アテンション・プリーズ

 人生何が起きるかわからない。
 あれだけ憎んだはずの相手が、共に死闘を繰り広げた後では心から信頼出来る相手になっていた。
 パク・ジェヒョクのことだ。
 数年前まで俺と同じスカイコリアで機長をしていたパク・ジェヒョクは有能パイロットとして有名で、皆の憧れの存在だった。俺も副操縦士として彼と一緒にフライト出来る日は嬉しかったものだ。
 何しろ外見からしてかっこいい。外見と仕事の有能さを両立出来る人が本当にいるのだと彼に会って俺は初めて知ったのだった。
 パク・ジェヒョクの方も俺のことを「ヒョンスや」と呼んでかわいがってくれていた。
 ところが、あの事故が起きた。
 最愛の妻が死んでしまった。その原因は当然、緊急着陸の判断をしたパク・ジェヒョクのせいだと思った。思い込んだと言ってもいい。そうしなければ、深い悲しみに耐えられなかったのだ。ジェヒョクは会社を辞めたので、もう二度と会わないで済むと思っていた。
 ところが運命とは皮肉なものだ。
 ジェヒョクが俺のフライトの飛行機に乗り込んできた。空港で姿を見かけた時はまさかと思ったが、機内の騒動の最中に顔を合わせて心底驚いたものだ。
 しかし最悪な事態はそこから始まった。機内ではバイオテロが発生し、それから何重にも悲劇が起きた。正直、もう二度と生きて帰ることは出来ないかと思ったこともあった。
 最終的にそれを救ってくれたのが、後で聞いたことだが、ク・イノ刑事の献身と、パク・ジェヒョクのおかげだった。
 俺たちはあの限界のフライトの最中、今までのわだかまりが溶けてわかりあえた気がしたのだった。
 テロリストのばらまいたウィルスにより感染した俺たちは、着陸後、医療班から手当を受け、抗ウィルス剤を投与された。着陸時に生き残っていた乗客や乗務員らは全員、医療を受けて回復出来たという。犠牲になった人たちのことは筆舌に尽くしがたい悔しさが滲むが、全員生存できない可能性に直面していたのだから、不幸中の幸いだったと言うべきだろう。
 回復したと言ってもまだ経過観察の時期にあるので、俺は休職扱いになっている。
 だから、いまや命の恩人であるジェヒョクに昼間から自宅に誘われて、断る理由などなかった。
「この度はお誘いありがとうございます」
「堅苦しいな。よせよ」
「ははっ。スミナは? どこですか?」
 彼の一人娘、スミンのためにお土産を用意してきた。俺は子供がいなかったのでよくわからないから、人形くらいしか思い浮かばなかったので、大きなうさぎのぬいぐるみを抱えてきたのだ。
「スミナは学校に行ってる。子供は回復が早いな。医者の許しが出たから、事件前よりずっと元気に登校してるよ」
「そうなんですか。それは良かった。じゃあこれ、預かってくれますか?」
 俺はジェヒョクに大きなうさぎを押し付けた。
「お? なんだこれ。ま、いいか。ありがとう、スミナも喜ぶよ」
 彼は昔思っていたよりもだいぶいい加減な人間のようだった。いい加減というか、ノリが軽いのだ
「いいワインとチーズを用意しておいたんだ。生ハムもあるぞ。さぁ入って入って」
 部屋に通され、着ていたジャケットを脱いだ。男二人でホームパーティというのもおかしいが、二人共時間を持て余しているので、酒を飲むのに昼間でも関係がなかった。
 ジェヒョクは、ハワイで講師の仕事に就く予定だと言っていたが、それも延期することになったらしい。今はお互い療養に専念する期間ということだが、とくに酒は医者から止められていないから都合が良い。
 俺たちは昔の頃に戻ったように話に花を咲かせた。美味いワインと料理のおかげで余計に盛り上がった。
 料理はいつもパク・ジェヒョクが全部作るらしい。離婚してから始めたというのだから驚きだ。凝り性なのだろう。
 離婚したのは、やはり彼が無職になって一時期はパニック障害がひどかったからというのがあるらしい。彼はそんなこともあっけらかんと話してくれた。
 彼の離婚の話から、おかしくなったのだと思う。俺も妻の思い出話をしてしまった。
 だいぶ酒がまわっていた。泥酔とまではいかないが、へらへら笑い続けて話していたのは覚えている。
 ジェヒョクが離婚された自分は情けないというようなことを言うから、自虐のつもりで、俺なんかと言った。俺なんか、妻が死んでから勃たなくなったんですよ、と口を滑らせて、しまったと思った。
 案の定ジェヒョクは顔を強張らせていた。
「違いますよ、あなたのせいじゃないです」
「でも……」
「いやほんとに、そういう意味で言ったんじゃないんですけど」
 ジェヒョクがしょぼんとしてしまったので、俺はごまかすためにワインをガバガバ飲んだ。それが余計良くなかったのだと思う。意識が朦朧としていた。

 気がついたら、俺はベッドの上に横たわっていた。
 下半身裸で。
「…………えっ?」
 わけがわからず、思わず声をあげると、足元にジェヒョクがいた。
「パク・ジェヒョクさん、そこで何してるんですか?」
「何って」
 彼が答える前に、俺は尻に違和感を覚えて下半身を見つめた。驚くべきことに、ジェヒョクの指が、俺の尻の穴に入り込んでいた。
「…………はぁ?」
 間抜けな声が出た。
「治療だよ、治療」
 ジェヒョクは答えた。
「えっ」
「ヒョンスが勃起不全だっていうから、治してやると言ったじゃないか。目を開けて返事もしていたのに、まさか寝てたのか?」
「いや……寝て、たのかな……」
 まだ頭がぽやぽやとはっきりしない。
「つまるところは俺のせいだと思ったから、治してやりたいと思ったんだ」
 真面目な顔で言うパク・ジェヒョクは、やはり稀に見るイケメンで、俺はかっこいいなぁと見とれそうになって、ハッと我に返った。
 いやしかし、人の尻の穴に指を勝手に入れるなよ!
「とりあえず、抜いてください」
 それから話をしよう、と思ったが、ジェヒョクは首を横に振った。
「なんで!」
「おまえの尻のナカが締めつけて俺の指を離さないんだ」
「そんな馬鹿な!」
 俺は尻に異物感を感じるだけで、何もしているつもりがない。
「大丈夫だ、この通り、たっぷりローションも使って慣らしたから傷つくことはない。このままもう少し続けてみよう」
「え、続けるって……あっ!」
 尻の中でジェヒョクの指が曲がるのがわかった。異物感がいっそう込み上げる。
「うわ、それ、やめ」
「わかるか? ナカで動かしているのが。ちなみに指は二本入ってるぞ」
「二本も!」
 真実を聞かされて俺は気が遠くなった。普通は一本も入らなくないか? ローションを使うとそんな簡単に入るのか? 
