御主人様の秘密の箱

 その日は早朝から仕事があった。
 ハン理事のいる邸ではなく、ソウルの歓楽街での張り込みだ。
 最近ハン理事にとって目障りな動きをする政治家をちょっと脅してこいと言われている。
 すでに、その政治家の男が未成年とホテルに入るところを我々の部隊が掴んでいたので、朝出てくるところを写真にとって脅迫するという手筈だった。
 作戦は成功した。
 写真はバッチリ取れたし、それを突きつけると男は泣き崩れて懇願した。
 今後はハン理事の言うことなら何でも受け入れるそうだ。
 本当なら殺されてもしかたないくらいのところを、脅迫で済んでラッキーな男だ。
 まぁ今後約束を守らなかったらすぐ殺されるのだろうけれど。
 朝から仕事が上手くいって気分が良かった。
 邸に戻って、ハン理事にすぐご報告しようとしたが、事務室にいらっしゃらなかった。まだ寝てらっしゃるのだなと思い、寝室のドアを開けたところで、事態は急変した。
「ハン理事! 聞いて下さい、あの政治家が言うことを聞くように……っ」
 勢いよく部屋に飛び込んで、目の前の光景に目を疑った。
「……え?」
 ハン理事が、ベッドの上で脚を開いて黒くてかなり大きなディルドを咥えこんでいた。
「~~~~おまえ……っ」
 ハン理事はわたしと目があった瞬間、全身が真っ赤に染まった。
 しまった、自慰中だったのか。わたしはようやく事態を把握した。
「おまえ、ノックくらいして入れ!」
「し、失礼しました! すぐにご報告したくてつい……っ」
 わたしは深々と頭を下げた。
 その間になんとか体裁を整えていてほしかったが、ハン理事は驚きのあまり固まってしまっていた。
 このままでは理事に恥をかかせてしまう。
 わたしは姿勢を戻し、ずかずかとベッドに近づいていった。
「これは、何ですか、ハン理事」
 もちろんわかっていることだが、あえてわたしはたずねた。
「な、何って、見ればわかるだろっ」
 ハン理事は真っ赤な顔で言い返す。
 わたしは悲しそうに眉を下げる。
「ハン理事」
「な、なんだ」
「こんなものをお使いになるくらいなら、わたしを呼んでいただければよかったのに」
 正直なところを申し上げた。
 ムラムラしたのならすぐに帰って慰めて差し上げたのに。
「だからそれは……」
 仕事中だったと言いたいのだろう。
 それもわかっているが、わたしは言い訳を聞かず、冷たい声で続けた。
「それとも、こんなもののほうがお好きですか……?」
「え」
 理事はぽかんとわたしの顔を見る。
「理事は悪い子ですね、お仕置きして差し上げます」
 耳元に囁くとやっと意味を理解したようだ。
 わたしは、ディルドを持っているハン理事の手の上から掴んだ。
「あっ」
「こんなもので、満足なさるのですか?」
 ディルドを動かし始める。わたしが挿入するときのように、ぎりぎりまで引き抜いたり、奥深くへ突き上げたりする。
「あっ♡ あっ♡ あぁっ♡」
 ハン理事はたまらず喘ぐ。
 ローションでべたべたに濡れたハン理事の尻の穴はひくひくと特大サイズのディルドを咥えこんでいるところが丸見えで、とてもいやらしい。わたしも見ているだけで興奮してきた。
「や♡ やだ♡ やだぁ♡」
 自分で咥えこんでおいて、ハン理事はいやいやと首を横に振る。
 それがなんだかムリヤリ犯しているような気分になる。
「何がいやなんです? ご自分でなさっていたことでしょう?」
「ちがっ♡ んんっ♡ やだっ♡」
「何が違うんですか?」
 わたしはディルドを素早く抜き差しして差し上げる。
「あぁっ♡ んっ♡ あっ♡ あっ♡」
 ハン理事はあられもなく喘いでおきながら、いやだいやだを繰り返す。
 やり方がまずいのか?と思って手元を見ると、ディルドの根元にスイッチが有ることに気がついた。あぁこれを使うべきだったか、と思ってスイッチをオンにした。
 低いモーター音が鳴り、ディルドがぐねぐねと回転し始めた。
「あぁぁっ♡」
 ディルドはわたしが触らなくても勝手にハン理事の中で動き回る。
「あぁっ♡ だめっ♡ へん♡ へんな♡ かんじっ♡」
「気持ち良いんじゃないですか? こんなもの、どこに隠し持ってたんです?」
