三十路の恋はお花畑

 近頃、俺は真剣に悩んでいた。
 だが、恋愛の悩みを職場の人間に話すほど分別を失ってはいなかったので、他に相談できる相手を探した結果、前科三犯の詐欺師(今は屋台のおやじ)のヤンスしかいなかった。
 だから俺はヤンスに相談したのだが、反応は芳しくなかった。
「なんだよぉ、ちゃんと聞いてんのかよぉ」
「聞いてますよ。ひと回り年下の男とつきあって、そいつのこと好きすぎて、しかもセックスがうますぎて、溺れてこわいからどうしようってことだろう? その年下男、知ってる気がしてならないけど……」
 めんどくさそうに答えるヤンスに、俺はため息をついた。
「おまえにはわからないんだな、恋愛の深い沼に落ちたこわさが」
「わからなくて結構」
 すげなくはねつけられた。
 結局ヤンスの屋台で一人で飲んだくれて、千鳥足でアパートに帰った。
 部屋で待っていたのは、もちろん、俺の恋人(!)キム・ジュンだった。
「ただいま~」
 玄関に突っ立っているジュンに抱きつくと、「うわっ酒くさ」と突き放された。
「つめたい。何だその態度」
「アンタ飲み過ぎだよ。道理でなかなか帰ってこないと思った」
 ジュンは呆れたように言って、そのきれいな顔で俺を見下ろした。
「誰と会ってたんだ?」
「え、ヤンスだけど」
「またか……何で刑事のくせに犯罪者と会うんだか」
 ジュンスはイライラを隠さずに呟いた。
「だってあいつは罪償ってるし、それにおまえとの話聞いてくれるのあいつくらいしか……」
「は!? 俺達のこと喋ってんの!?」
「え? なんかマズかったか!?」
「はーっ、アンタって人は……」
 ジュンはため息をついて俺に背を向けた。
「もう黙って寝てくれ」
「えっ、何で?」
「何でって、もう夜中だ、寝る時間だろう」
「何もしないのか?」
 俺はびっくりしてジュンの背中に言った。
「アンタなぁ、いい加減に……」
 ジュンは振り向いて言いかけて、黙った。
「?」
「俺は酔っ払いには手を出さない」
 宣言するように言い、部屋の中に入っていってしまった。ひとつしかない俺のベッドに寝転がる。
「ふぅん、じゃあおまえは何もしなくていいいよ」
 俺はアルコールでふわふわした頭で言った。
「俺がしてやるから」
「……えっ?」
 寝転がったジュンの上に、俺は伸し掛かった。
 しかし動きを察知して、ジュンは短パンをしっかり手で抑える。
「そういうこと! アンタはしなくていいって言っただろう!」
「なんでだよ~」
「なんでもだ!」
 これだ、俺の今の最大の悩みは。
 ヤンスには聞いてもらえなかったけど。
 俺だってジュンのちんぽを舐めたいのに、させてくれないのだ。
「おまえは俺の、してくれるじゃんよ~。だったら俺だって」
「いらない」
「やるったらやる!」
「この酔っぱらい!」
 俺はジュンを組み敷いて、服の上から股間に手を伸ばした。
 やわやわと揉んでやると、ジュンは降参したようで、短パンを抑えていた手を緩めた。
「……わかったよ、やってみて、無理だと思ったらすぐやめろよ!?」
「オッケー」
 俺は短パンを下ろし、黒のボクサーパンツも引きずり下ろして脱がせる。
 ジュンのちんぽが目の前に現れる。結構立派なんだよな、これが。顔に似合わず。
 まだ通常状態のちんぽを手で触れると、ジュンはぎゅっと目をつぶった。痛いことされると思っているみたいだ。これから気持ちよくしてやるっていうのに。
 しばらく揉んだり擦ったりしていると、みるみるうちに固く上を向いていく。若くて、元気なそれに、俺は顔を近づけて竿に舌をぴったりとつけた。
 全然嫌悪感はない。それどころか、愛しく感じる。
 ジュンは相変わらず目を閉じていて、両手でシーツをぎゅっと握りしめている。
 俺はなだめるように、舌でちんぽをぺろぺろ舐めた。アイスキャンディーを舐める要領だ。根元から舐めあげたり、横に咥えてはむはむしたりする。
 実は、努力家の俺はバナナで練習したのだ。
 どうせやるなら完璧なフェラチオをしてあげたい。そう思っていた。
「あ、あっ、んっ」
 ジュンが声を押し殺しているのがわかって、俺は楽しくなってきた。
 腹につきそうなほど勃起したちんぽの先っちょを、俺はぱくっと咥えた。
「ぅわっ」
 ジュンは目を開けて、俺を見た。何をしているのか確認したんだろう。
「~~~~~~~~っ」
 ジュンは声を我慢しながら大きな目で俺を凝視していた。