 混乱しつつも、尻の中で指をぐにぐに曲げられ、俺は異物感の中に何かモヤモヤした感じが混ざってくるのを感じた。
 腹の中がモヤモヤする。何だこの感じ。
 すると、ジュヒョクは嬉しそうに言った。
「ほら、勃ってきたぞ。見ろ」
「え?」
 俺は自分の下半身を見つめた。
 確かに、俺のちんぽは首をもたげ始めている。モヤモヤしていたのはこれのせいか!
 俺が黙ってちんぽを見つめている間に、ジェヒョクは指を曲げて腹の方をぐいと押してくる。
「あっ♡」
 甲高い変な声が出た。
 それに気づいたジェヒョクはさらにぐいぐい指である一点を押してくる。
「あっ♡ あっ♡」
 やっぱり押されるたびに変な声が出てしまって、腹の中のもやもやが大きくなった。
「ちょ、それ、ほんとにやめてください」
「何でだ。そんなに気持ちよさそうなのに。ほら、完全に勃起できてるぞ」
「えっ、あっ♡」
 本当だった。
 俺は数年ぶりに勃起していた。もう二度と勃起出来ないのかと思っていたから心から嬉しい。俺は自分のちんぽを見つめて涙ぐんだ。
「ここがヒョンスの気持ち良いポイントなんだな」
 パク・ジェヒョクは俺も知らない俺の体のことをわかったように肯く。
「どうだ、気持ち良いだろう?」
「あっ♡ あぁっ♡ あっ♡」
 腹側のポイントとやらをぐいぐい押されて、俺は引っ切り無しに声を上げた。
 ちんぽはびんびんに固くなっていく。信じられない。
「我慢汁も出てきたぞ。もうすぐ射精出来そうだな」
「あっ♡♡♡」
 俺は、変な話だが、ようやく恥ずかしくなってきた。あの有能なパク・ジェヒョクに尻の穴をいじられ、勃起してカウパーまで漏らしてしまっている。普通だったらあり得ない恥ずかしい姿を見られているのだ。
 でも、彼は、俺が勃起出来るよう、治療してくれたのだ。恥ずかしがるのは失礼に当たるかもしれない。何しろ、ジェヒョクはずっと真面目な顔で俺の尻をいじっている。
 それなら、俺も期待に応えるべきだろう。
「あっ♡ 出るっ♡ 出そうだっ♡」
「そうか、がんばれっ」
「あ♡ あ♡ あぁっ♡ 出るっ♡ あぁぁっ♡♡♡」
 俺のちんぽは数年ぶりに精液を噴き出した。それは濃くて、粘っこい白濁だった。
 腹の上に散ったそれを見つめて、俺は深くため息をついた。
「はぁ、すっきりした……」
 こんなにすっきりした気分は何年ぶりだろう。身体が軽やかになった気がする。目を潤ませてジェヒョクを見ると、彼も嬉しそうな顔をしていた。
「やったな、ヒョンスや」
「あ、ありがとう……ございます……」
 俺は自然と礼を言っていた。
 しかし同時に強烈な眠気が襲ってくる。俺は、下がってくる瞼の重さに耐えきれなくて、いつのまにか眠ってしまった。
 

 目を覚ましたのは、スミンの声が聞こえたからだ。
「わー、でっかいうさちゃん!」
 俺は起き上がると、下半身もきちんとスラックスを履いていることに気づいた。
 ということは、アレは夢だったのか?
 俺は混乱したまま、寝室を出た。
「パク・ジェヒョクさん……?」
 ジェヒョクは帰ってきたスミンにぬいぐるみを渡していたところだったようだ。
「あ、チェ・ヒョンスさんはお酒を飲みすぎて寝ていたんだよ」
「こんにちは。うさちゃんをありがとうございます」
 スミンはかわいらしく頭を下げる。
「こんにちは。喜んでくれて良かったよ」
 ジェヒョクは俺の肩を抱いて、さする。
「もう大丈夫か? なんだったら泊まっていけよ。なぁ、スミナ」
「いや、平気です。帰ります」
 俺はそう言って、ハンガーにかけてあったジャケットを手に取った。それを羽織りながら、やっぱりアレは夢だったんだと思っていたら、ジェヒョクが言った。
「また治療が必要だったらいつでも来いよ」
「えっ」
 俺は小さく聞き返した。
 治療って、やっぱりアレのことか?
 夢じゃなかったのか。
 俺はとたんに恥ずかしさが込み上げてきて、顔が熱くなるのがわかった。きっと真っ赤になっているだろう。
「じゃ、じゃあ俺はこれで」
 ぎくしゃくした足取りで玄関を出る。
「またおいで」
 ジェヒョクはいつもどおりの爽やかな笑顔を浮かべていた。俺はその顔をまともに見れず、逃げるように出てきてしまった。

 恥ずかしいのはともかくとして、勃起不全が治ったのは嬉しく、家に帰って自分の手で勃たせようとしてみたが上手くいかなかった。その翌日もだめだった。
 俺はひどくがっかりした。
 まさか、あの方法でしか勃つことができないのだろうか。
それを確かめるために仕方なく俺は、通販でローションを買い、準備して自力で『治療』してみようとしたのだった。
「ん……っ」
 指をローションでたっぷり濡らし、ベッドの上で四つん這いになって、後ろに片手を回した。尻の間に指を近づける。
 これが自分でやるとけっこうこわい。自分でも見たことのない場所だから、加減がわからないのだ。
すぼまっているところに指を当てて、ローションをぐるぐると撫で付ける。しばらくの間それを続けていたが、意を決して中指に力を込めてみた。
 つぷ、と第一関節まであっさりと入るので驚いた。
「うわ、入った」
 思わず呟いてしまった。
 そのまま第二関節まで入れてみる。それでじっとしていたが平気そうなので、恐る恐る動かしてみる。
「う……っ」
 異物感がすごい。
 パク・ジェヒョクに入れられていた指の感触を思い出す。やはり最初は異物感がすごかった。でもだんだん慣れていったような気がする。
 意を決して人差し指も一緒に入れてみる。二本入れるとさすがにきついがなんとか入った。両方とも第二関節まで入れて、出し入れしてみる。ローションがぐちゃぐちゃと音を立てるので恥ずかしい。
「……んっ、……うっ、……んんっ」
 必死になって指を出し入れしたり、中で曲げたりしてみる。額に汗が滲んでくる。
 しかし、ジェヒョクの言っていた俺の気持ち良いポイントとやらが全然わからない。探すように動かしてみるが、見つからない。
「う、うぅっ……」
 残念なことにちんぽは萎えたままだ。