 部屋の中を見回すと、見慣れない箱が床に置いてあった。その中には色とりどりの大人のおもちゃが入っているようだ。
「あぁ、他にもたくさんあるんですね。わたしというものがありながら、こんなもので楽しんでられたんですか」
「ちがっ♡ ちがうぅぅ♡」
 ハン理事はやっぱり否定する。
 目に涙をたたえた姿がディルドのグロさと対比して可憐に見える。
「やだっ♡ きもちい♡ けどやだっ♡」
「何でですか? 何がいやなんですか?」
「おまえのっ♡ おまえのがいいっ♡ おまえの熱いちんちんがいいっ♡」
 泣きながらそう訴えられて、わたしは心臓を鷲掴みにされたように胸が痛くなった。
「うっ、ハン理事……本当ですか?」
「ほ、ほんとに……♡ おまえのほうがいいっ♡」
 この人にそこまで言われてときめかない男がいるだろうか。
 わたしは感動でめまいを覚えた。
 しかし、ここでやめるわけにはいかない。わたしは予想以上の成果に歓喜しながら、耳元に囁く。
「よく出来ましたね、ハン理事」
「うぅっ♡」
「こんなものは捨てて、わたしのデカマラでお楽しみください」
 わたしはディルドを理事の中から抜いて、他にもオモチャがたくさん詰まっている箱に放り捨てた。
 そして代わりにわたしのデカマラの先っぽをぐちゃぐちゃに濡れている尻の穴へとあてがう。カリの部分をムリヤリ押し込んでいく。一番太い部分が入れば、後はスムーズに奥へ進入できる。
「あぁっ♡ あ♡ あっ♡」
 わたしが入っていくと、ハン理事は気持ちよさそうに背を反らして喘いだ。
「あんっ♡ あっ♡ うぅっ♡」
 わたしはゆっくりと腰を動かし始めた。
 引き抜いては奥を突き、また引き抜く。粘膜が絡みつく感触に、わたしも脳が焼かれるような快楽を覚える。
「あはぁっ♡ はぁっ♡ あんっ♡」
 一番奥までこつんと届く感触があると、そこを重点的につつくことにした。
 腰を回転させながら、奥を何度もつつく。
「あぁっ♡ あぁんっ♡ いぃっ♡ きもちいっ♡」
「さっきのディルドよりもいいですか?」
「いいっ♡ おまえのが♡ ずっといいっ♡」
 ハン理事はわたしの背中に手足を絡めてしがみつく。
「そうですか、もうあんなもの必要ないですよね? これからはしたくなったらすぐにわたしを呼んでくださいますね?」
「うんっ♡ うんっ♡ わかった♡ わかったからぁ♡」
 ハン理事はぐすぐす鼻を鳴らしながら、何度も肯いた。
 まったく、なんてかわいい人だろう。
 愛しくなってわたしは唇にキスをした。ハン理事は嫌がらずに舌を絡めてくる。
 キスをしながら腰を振っていると、ハン理事が限界に近い声を上げた。
「あっ♡ んっ♡ う――――っ♡♡」
「もうイキますか?」
「イクっ♡ イクぅ♡ あぁ――――っ♡♡♡」
 ハン理事はわたしの背中にいっそう強くしがみついてきた。
 大きな波に呑まれるように、全身を硬直させてイッた。
 長い絶頂の間、ぎゅうぎゅう締まる肉壁の感触が耐え難く、わたしも射精した。
 びゅるびゅると溜まっていたものをハン理事の中に注ぎ込む。
 絶頂が過ぎ、ハン理事は満足そうな顔をして脱力した。

「こんなものはお捨てください」
 わたしが言うと、ハン理事はしぶしぶという感じで肯いた。
「せっかく日本から輸入したものなのに」
「そうですか。でもだめです」
「はぁ、最悪だ」
 ハン理事は枕に突っ伏して、呟いた。
「なにがですか? オモチャを捨てられることが?」
「そうじゃなくて、おまえにあんなところを見られたことだ」
 なんだ、そんなことかと、わたしは微笑んだ。
「かわいいですね、理事。わたしはハン理事のどんなお姿も見られて嬉しいですよ」
 正直に申し上げた。
 ハン理事は恨めしげに睨んでくる。そんな顔もかわいらしい。
 窓の外はもう日が高くなっている。朝から充実してしまった。
 わたしはハン理事にたずねた。
「おはようのキスを差し上げてもよろしいですか?」
 時間的にはちょっと遅いが、理由にはなるだろう。キスがしたかった。
 ハン理事は少し驚いて、それから目を閉じて唇を差し出した。
 わたしはそこへ唇を重ねて、朝の挨拶というには濃厚なキスをした。

おしまい

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