何年かぶりにパク・ジェヒョクと同じ飛行機に搭乗した。フィリピンのマクタン・セブ国際空港発だった。機体は順調に飛行し、予定時間ぴったりに着陸した。
通常通りの安全な運行だったが、
「最高のフライトだったな」
と、ジェヒョクは着陸後、上機嫌で呟いた。
「えぇ、そうですね」
俺は肯いて答えた。
その後空港で他の乗務員たちと移動していたときだった。通路で突然ジェヒョクに腕を引かれた。
「えっ」
驚いて声を上げる間に、あっという間にトイレの個室に引きずりこまれたのだった。
「なんですか、いったい」
男子トイレの個室に男二人入って鍵を締めるなんて非常識なことをされて、怒るより驚きのほうが先に来た。
「機長!」
「しっ」
ジェヒョクは悪びれずに笑顔を浮かべ、口元に人差し指を立てる。
「静かにしろ、怪しまれるぞ」
「怪しいのは確かでしょうが」
俺は声を潜めつつ、言い返す。
「いいじゃないか、フライトは終わったんだ。これから家に帰るだけだろう?」
「そうですけど……」
口ごもる俺に、いきなりジェヒョクが顔を近づけてきた。
「うわ」
彼のハンサムな顔にはいつまでたっても慣れない。思わず見とれているうちに、唇が触れた。
「んっ」
強く吸われる。
「ちょ、こんなとこで、んむっ」
喋ろうとしたら、口の中に舌を入れられた。乾いた口の中をべろべろ舐め回される。
「……ふ、ぅっ、はぁ……っ」
俺は背中を壁に押し付けられての激しいキスに全身の力が抜けてしまう。ジェヒョクが満足する間に、抵抗する気がなくなってしまった。
「ずっとこうしたかった。何日ぶりかな?」
ジェヒョクはようやく口を離して、言った。
「さぁ……、このところ忙しかったですからね」
「そうだ。でも、ヒョンスとのフライトは最高だった」
こんなところでそう言われて、どんな顔をしていいかわからない。困惑していると、もう一度唇が近づいてきた。キスの続きが始まって、俺は諦めてもう受け入れることにした。
舌を絡ませあい、すりすり擦り合う。
どちらのものかわからない甘い唾液を飲み込む。貪り合うようなキスの間に、俺は言った。
「そんなに……セックスしたいなら……っ、んむっ、……空港の外へ出てから、すればいいのに……っ」
すると、何故かジェヒョクはきょとんと目を丸くしていた。
「え、どうし……」
「ここでセックスしていいのか?」
「え? あ!」
俺はてっきりジェヒョクはここでセックスしたいのかと思いこんでいた。だから憤慨していたのだが、どうやらジェヒョクはキスをしたかっただけらしい。
「あぁぁ」
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
これじゃ俺がフライト明けのセックスを楽しみにしていたことがバレてしまったじゃないか。
しかしジェヒョクはポジティブに俺の言葉を受け取っていた。
「そうか、ヤッていいのか。じゃあ早速……」
俺のベルトに手をかける。
「ちょっ、待っ……」
俺は慌てて、抵抗する。
「待ってくださいっ、やっぱりここじゃまずいです」
「そんなこと言っても、おまえのおかげでこんなになってるんだ」
「えっ」
ジェヒョクは下半身を俺の太ももに押し付けてきた。
制服の上から固くて熱い感触が当たる。
「あ……」
どうして俺のせいなのかわからないが、ジェヒョクが勃起してしまったことは確かだった。
「だから、な?」
魅力的な微笑みで甘えられ、俺はほだされそうになったが、理性を保った。
「俺が、口でしますから」
そう言うと、ジェヒョクは目を輝かせた。
「……そうか?」
いいアイディアだと言わんばかりに、今度は自分のベルトを外し始めた。カチャカチャと音がして、制服のスラックスを下着ごと引き下ろし、彼の立派なちんぽが空気に晒された。
俺はしゃがみこんで、屹立の前に顔を持っていく。
さっさと終わらそう。
そう思って、先っぽに吸いついた。
「……んっ、……んっ」
唇で竿を挟んで扱く。
フライト明けでシャワーも浴びていないのだから当たり前なのだが、いつもより匂いがきつい。濃い雄の匂いがする。
「……ふっ」