「くそっ、無理だ」
 俺は諦めて指を抜いた。
 ベッドの上にうつ伏せに突っ伏した。せっかく勇気を持って行動してみたが、徒労に終わってしまった。
 がっくりした俺は、最後の手段を決意していた。

 もう一度、真っ昼間にパク・ジェヒョクに会いに行った。もちろんアポは取った。ジェヒョクは何も聞かずに軽い感じで受け入れてくれたのでホッとした。
 俺は手ぶらだと行きづらいので、途中通りがかった店でコーヒー豆を選び、挽いてもらった。
「おお、よく来たな。チェ・ヒョンス」
 ジェヒョクは肩を叩いて迎えてくれた。
「あぁ、こないだ来たばかりなのにすまない。これ、つまらないものだが」
「なんだ? 気を使わなくていいんだぞ。コーヒーか、嬉しいな。早速淹れよう」
 ジェヒョクの笑顔は緊張している俺をリラックスさせてくれた。彼がコーヒーを淹れる間、俺はリビングのソファに座っていた。
 いつ話を切り出そうか、内心ドキドキしながら。
「それで、どうしたんだ」
 コーヒーを淹れて持ってきたジェヒョクは、テーブルの上にカップを置いて、対面のソファに座った。淹れたての良い匂いが部屋中に広がっている。
「何か相談があるという話だったが、仕事のことか? 今の俺が役に立てることがあるとは思わないが……」
「いや、仕事の話ではないです」
 俺は慎重な面持ちで答えた。
「実は……」
 言い出すのは恥ずかしくて、顔が熱くなってくる。その様子がよっぽどおかしいのか、ジェヒョクは身を乗り出して聞いてくれた。
「アレを……」
 俺は口ごもりながら言う。
「アレをもう一度やってくれませんか?」
「アレ? あぁ、アレか!」
 すぐに通じたらしい。
 俺のほうが驚いた。
「治療のことだろ? 心配していたんだ、あの後どうなったかと思って」
「それが…………」
 俺はどこまで話せば良いのか戸惑った。一人で試して見たというのは恥ずかしい。そもそも全部恥ずかしい。
「その、あれから自分じゃうまくいかないんだ。やっぱり治ってないみたいで」
「そうか? 安心しろ、治ってると思うぞ。でも俺がやったほうがいいなら、いつでもやってやる。おまえの力になりたいんだ」
「パク・ジェヒョクさん……」
 そう呼ぶと、ジェヒョクは笑った。
「他人行儀だなぁ。前は、なんて呼んでくれてたっけ?」
「機長、と」
「そうか。今は機長じゃないもんな。ヒョンとは呼んでくれないか?」
「それはちょっと」
 なんだか馴れ馴れしい気がする。
「だめか」
 彼は苦笑しただけであっさり諦めてくれたようだった。
「じゃあ用意するから、ベッドに行って待っててくれ」
「あ、はい」
 俺は一人で先に寝室に入らせてもらった。
 用意とは、爪を切ったり、手を洗うことだったらしい。ほどなくして、ジェヒョクはローションを手にしてやって来た。
「待たせたな。じゃあ下は脱いで、そこに寝てくれ」
「はい」
 俺は恥ずかしさを投げ捨て、思い切って、下半身裸になった。言われた通り、ベッドに横になる。
 ジェヒョクは鼻歌でも歌いそうな調子で楽しそうにベッドの上に乗り上がってきた。そういえば、元は夫婦用のベッドだったのだろうから、キングサイズで大きい。大の男が二人乗っても広々としている。
「脚を開いて」
「う……」
「恥ずかしいか?」
「そりゃあ」
 俺は肯いた。するとジェヒョクは言った。
「あまり深く考えるな」
「そう……ですね……」
 俺はおとなしく言うことを聞いて、ジェヒョクの前で大きく脚を開いた。
 ジェヒョクはローションで濡らした指を、俺の会陰に指を這わせた。
「あっ……♡」
 むず痒さに声が出てしまう。
 会陰をつたって行き、尻の穴に指の腹をつける。
 来るぞ来るぞ。俺はぎゅっと目を閉じて、これから訪れるであろう異物感に耐える覚悟をした。
 本当にジェヒョクにやってもらえれば勃起するのだろうか。その保証はない。こないだの一回がまぐれだった可能性もある。俺はちょっと不安になってきた。
「んぅ」
 ジェヒョクの指が入ってくる。内蔵が押されるような異物感が湧き上がってくる。
「ちょっと我慢してろよ?」
 ジェヒョクは優しく言って、ゆっくり指を侵入させていく。馴染むまで時間を置いているらしい。しばらくして指を動かし始める。
「う、うっ」
 広げるように曲げたり円を描いたりする。
「大丈夫か? あと一本入れるぞ」
「は、はい……」
 ぬるりと指を二本に増やされた。中で不規則に動かされる。
「あ♡ あ……っ♡」
「ヒョンスの良いポイント、ちゃんと覚えてるぞ。ここだな」
「あっ!♡♡」
 例のポイントを押されて、俺の身体はびくりと大きく反応した。
「ここだろう?」
「あっ♡ あっ♡ だめっ♡」
「ほら、勃ってきた」
「え……」
 俺は首を起こして下半身を確認すると、たしかにちんぽは固く天井を向いていた。
「ほんとだ」
 まぐれじゃなかった。やっぱりジェヒョクにやってもらうと勃起するらしい。
不思議だ。
「ここをいっぱい触ってやるからな」
 ジェヒョクはそう言って尻の中でぐにぐに指を動かしている。
「あっ♡ あっ♡ んっ♡ はぁっ♡」
 俺は声が止められない。
「あっ♡ 出るっ♡ 出るぅっ♡」
「いいぞ、その調子だ」
「あぁぁ――――っ♡♡♡」
 促されて俺は射精した。前のときより早かった気がする。
「はぁ、はぁ、はぁ」
 一瞬の強烈な快感と、その後のすっきりした疲労感に肩で息をついていると、ジェヒョクは嬉しそうに言った。
「見ろ、まだ勃ってるぞ」
「えぇ?」
 一回射精したのにまだ軽く勃起している。
 ジェヒョクが指を入れたままだからかもしれない。
「もう一回イケそうだな」
 そう言ってジェヒョクは中で指を動かすのをやめない。
「あっ♡ んっ♡ も、一回出た、のにっ♡あっ♡ またっ♡ また出そうっ♡♡」
 良いポイントをぐりぐり押されて、俺は足をじたばたさせた。
「はぁっ♡ あっ♡ 出るっ♡ 出ちゃうっ♡♡♡」
「いい子だ、ヒョンスや」
「あ、あ――――っ♡♡♡」
