わたしの彼氏は諜報員(2)

 夕食を食べ終わって、二人で映画を見ることにした。
 以前見始めて、途中で止まっていたイタリア映画の続きだ。
 ソファに並んで座って、ほろよいの缶を開けた。
 つきあってからしばらくしてわかったのだが、ポールは韓国系のアメリカ人だそうなので、韓国語もネイティブだった。だから、ハリウッド映画を見ても、韓国映画を見ても、ポールのほうが先に反応をしてしまうのだ。もちろん日本映画はわたしが先に反応する。
 それはフェアじゃないとなぜかポールは言って、たいてい別の国の映画を見ることにしている。
「なぁ……これ、面白いか?」
「うーん、まだ最初のほうだからなんとも」
「キャラクターがみんな似てて区別が……眠くなってきた」
 欠伸をして言うポールに、わたしは苦笑した。
「じゃあ寝ますか?」
 そう答えると、ポールは無言になった。ちょっと口を尖らせて、わたしを見つめる。
「はは、冗談ですよ。わたしもまだ眠くありません」
「あ」
「え?」
 ポールがTV画面のほうに視線を止めて呟いた。
「いや、今出てきた俳優が昔の知り合いに似てたから」
「イタリア人?」
「韓国人だけど……似てないか、一瞬似てると思ったんだけどなー。目がぱっちりしてて、青白くて、痩せてて……」
 ポールが知り合いの話をするなんて初めてだった。
 彼は自分のバックグラウンドを殆ど話さない。そもそも、韓国系アメリカ人だということもポールという名前も本当かどうかあやしい。
 わたしは、ポールの気が変わらないうちに話を聞き出したくて、恐る恐るたずねた。
「いつの知り合いですか?」
「大学時代の。そいつは交換留学生でうちの大学に来たんだけど、飛び級でずいぶん年下だったから驚いたね」
「へぇ」
「それがめちゃくちゃ根暗な奴でさ、頭はいいけど無愛想だし」
 饒舌になったポールに、ますますわたしは驚いた。
「……もしかして、そいつとつきあってたんですか?」
「えっ」
 ポールは虚を突かれたように口を開け、それから慌てて首を横に振る。
「まさか!」
「……そうですか……」
 なるほど、元彼というわけか。しかも思い入れのありそうな。
 わたしは思わず遠い目をして、挙動不審になるポールをしばらく放置してしまった。
 お互い、いい歳なのだから、過去に誰と付き合っていようが構わないが、ポールの態度が気に障った。
「おい、ちょっと怒ってないか? 何でだよ、別につきあってないって言ったじゃないか」「怒ってません」
「怒ってるだろー!?」
 眉を下げてわたしを見つめるポールを、わたしは手に持っていた缶をテーブルに置いて、わたしはヒョイと横抱きにした。
「わっ」
 ポールも背は高いがわたしのほうが高くがっしりした体型なので、簡単に持ち上げることが出来る。いつもはお姫様を抱くように抱えてあげるが、今日はいくらか乱暴に、連れ去るようにソファから離れ、寝室へ歩いて行く。
「えっ、wait, wait……」
 ごちゃごちゃ言うポールをベッドの上に投げ下ろした。
「うわっ」
 その上に覆いかぶさるように乗り上げる。
「本当かどうか、身体に聞いてみましょうね」
 にっこり笑ってそう言うと、ポールは目に見えて青醒めた。

