 奥をコツンと突くと、今度はゆっくり、抜けそうなぎりぎりのところまで引き抜かれる。 そしてまた勢いよく奥を突かれ、俺は悲鳴のような声を上げる。
「あぁっ♡ あっ♡ すごっ♡」
 さっきのディルドとは比べ物にならない。熱い棒に貫かれる感覚に快感がこみあげる。
「いいっ♡ おまえのが♡ ずっといいっ♡」
「そうですか、もうあんなもの必要ないですよね? これからはしたくなったらすぐにわたしを呼んでくださいますね?」
「うんっ♡ うんっ♡ わかった♡ わかったからぁ♡」
 奥の方をぐりぐりえぐられて、俺は何度も肯いた。
 奥を捏ねられながら、キスをされたので、俺は全身で背中にしがみついた。
 舌と舌を絡み合わせていると、魂が繋がっているような錯覚を覚える。
 深いところで結びついているような気がする。
「んんっ♡ うぅ――――っ♡♡」
「もうイキますか? いいですよ、思い切りイッてください」
「イクっ♡ イクぅ♡ あぁぁ――――♡♡♡」
 俺は喉を反らして全身が快感に貫かれるようにイッた。
 イッてる間に、こいつも射精したのがわかった。
 熱い精液が中に注がれる感覚に、さらに背中がゾクゾク震えた。

「はぁ……最悪だ」
 俺はつぶやいた。
 だが、こいつは淡々と箱の蓋を閉めて封をしている。
「何がですか? この箱を捨てられることが?」
「そうじゃなくて、おまえにあんなところを見られたことだ!」
 今更ながら恥ずかしさに悶える。
「かわいいですね、理事。わたしはハン理事のどんなお姿も見られて嬉しいですよ」
 そんなことを平気でしれっというのでこいつは侮れない。
 もういい加減好きだと言ってしまいたい。
 でもそんなことを言われても、こいつは困るだけだろう。
 だから我慢するけれど、少しは伝わってるといいなと思う。
「ハン理事」
「……なんだ」
「おはようのキスを差し上げてもよろしいですか?」
 全く、かわいいのはどっちだ。
 俺はもちろん断るはずもなく、そっと唇を差し出した。

おしまい

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