 二回目の射精はもっと早かった。さっきより薄い白濁が腹を汚した。
「気持ち良かったか?」
 ジェヒョクに聞かれて俺は何度も肯いた。
「良かった……」
 溜息交じりにつぶやく。
「そうかそうか」
 だが、ジェヒョクはまだ尻から指を抜かなかった。
「えっ?」
 怪訝な顔をする俺を無視して、真面目な様子で指を動かし続ける。
「この様子なら指は三本入りそうだぞ」
「そんな」
 二回も出した後だというのに、ジェヒョクは指を一本増やし始めた。俺はいくらなんでも指はこれ以上入らないし、これ以上射精も出来ないと思って、初めて抵抗をする。
「あっ♡ だめっ♡ もうっ、♡ 出ないっ♡ 出なっ♡ あっ♡ 変っ♡ 変な感じっ♡♡」
 射精感とは違う、腹の底の重苦しい感じに俺は動揺した。
「あぁっ♡ 何か、来るっ♡ 来るぅっ♡ おかしくなるっ♡」
 俺はシーツを掴んで違和感に耐えた。
「あっ、あっ、うぅ――――っ♡♡♡」
 全身を震わせて俺は再びイッた。けれども射精はしていなかった。しかも一瞬で済まなかった。長く続く快楽に、俺は震えた。
「あぁ……あ……あ……」
 しばらく身体が硬直して動けなかった。
 苦しいほどの快楽に押しつぶされる俺を見て、ジェヒョクは尻から指を抜き、両手を広げて俺を抱きしめた。
「よしよし、ヒョンスや、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、じゃない……いったい……」
「ナカだけでイッたんだ。ドライオーガニズムとか言うやつだ。やっぱりヒョンスは才能があるな」
「才能……?」
 どういう意味だと思ったが、強く言い返す気力も体力もなかった。
「気持ちよかっただろう?」
  子供をあやすように頭をぽんぽん叩いて聞いてくるので、俺は頭がぽやぽやしたまま、「あぁ……」と肯いた。
 すごく気持ちが良かった。
 こんな快楽は味わったことがない。
 ちょっとこわいくらいだった。
 恍惚とした俺は恥ずかしさもすっかり忘れて、抱きしめてくれるジェヒョクに身を任せていた。
 そしてだんだん冷静になってきた頃、気づいたのだ。
 ジェヒョクも勃起していることに。


 仕事に復帰することになった。
 久しぶりに会った職場の皆は俺を暖かく迎えてくれた。最初のフライトは緊張したが、今まで通り難なくこなした。良かった。
 それ以来普通に働いて過ごしている。
 事件前と何も変わらない。
 いや、事件前とくらべて遥かに調子が良くなっている。
「絶好調だね、チェ副操縦士」
 その日のフライトの機長に褒められて自覚した。
「そうですか、ありがとうございます」
「休職期間をじゅうぶん取れたのが良かったのか、それとも何か良いことでもあったのかな」
「さぁ……どうでしょう」
 俺は首をかしげてごまかした。
 どう考えても『治療』のおかげだった。
 実は、あれ以来月に二回のペースでパク・ジェヒョクに『治療』をしてもらっている。そのおかげで、毎日すっきり目が覚める。身体が軽い。ストレスがなくなった。
 それもこれもジェヒョクのおかげだ。
 何しろ俺のわがままにイヤな顔ひとつせずつきあってくれている。有り難い。
 俺は最近では開き直って、射精にこだわらなくなった。ドライオーガニズムとやらが気持ち良すぎてハマってしまっている。快感が長いのがたまらない。大きな波が何度もやってきて、手足の先まで快楽に痺れる。
 そしてしばらくすると得も言われぬようなすっきりした感覚がやってくるのだ。
 正直、俺だけが気持ちよくなっているのは申し訳ないなと思う。何故なら、ジェヒョクも俺の尻をいじりながら、勃起していることに気づいてしまったからだ。
 だけど、何も言わない。何もしない。俺が帰った後一人で抜いているんだと思う。
 一度、尻をいじってもらっている最中に、ジェヒョクの下半身に手を伸ばしたことがある。その時は一瞬で振り払われてしまった。
「触るな!」
 珍しく強く拒絶されてびっくりした。
「あ、すまない。いいんだ。俺のことは気にしないでくれ」
 すぐにジェヒョクは申し訳なさそうに謝った。
「すみません、こっちこそ」
 気まずい数秒が流れたものの、ジェヒョクは俺の尻に指を出し入れするのを再開したので、俺はアンアン喘いで流されてしまった。
 だが、その後になっても俺はジェヒョクの服の上から触ったちんぽの感触が忘れられなかった。
 熱かった。それから固くて大きかった。
 さすがパク・ジェヒョクはちんぽも立派なんだろう。
 俺が喘いでいるのを見ているだけで、その立派なちんぽが固くなっていると思うと、なんだか興奮した。あの有能なジェヒョクの人間じみた一面が垣間見れた気がするのだ。

「あっ♡ あっ♡ そこっ♡ いいっ♡ あぁっ♡」
 今日は四つん這いになって後ろから尻に指を入れられていた。
 ジェヒョクは指を動かしながら言った。
「最近は、良いポイントより、奥のほうが感じるようになってきたな」
「え」
「ほら、ここら辺がいいんだろう?」
「あぁっ♡♡」
 俺は涙目になって喘いだ。ジェヒョクの言う通り、最初の頃に比べたら、感じる場所が違うようになってきていた。
 奥のほうを指の先でぐりぐりされると、涙が出るほど気持ちがいい。
「あっ♡ イクっ♡ おかしくなるぅ♡」
 俺は自分からも尻を振って、ジェヒョクの指を誘い込んだ。だが、根元まで入った指は、それ以上奥には届かない。
 もどかしかった。
 もっと奥まで届けばもっと気持ちが良いのに。
 貪欲にそんなことを考える自分に呆れた。もうじゅうぶん快楽を享受しているというのにこれだ。人間の欲にはキリがない。
 例えば、指よりもっと長く太いもので、奥を突いてもらえたら……。
 例えば、ジュヒョンのちんぽで……。
 見たことのないジュヒョンのちんぽを妄想した。あの固い感触で奥を思いっきり突いて欲しい。そう願ってしまうのは罪だろうか。
「あっ、イクぅ――――っ♡♡♡」
 俺はシーツに突っ伏して尻だけ高く突き上げてイッた。
「……あっ♡ ……あぁっ♡」