「あっ♡ あっ♡ もう出ない、出ないからぁ」
 ポールはきれいな顔を涙と汗でぐちゃぐちゃにして、懇願した。
 わたしはそれでも彼のちんぽを弄るのを止めない。
 さんざん舐めて、擦って、さっきから五回は射精した。
「あぁっ♡ また♡ また来るぅ♡」
 それでも鈴口をいじっていると、射精感がこみ上げてくるらしい。
「うぅーっ♡♡♡」
 力なく噴き出した精液は透明に近く、本当に限界なんだとわかったが、それでも手を止めることはなかった。
「やだ、もう、出ない。許してぇ」
 ポールはべそべそ泣いている。
 かわいそうに、と思うが、泣き顔がかわいいとも思う。
 わたしは指をポールの尻のほうにずらし、後ろのほうもいじってやることにした。
 第一関節まで指を入れ、浅いところをぐにぐにかき回す。
 すると余計にポールは泣いた。
「ちがうぅ。指じゃないぃ」
「ワガママですね」
 わたしは大げさにため息をついた。
「それで、元彼は……」
「つきあってないってば。……その……、何回か寝ただけで……」
「でも、あなたのほうは好きだったんでしょう?」
 わたしは苛立った声で言い、ヒクヒクしているポールの尻の穴を二本の指で広げてやる。
「あぁんっ♡ そんなんじゃ、ないって」
「そうは見えませんけど」
「だって、同胞だったしっ、かわいがってただけでっ」
「あなたにとって特別な男だったんでしょう?」
 今度の言い方は核心を突いたようで、ポールは黙ってすすり泣いてしまった。 
 わたしは、自分でも驚くほど嫉妬していた。
 何も情報開示しないポールがこれだけ語る男。それだけでじゅうぶん腹立たしい。
 このまま、今日は何もしないで眠ってやろうかと思った。
 放置されたポールは絶望してしまうだろう。
 別れると言い出すかもしれない。
 別れるのはいやだな、それだけは……と考えていると、ポールがもじもじと身動きし始めた。体勢を変えて、自分から尻の穴を手で開いて見せた。
「お、俺が好きなのは、おまえだって、知ってるだろう? 今は、おまえのっ、でっかいdickが欲しいんだよっ so, fuck me……!」
 必死で言うポールのけなげさに、わたしは胸を突かれた。
 
「ポール……わかってるよ」
 わたしは、ポールが自ら広げている尻の穴に、ようやく自分のペニスの先をあてがった。
「いいこでよく我慢しましたね」
 ぐっと先端を埋め込み、ゆっくりと中に侵入していく。
「あぁっ♡♡」
 ようやく満たされて、ポールは歓喜の声を上げる。
 前立腺のあたりをカリの出っ張ったところでひっかけるように動かしてやると、うっとりした表情で腰の動きを合わせてきた。
「あんっ♡ あっ♡ this feels so fucking good♡」
 ちょっとの間、それを繰り返してあげたが、ナカのまとわりつくうねりに耐えられなくなって奥まで挿入する。
「あっ♡ 奥っ♡ 入ってくるっ♡ んんっ♡」
 奥のコツンと当たるところまで入って、わたしは息をついた。
「深いところのほうが好きですよね」
「んっ♡ すき♡ すきぃ♡」
 ポールは快楽に酔ってくると、日本語から英語に切り替わる。
「oh♡ well♡ c’mon♡」
 わたし奥のほう目掛けて、何度も抜き差しをする。
 ポールは追い詰められるような呼吸で、喘ぐ。
「Oh♡ yes♡ Yes♡♡」
 わたしも無心になってポールのナカを貪った。
 かわいい、大事なポール。
 別に過去にどんな男がいたっていい。今そばにいてくれればそれで。
「Cum on me♡ Please♡」
 ポールにねだられて、わたしはうめきながら射精した。腹の中でその衝撃を感じたのか、ポールも感極まった。
「I’m gonna cum……Ahhhhh♡♡♡ I love you♡♡♡」
 イクときに英語で愛の言葉を叫ばれて、わたしは耳を疑った。
 今まで何度もセックスをしたが、初めてのことだった。
「ポール……!」
 意識を失ったように見えたポールに、わたしは声をかけた。
「ん……、okay……あれ、何で泣いてるんだ?」
 指摘されて気がついた。
 わたしの下瞼には涙がたまっていて、頬にポールの手が触れて、水滴がぽとりと落ちた。
「わたしも好きですよ、あなたのことがとても」
 そう言うと、ポールはわたしの唇にやさしいキスをしてくれた。
 
 イタリア映画は、結局最後まで見ることはなかった。

おしまい
 

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