 俺は歯を当てないように気をつけながら、先っちょを口の中の粘膜に当てるように動かした。これが難しい。歯に当てないようにって言ったって当たってしまう。なるべく舌を動かして、やわらかく撫でる。
「……は、ぁっ、あっ、んっ」
 それから、唇で竿ごと扱いてやれば、射精感が高まるはずだ。
 やってみると、けっこう苦しい。喉の奥に詰まりそうでこわい。
 ぢゅぽっ、ぢゅぽっと音をさせながら頭を上下していると、ジュンはとうとう俺の頭を左手で押しやった。
「も、もう終わりっ!」
「へっ?」
「無理!!!」
 射精するまでやるつもりだった俺は驚いた。
 ちんぽから口を離して言う。
「何でだ? 気持ちよくなかったか? そりゃ、上手くないけど……」
「気持ち良すぎて無理だっつってんの。視覚的におかしくなりそうだし、それ以上されたらどうなるかわかんない。俺、アンタを無茶苦茶にしちゃうかも」
 俺はドキッとして、ごくんと生唾を飲んだ。
 無茶苦茶にされてもいい、なんて思う俺は変態か?
「ねぇ、それよりもう抱かせてよ。俺、アンタの中に入りたい」
 ジュンは熱い息といっしょに耳元に囁いた。
「えっ、じゃあシャワー浴びて……」
「そのままでいい」
「わっ」
 いきなり体勢を逆転されて俺はジュンに組み敷かれた。
 ベルトを外して、ズボンをパンツごと引き抜かれる。ジュンは片手でベッドサイドからローションのボトルを手にとって、俺の脚の間にたっぷり垂らした。
「つめたっ」
「あ、ごめ」
 ベトベトになった尻の穴を指でぐにぐに押されたり撫でられたりする。
 それだけで気持ちよくなってしまう。
「あ、あ」
「気持ちいいの? じゃあ指入れても平気だね」
 指を挿れられて、ナカをむにゃむにゃかき混ぜられる。甘い快感が腰の辺りにこみ上げてきて、腹の底が熱くなる。でも酔いすぎたからちんぽはあんまり勃起しない。勃起しなくても気持ちよくなれることを知っているから気にしなかった。
「挿れるよ」
 ジュンはちんぽを挿れるところを見せつけるような姿勢で挿れてきた。
「う、う、入ってくぅ」
 俺はそのやらしい光景から目が離せない。
「ほら、根元まで入った」
「うぅーっ、あ、ちょっと待っ、動くの、はやっ」
 ジュンはすぐに腰を動かし始めた。
 浅いところで抜き差しするから、もどかしくてこっちも腰を動かしてしまう。
「も、もっと奥ぅ」
「はいはい、わかってます」
 なんだか俺がわがままをねだっているみたいだ。年上なのに。年下のちんぽに夢中になってしまっている。
「あぁっ」
 ジュンはもったいぶって、奥を突いたかと思うと、ぎりぎりまで引き抜く。それからまた奥をつく。それを繰り返した。
「あ、あんっ、あっ、あぁっ、すごっ、あっ、あ、いいっ」
「あのね、俺はアンタを大事にしたいんだよ、わかる?」
「あぁっ、わ、わかんなっ、あっ、いいっ、きもちいっ」
 大事にされるなんて柄じゃない。俺みたいな荒っぽい刑事がこんな繊細な青年に大事に扱われるのが照れくさい。俺だって、何でもしてやりたいのに。
「じゃあ、わからせてあげる」
「あぁぁっ、あっ、だめっ、おくっ、こんなのっ、よすぎるぅ」
 奥の狭いところを捩じ込むようにぐりぐりされて、俺は呼吸ができなくなるような気がしてめいっぱい喘いだ。
「あ、あ、わけわかんな、いっ、おかしくなるっ、あっ、いっ、イクっ、イクぅ」
 俺はつま先から頭のてっぺんまで電流が走るような衝撃を受けて絶頂に達した。
「あぁぁ――――――――っ」
 射精するのと違って、ナカでイクのは長く続く。一瞬気が遠くなって、それから意識が戻ってきて、身体に力が入らなくて勝手にびくびく痙攣する。その間にジュンも射精したようだ。俺の上に倒れ込みながら、じっと俺の絶頂が終わるのを待っていてくれる。
「……大丈夫?」
「う、うん。す、すごかった」
「そりゃ良かった」
 年下の男がよしよし、と髪を梳くように撫でてくれて、俺は幸福感で満たされる。
 情けないかもだけど、これが幸せなんだから、しかたないよな。
 ジュンは眠そうな声で釘を刺す。
「今夜のことは、ヤンスには言っちゃだめだぞ。他の誰にもだめ」
「わかってるよぉ」
 俺は口を尖らせて言う。
 こんな楽しいこと、他人に言うほど俺だって馬鹿じゃない。
「でも……」
「でも何!?」
「なんでもなーい」
 俺は笑ってごまかした。
 まだジュンに完璧なフェラチオをする野望は諦めていないのだった。
 

おしまい

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