 長い快楽が始まる。頭のてっぺんが痺れるように甘くとろける。
「……きもちい……♡」
 俺はごろんとベッドの上に横になった。
 ぎゅっと手足を縮めて、背中を丸める。そうすると残りの快楽を余すところなく味わえるような気がして、癖になっている。
「その癖、かわいいな」
 ジェヒョクが言った。
「えっ」
「いや、なんでもない」
 俺が聞き返すとジェヒョクは口ごもった。
 なんて言った? かわいい? 聞き間違いだろうか。
 戸惑っている間に、ジェヒョクは話題を変えた。
「実は、ハワイでの講師の話は断ろうかと思ってるんだ」
「えぇっ」
 俺は驚いて上半身を起こした。
「何でですか、せっかくのチャンスなのにもったいない。あ、今はスミナが学校でうまくやってるからですか? ハワイに行くのが嫌になったとか?」
 立て続けに聞くと、ジェヒョクは静かに首を横に振った。
「違うんだ。別のところから……スカイコリアから復帰の話があるんだ」
「何だって!」
 俺は驚いた。
 まさか、スカイコリアとは。
「操縦は出来るんですか? 心身の調子は?」
 また立て続けに質問してしまう。
「それが、だいぶいいんだ。もう薬も飲んでいない」
「そうなんですか!」
「もちろん復帰するにはまだ不安があるし、迷っているんだが……」
「いい話じゃないですか! 応援します! 俺に出来ることがあったら何でもします!」
 俺は身を乗り出して言った。
「ありがとう」
 俺は自分のことのように嬉しくなった。また機長として復帰してくれたら、一緒に搭乗できるかもしれない。
 昔みたいに、機長と副操縦士として。
 胸の奥がじーんとして、自然と涙がこぼれてきた。
「わっ?」
ジェヒョクは驚いて声を上げた。
「どうしたんだ? どこか痛かったか?」
「いや、嬉しくて……」
「ヒョンスや……」
 ジェヒョクに突然抱きしめられてびっくりした。目を見開いていると、ジェヒョクのハンサムな顔がみるみる近づいてきた。
 キスをされた。
 軽く唇をつけるだけのものだったが、俺の心臓は飛び出すかと思うほど跳ね上がった。
「あっ、すまない、つい……」
 謝るジェヒョクを、俺は見上げて言う。
「あの、まだ物足りないんですけど……続きをしてもらえますか?」
「……あぁ、それは気づかなくて悪かった」
 ジェヒョクはそう言ってローションのボトルを手に取り、片手の上に中身をぶちまけた。人肌に温めたそれを俺の尻に塗りたくる。
「……んっ♡」
 指を入れられて、俺は喉を反らせて喘ぐ。
「あ♡ あ♡ いいっ♡ 奥っ♡ もっと奥っ♡」
「これ以上は無理だよ」
 ジェヒョクがそう答えたので、俺は首を横に振った。
「無理、じゃない。これで……」
 手を伸ばして、ジェヒョクの股間に触れた。やっぱり勃っている。熱くて、固い。
「ヒョンス!」
 またジェヒョクは俺の手を振り払った。
「だめだ、そんなことをしたら」
「そんなことをしたら、どうだっていうんですか?」
 俺にはわからなかった。何か悪いことがあるだろうか。
「……いいのか?」
 重ねてジェヒョクは聞いた。
「はい、お願いします」
 俺がそう言うと、ジェヒョクは自分のベルトに手をかけた。下着をおろすと、立派に猛ったちんぽが飛び出して来た。
 俺はそれを見て、ごくりと唾を飲んだ。
 今からこのちんぽが指のかわりに俺の尻の中に入るのかと思うと、言いしれぬ興奮が湧いてきた。
「後ろを向いてくれ。そのほうが楽だろう」
 俺は言われるまま、後ろを向いて四つん這いになり、尻を突き出した。
「本当に挿れるからな」
「はい」
「痛かったら言えよ?」
 ジェヒョクはむちゃくちゃ気を遣いながら、ローションで濡れた俺の尻の穴にちんぽの先をあてがった。
「挿れるぞ」
 自分に言い聞かせるようにジェヒョクは言って、ぐいと力を込めた。
「……うっ」
 指とは比べ物にならないほどのすごい異物感がやって来る。
「あ、あ、うぅ」
「大丈夫か?」
「はい……、全部入りましたか?」
「まだ先っぽだけだ」
「えぇ……」
 ジェヒョクは馴染ませながら、ゆっくり挿れて来る。俺はその込み上げてくる異物感にひたすら耐えた。
「う、きつい」
 ジェヒョクも呻く。
 雁首の太いところが入りきるまでが大変だった。でもそれを超えたら、ぬるぬると奥まで入っていくのがわかった。
「……あ♡ あぁ♡」
 指では届かないところまで届く。
 奥深くまで身体が開かれる感覚だ。
 ようやく根元まで入って、ジェヒョクは深い溜息をついた。
「すごい。熱くて千切れそうだ」
「う♡ うぅ……♡ 俺も♡ 熱くて♡」
 ジェヒョクのちんぽは妄想どおりやはり熱くて固かった。
「よし、動くぞ」
「……はい」
 ジェヒョクは俺の返事を確認してから、ゆっくり腰を動かし始めた。
「あ♡ あっ♡」
 中を撫でられるような感覚に、俺は背筋を反らして喘いだ。
 最初は引き抜いて、奥まで戻すだけだったが、それだけでじゅうぶん気持ち良かった。その上、俺の良いポイントを先端に突くように動き始める。
「あっ♡ あっ♡ あっ♡」
 中から突き上げられて、俺は声が止まらなくなった。
「はぁっ♡ あっ♡ うぅっ♡ はぁっ♡」
 俺のちんぽもバキバキに勃起していてカウパーをだらだら漏らしている。でも射精より、ナカでイク感じを味わいたくて俺はねだった。
「あっ♡ もっと♡ 奥ぅ♡」
「わかった」
 ジェヒョクは低い声で答えて、突く場所をずらした。奥をぐりぐりと抉るように動く。
「あぁっ♡ あっ♡ あーっ♡ それ♡ いいっ♡」
 ずっと欲しかったところにジェヒョクのちんぽが届く。俺は気が狂いそうにわめいた。
「きもちいっ♡ いいっ♡ 奥ぅ♡ イクっ♡」
「ヒョンス、ヒョンスや」
 ジェヒョクが名前を呼ぶ声が聞こえて、俺は感極まった。
「イクぅ♡ 機長っ♡ 機長っ!♡♡♡」
 思わず昔の呼び方が出てしまった。
 ジェヒョクはハッとして、俺のことを今度は「副操縦士」と呼んだ。
「副操縦士、そんなに俺のちんぽがいいのか?」
「いいっ♡ いいですっ♡ 機長♡ あぁっ♡ もう……っ!♡♡」
 ひときわ大きくジェヒョクが奥を抉った拍子に、俺は絶頂を迎えた。
「うぅ――――っ♡♡♡」
 あまりのすごい快感に、シーツを掴んで耐えた。一度おさまったかと思うと、波が再びやって来て、ビクビクと痙攣する。
「はぁ、副操縦士、ナカに出すぞ」
「あ……っ♡ あ……♡ ん……っ♡」
「うぅっ」
 ジェヒョクも切羽詰まった声を上げて、俺の中に射精した。腹の中に熱いものがびゅるびゅるほとばしるのを感じる。
「あ♡ 熱い……っ♡♡♡」
 気がつけば汗だくになっていた。
 へろへろになってベッドの上に突っ伏す。
 俺の中からちんぽを抜いたジェヒョクは、そのまま俺の背中の上に覆いかぶさってきた。後ろから抱きしめて、じっとしている。
 俺が不思議に思って振り向くと、整った顔が間近にあった。
「ヒョンスや、好きだ。大好きだ」
「えっ」
 突然の告白に、俺は心から驚いた。
「それは、どういう意味で……?」
「そういう意味だよ、もちろん」
 ジェヒョクは苦しそうに眉根を寄せた。
「こんなことを言ったら避けられるかもしれないと思って黙っていたが、もう我慢できない。俺はおまえに惚れている」
「そんな」
「迷惑か?」
「いえ、ただ本当に驚いて……」
 よく考えれば、俺の姿を見て勃起していたのだから、それはあり得ることだった。考えたこともなかった。
「いったい、いつから……」
「あの事件の最中からかもしれないな」
「そんな時に?」
 俺は呆れた。
 あんな緊急事態の中で、何を考えていたんだ、この人は。
 いや、むしろこの人らしくて、俺は笑ってしまった。
「笑うのか」
「すみません」
「おまえの気持ちはどうだ」
「俺……? 俺は……」
 今しがた、セックスをしてしまった相手を、俺はじっと見つめた。本当にセックスしたいと思ったのは、パク・ジェヒョクだからに違いない。
「俺も……たぶん、あなたが好きです。あなたじゃなきゃ、こんなふうに身体をさらけ出せなかった。あなただから、俺はこんなふうになってしまうんだ」
 俺は素直な気持ちを言葉にした。
 本当はもっと前から気づいていた。
なぜジェヒョクの言いなりに身を任せてしまうのかと考えたら、そうとしか思えなかったからだ。
妻を思う気持ちとは別のところに、ジェヒョクの居場所が出来てしまった。
「ヒョンスや。嬉しい……」
 ジェヒョクに俺は抱き起こされた。
「……?」
 ハンサムな顔で間近に見つめられて、俺は頭がぼうっとした。二回もイッたから疲れているのかもしれない。そう思っていたのに、ジェヒョクは言った。
「今度は顔を見ながらシたい」
「えっ、もう一回?」
 それは無理だ、と言おうとした唇をジェヒョクの薄い唇で塞がれた。以前されたようなくっつけるだけのキスではない。唇を強く吸われたかと思うと、舌が歯列を割って入ってきて、口の中をべろべろと舐め回された。背筋がぞくぞく震える。
「ん……ふ……っ♡」
 上顎を舌先でくすぐるように撫でられて頭の芯が蕩けそうになる。舌を絡めてスリスリ擦られて、腹の底が熱くなった。
 あれだけヤッたのに、また勃起し始めた。どこが勃起不全だ。完全に治っている。
 告白して気持ちをさらけ出して、開き直ったジェヒョクはひどく甘ったるい愛撫を開始した。俺の耳や頬にキスを降らせながら、乳首をいじりはじめた。そんなところ、妻だって触ったことはないのに。
「感じるか?」
「よくわかんな……んっ♡」
 爪で強く引っかかれて、俺は腰を震わせた。指の腹で両方の乳首をすりつぶすように擦られるとたまらない。腹の底が疼く。
「んっ♡ あっ♡ 変な♡ 感じ……っ♡」
「気持ちいいんだろう?」
 そう言われて、何度も肯いた。
 ジェヒョクに触られるところは全部気持ちがよくなってくる。彼は大事なものに触れるように俺の肌の上をまさぐるので、脇腹や腰骨が弱いことを自分でも初めて知った。
「あっ♡ あっ♡ そこは……っ」
 片方の乳首を口に含みながら、ジェヒョクは手で俺の下腹の茂みをかきまわし、勃ちあがっているちんぽを掴んだ。
 直接それを触れられるのは初めてだ。掴まれて、軽く上下に扱かれただけでカウパーを垂れ流した。
「あっ♡ それっ♡ だめっ♡」
 思わず制止しようとしたのは、ジェヒョクが俺のちんぽを舐め始めたからだ。
「あはっ♡ あっ♡ はぁっ♡ だめっ♡ あっ♡」
 ぬるりとした舌の感触に全身の力が入らなくなる。
 ジェヒョクは、竿を下から舐め上げ、裏筋を舌先でチロチロくすぐる。
「はぁっ♡ あっ♡ あっ♡ いいっ♡」
 それを何度か繰り返した後、大きく口を開けて俺のちんぽを口に咥えた。
「あぁっ♡」
 あのパク・ジェヒョクが俺のちんぽを咥えているという光景だけで頭がおかしくなりそうだった。
 彼は口の中で鈴口をえぐるように舌を動かした。
「んっ♡ あっ♡ あぁっ♡」
 それから唇で全体を扱くように、頭を上下に動かし始めた。
「うっ♡ ううっ♡ 出る♡ 出ちゃうっ♡♡♡」
 俺は手足をじたばたさせた。
 ジェヒョクは思いっきり俺のちんぽを吸い上げたので、俺は我慢できずに射精した。
「うぅぅっ♡♡♡」
 ジェヒョクの口の中に出してしまった。
 やばい、と思ったときには、彼は口の中に溢れた白濁を飲み下していた。
「……うそだろ……、飲んだんですか!」
「何かいけなかったか?」
「あぁ、あなたって人は……」
 俺はがっくりと項垂れた。
「こっちも寂しがってるな」
 ジェヒョクはそう言って、身をかがめて俺の会陰を舐めた。
「ひっ♡」
 俺は引きつった声を上げた。
 彼は会陰からつたって尻の穴まで舌を滑らせて行く。
「えぇっ」
 尻の穴を舐められた。すでにだらしなく緩んでいるそこの皺を、丹念に舌で広げる。
「ん♡ んんっ♡」
 後ろめたい快感が全身を駆け巡る。
 ジェヒョクは何の抵抗もなく、愛しいもののように尻の穴に口づける。
「あぁっ♡ もうっ♡ だめだっ♡ 挿れてくださいっ♡」
 俺は情けなくも懇願した。
 ジェヒョクがちんぽが欲しくて頭がいっぱいになっていた。
「あぁ、わかった。ちょっと待て」
 彼は自分のちんぽに手を添えて、俺の足の間に姿勢を直した。
 俺は腰を突き出すようにしてジェヒョクを待った。
「挿れるぞ」
「はいっ」
 ジェヒョクのちんぽがぐいぐい入ってきた。彼も焦っているのか、一気に奥まで押し入って来た。
「あぁっ♡」
 貫かれる衝撃に、俺は全身を反らせて応えた。二度目なのでそんなに違和感はない。体中が満たされるような充実した感覚だった。
「あっ♡ はぁっ♡ はぁっ♡ 入ってる♡奥まで入ってるぅ♡」
 俺は熱にうかされたように口走った。
「機長、機長っ」
「副操縦士、しっかり掴まってろよ」
 俺は言われたとおり、ジェヒョクの首に手をまわしてしっかりしがみついた。
 余裕のないジェヒョクは、遮二無二腰を動かし始めた。
「あぁっ♡ あっ♡ あぁっ♡」
ガクガクと揺さぶられ、俺は振り落とされそうになった。
奥を何度も思いっきり突かれる。
「いいっ♡ きもちいっ♡ あぁっ♡」
 俺は気が狂ったようにジェヒョクにしがみついて喘いだ。
「あぁっ♡ あんっ♡ んっ♡ はぁっ♡」
「う、副操縦士のナカ、最高だ」
「あぁっ♡ 言わなっ、あっ♡ あぁっ♡」
 俺はまた大きな波が襲いかかるのを感じて身を縮めた。
「あっ♡ イクっ♡ イッちゃうっ♡ またっ♡」
「いいぞ、思いっきりイケっ」
「あぁぁ――――っ♡♡♡」
 身体が硬直した。頭の芯が痺れて何も考えられなくなる。
 しかし、ジェヒョクは加減をせずに、腰を動かし続けた。
「あっ♡ あっ♡ イッてるのに――――」
 敏感になっている全身を揺さぶられて、俺は半狂乱になった。こんな大きな波の最中に動かれるのはたまらない。
「うぅ……っ♡ う……っ♡ ふ……っ♡」
 ビクビクと痙攣しながら、ジェヒョクが射精するのを待った。彼はさんざん揺さぶって俺の中の収縮を堪能して射精した。
「あぁっ♡♡」
 腹の中に熱いものが解き放たれる。
 俺はその感触にさえ感じて、震えた。
「はぁ……あ……♡ あ……♡」
 三回目の絶頂がようやくおさまってきた俺は、全身が泥のように重くなり、恐ろしい眠気が襲ってきた。
「……だめ、だ♡……機長……♡」
 つぶやきながら眠りにつく。
 その日はそのまま眠ってしまい、疲労困憊で家に帰れなくなった俺は、そのままジェヒョクの家に泊まることになった。
 翌朝、スミンと面と向かって朝食を食べるのはとても気恥ずかしかった。


 本格的にパク・ジェヒョクのスカイコリア復帰が決まった。最初は空港でスタンバイの勤務からだが、感染症のほうも精神的なトラウマのほうも、医者からのお墨付きをもらうほどに回復しているので、心配は必要なさそうだ。何より、あのパク・ジェボムのことだ、すぐに慣れて活躍するだろう。
 最後の休日に俺は招かれて、スミンと三人で近くの公園へピクニックに出かけた。まだ桜の季節なので、同じようにピクニックしている人たちはたくさんいて、場所取りに苦労してしまった。
 結局、公園のはじっこのほうにレジャーシートを敷くことになった。見上げれば桜の木は目に入るのでじゅうぶんだ。
「さぁ、お弁当を開けよう」
 ジェヒョクはレジャーシートの上に座り、バックパックから保存容器に詰めてきたお弁当を取り出して広げる。
「チュユクポックム(旨辛豚肉炒め)を作ってきたんだ」
「アッパの大好きなやつ!」
「そうだ、俺の大好きなおかずだ」
 スミンはすっかり明るくなって、口数も多くなった。元々のアトピーも今はだいぶ落ち着いているという。
「勤務するようになったら、スミナの食事とかはどうするんだ?」
 俺は尋ねた。
「近くに住んでる妹が来てくれることになってる。それでも無理なときは、お手伝いさんを雇うことになるだろうな。スミナには寂しい思いをさせてしまうことになるが……」
 申し訳なさそうに言うジェヒョクに、スミンは首を横に振った。
「わたしはアッパが飛行機を操縦してるの好きだから大丈夫」
「いい子だなー、スミナは」
 ジェヒョクはもちろん、俺も感激した。なんて良い子に育っているんだろう。
「俺は、出来合いのものですが……」
 来る途中でヤンニョムチキンを買ってきた。それから、サイダーとビールも。
「おー、すまないな」
「いいえ」
 俺たちは風に舞う桜の花びらの下で、料理に食べて、カードゲームに興じたりした。
 チュユクポックムを食べるジェヒョクは、こちらが嬉しくなるほど美味しそうに頬張る。意外な一面だった。
 ビール程度で酔っ払うことはなかったが、俺もジェヒョクも上機嫌によく笑った。
 あの日から、俺たちは恋人同士としてつきあっている。ジェヒョクの家に泊まるのも慣れてしまっていた。
 この日も、スミンにせがまれて、俺はジェヒョクの家で夕飯を食べ、泊まって行くことになった。
 妻のことを忘れたわけではないが、ジェヒョクといると居心地が良い。長時間のフライトで消耗して帰ってきた日も、彼の爽やかな笑顔を見れば疲れが吹き飛ぶような気がするのだ。
「おまえは、俺のどこが好きなんだ?」
「えっ」
 唐突に聞かれ、俺はうろたえた。
「……ジェヒョクさんは?」
 聞き返してごまかす。
「そりゃあ、全部だ。かわいいからな」
「また、あなたはよく俺のことをかわいいって言いますが、こんな図体の大きな男を掴まえてかわいいはないでしょう」
「何言ってるんだ、かわいい、かわいい」
 繰り返されて、俺は憮然とした。
「で、おまえは?」
 ジェヒョクはごまかされていなかった。追求され、俺は目をそらす。
「……顔、ですかね」
「顔」
 彼は目を丸くした。思ってもみなかったという表情をしている。
「そうか、そうか、ヒョンスは俺の顔が好きなのか」
 一瞬考えこんだようだが、すぐにポジティブに受け取ったらしい。にこにこして俺の肩を叩いた。
 スミンが寝たあと、俺たちは寝室へ向かった。二人揃って同じベッドで寝ることに、スミンは何の疑いも抱いていないようだ。
「おいで、ヒョンスや」
 腕の中に誘われて、俺は気恥ずかしさをおぼえながら、抱きしめられた。
「明日からまた一緒に働けると思うとワクワクしてくるな」
「はい」
「そのうち、一緒にフライトするのも夢じゃない」
 そう言って、ジェヒョクは顔を傾け、俺の唇にキスをした。最初から深いキスだった。ちゅ、ちゅ、と唇を吸われ、口の中に舌を入れられる。舌を絡ませられ、くちゅくちゅ唾液をかき回されると水濡音が耳に響いて恥ずかしい。
 俺たちは激しく口づけながら、お互いの服を脱がせあった。
「今度、制服を来たままセックスしようか」
「は?」
 ジェヒョクの軽口に、俺はぎょっとした。
「やめてくださいよ、そんな冗談」
「まんざら、冗談でもないんだが……」
 これは最近知ったことだが、ジェヒョクは年齢よりずっと若く見える見た目をしておきながら、中身はオヤジくさいところが結構ある。とくに、ギャグだかなんだかわからないことを言う。
「ヒョンス、俺の操縦桿を制御してくれよ」
「また、あなたはそういうことを……!」
 俺は呆れて睨みつけた。
 ベッドの上で膝立ちになっているジェヒョクの下半身を見ると、もうしっかり勃起している。ツッコミをしておきながら、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「してくれないのか?」
 残念そうに言うジェヒョクに、俺は悔しいながらも座りこんで、彼のちんぽを片手で掴んだ。
「もう、黙っててください」
 俺はそう言って、ちんぽの先に舌を伸ばした。雁首から上をべろべろ舐め回す。さっきは言わなかったが、ジェヒョクの姿かたちと同じように、きれいな形をした立派なちんぽも俺は好きだった。
「……ん♡ ん♡」
 裏筋を舐めあげて、俺は頬を擦り付ける。
「……いやらしいなぁ」
「だから、黙ってって」
 俺が強めに言うと、ジェヒョクは肩をすくめて口を閉じた。
 俺はそれから思う存分、ジェヒョクのちんぽを堪能した。口の中に咥えて、中の粘膜をこすり合わせる。舌先で鈴口をえぐると、カウパーが出てきて味が変わる。頭を上下に振って、唇で竿を扱く。
 頭上でジェヒョクも鼻息を荒くしている。
「ん♡ んふ♡」
 俺が喉の奥まで先っぽを咥えたら、彼は手で俺の頭を押さえつけて、喉の奥でちんぽをしごき始めた。
「……ぐ、うぐ、ぐはっ」
 あまりの苦しさに吐き出すと同時に、ジェヒョクは射精した。精液が俺の顔にびしゃりとかかる。
「わ」
 びっくりして目を閉じた。
「ごめん、ごめん」
「……げほっ、ごほっ」
 慌ててジェヒョクはティッシュを取って、俺の顔を拭う。精液まみれになった俺は、ジェヒョクの匂いに包まれてくらくらした。雄の匂いだ。
 俺はたまらなくなって、自分から脚を開いた。心配しなくともジェヒョクは一度射精したあともすぐ復活出来る。頼もしい男だ。
「よしよし、いい子だ」
 ジェヒョクはそう言って、ローションを手に取った。たっぷりからませた指を俺の尻の穴にあてがう。
「……んっ♡」
 第一関節まで入れた指で浅いところでぐるぐる回して広げる。
「はぁ♡ はぁ♡」
ほぐれてきたところで、指を根元まで挿れて腹で中を撫でる。指は、最近では三本まで入るようになったが、それだけじゃ物足りなくて俺は急かす。
「も……♡ はや♡ くぅ♡」
「わかったわかった」
 ジェヒョクは子供をなだめるように言い、また固くなっているちんぽを尻の間に埋めた。
「ん、ぅ♡」
 指より固くて長いちんぽが入ってくる。身体の奥を暴かれる感触は、何度やっても慣れないが、悪いものじゃなかった。
「あっ♡ あっ♡ あっ♡」
 俺は自ら腰を揺らして、それを奥へと誘い込んだ。
「積極的だな」
 ジェヒョクは言った。そういう気分だったのだ。俺たちの関係をとてもポジティブに感じられる夜だった。
「奥まで入ったぞ」
「あ♡ んっ♡」
「乱気流に気をつけろ」
「またそういうことを言う……っ」
 オヤジギャグはセンスがないが、ジェヒョクの腰使いは巧みだった。縦に横に揺さぶられて、俺は中で思い切り感じた。とくに、奥を突くときに円を描くように捏ねられるのが、目の前に火花が散るほど気持ち良い。
「あっ♡ あっ♡ んっ♡ あぁっ♡ あっ♡」
「あんまり大声出すなよ。スミナが起きる」
「んぅ」
 俺は手のひらで自分の口を塞いだ。
 それでも喉の奥から声が引っ切りなしに出てしまう。
「んっ♡ んっ♡ ふーっ♡ ふーっ♡」
 なんとか理性を保っているところへ、突然、信じられないような快感が腹を突き上げてきた。
「!」
 ジェヒョクが下腹を撫でている。
「わかるか? 俺のちんぽ、ここまで入ってるのが」
「ひっ♡♡♡」
 トントン、と指で下腹の膨らんだところを叩かれ、俺は感じすぎて涙を流した。
「それ……♡ だめ♡ だっ♡」
「これか?」
 また、トントン、と指で叩かれる。
「ひぃっ……っ♡♡♡」
 声も出ないほど感じてしまった。
「イクぅ♡♡♡」
 俺は喉の奥で呻いて、中で絶頂に達し始めた。全身が硬直して、ビクビクと痙攣する。
「……ふっ♡ う♡ ……うぅっ♡」
 長い絶頂を極めて、俺はのけぞった。
「大丈夫か? 副操縦士」
「機長……♡」
 心配そうにジェヒョクは上から顔を覗き込んだ。
「だ、……だいじょぶ、じゃない」
 俺は必死で答えて、彼にしがみついた。
「うっ、あまり締めつけないでくれ」
「そんなの♡ 無理っ♡」
「うぅっ」
 ジェヒョクは低く呻いて、精液を俺の腹の奥に注ぎ込んだ。
「あ、あぁ……っ♡♡♡」
 それがとどめになって、俺はとうとう白目を向いて気を失った。

 その夜の一週間後からジェヒョクは空港で勤務を開始して、その日フライトに出ていた俺とは顔を合わせることはなかった。
だが、お互いの温もりは残ったままだから。
 空の旅はもう何の心配もない――――。

おしまい

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