俺はそのせいで興奮してきた。
身体が熱く火照ってくる。
「うっ」
驚いたのは、ジェヒョクが靴の先でしゃがんだ俺の股間を触れてきたからだ。
「んっ、何す……っ」
ぐいぐい靴の先で押される。乱暴な動作にも、敏感になっていた俺のちんぽは反応してしまう。
「おまえのも固くなったな」
ジェヒョクは嬉しそうに言って、俺の口からちんぽを引き抜いた。
「あっ」
「やっぱり我慢できない。挿れさせてくれ」
「えっ」
ジェヒョクは俺を立ち上がらせると、後ろを向かせた。ウエストに手をまわしてベルトを引き抜かれる。
「壁に手をついてくれ」
「…………ほんとにやるんですか?」
俺は怪訝な顔をしながらも、言われたとおり壁に手をついて、裸に向かれた尻をジェヒョクに向かって突き出した。
制服同士でこんな格好をしていることが後ろめたい。
「ははっ、旅の間、おまえのでかい尻が愛おしくてたまらなかったよ」
なにかさりげなく失礼なことを言われた気がしたが、それより彼がポケットから何かを取り出したほうが気になって尋ねた。
「なんですか、それ」
「これだよ」
ジェヒョクが手のひらの上に見せたのは、一包のコンドームだった。
「な、なんでそんなもの持ってるんですか、機長!」
「これは中にゼリーがついてるやつなんだ」
「人の話聞いてます?」
全然聞いていないジェヒョクは、その包を口に咥えて歯で引きちぎると、中から出てきたコンドームを指に装着した。
「えっ?」
驚く俺の尻の間にその指を差し込んで、ぬるついたゼリーを使ってほぐし始めた。
「あっ♡ あっ♡」
「声は出すなよ」
「そ、んなこと、言ったって」
ゼリーは潤滑剤にするにはじゅうぶんで、ジェヒョクの指がいともたやすく中へ入ってしまう。
「あんっ♡ あっ♡ んんっ♡」
一本、二本、と指を増やされて、中でぐにぐに掻き回された。
「そろそろいいか」
ジェヒョクはそう言って、指を引き抜くと、かわりに自分のちんぽを俺の尻へあてがった。
「ん♡ うぅ♡」
大きく固いものが入ってきて内蔵を圧迫する。俺は久しぶりの感覚に喉の奥で呻いた。飢えていた身体が満たされる感じがする。
「動くぞ」
「あっ♡」
ジェヒョクは激しく腰を打ち付け始めた。肉を打つ乾いた音がトイレ内に響き渡る。
「あっ♡ あっ♡ あんっ♡」
まるで後ろから無理やり犯されているようで、俺はひどく興奮した。
「あっ♡ だめっ♡ いいっ♡ あっ♡ あっ♡」
声は押さえているつもりだったが、それでも止まらなかった。ジェヒョクのちんぽの先が奥に当たると頭の芯が痺れて何も考えられなくなる。
「あっ♡ 機長♡ 好きっ♡ 好きぃっ♡」
「セックスがか? それとも俺か?」
「ど、どっちも好きぃっ♡♡」
あられもないことを言って盛り上がっていたその時、誰かがトイレに入ってくる音がした。
「…………!」
俺たちは動きを止めて押し黙った。
入ってきた男は、小便をしているようだ。
用を足してさっさと出ていってくれ、と願っていると、信じられないことに、ジェヒョクが腰を動かし始めた。
「!」
奥でこね回すように動かすので、俺は腹の底が切なくなって、壁にすがりつくようにして耐えた。
「……っ♡♡ ……っ♡♡♡」
声を上げて喘ぎたい衝動をなんとか抑える。
小便を終えたらしい男は、手を洗って、こちらには全く気づかずに無事出ていった。
「……行ったな」
十分間を置いてつぶやいたジェヒョクに、俺は涙目で振り向いた。
「機長の意地悪っ」
「うっ、かわいいな。もっと意地悪したくなる」
「えぇっ」
何がジェヒョクを煽ってしまうのか俺にはわからない。
しかしジェヒョクはますます興奮して、俺の腰を押さえつけて、猛ったちんぽを叩きつけた。
「あっ♡ あっ♡ んっ♡ ふっ♡ あんっ♡」
激しく揺さぶられた。乱気流にほどがある。
「い♡ イクっ♡ イッちゃうっ♡」
「いいぞ、俺も限界だ」
ジェヒョクは、片手を伸ばして俺のちんぽを握った。
「あっ♡」
腰を打ち付けられながら、性急に扱かれる。
「あっ♡ それ♡ だめっ♡ あっ♡ あ――――っ♡♡♡」
ジェヒョクの手のひらの中に精液をこぼす。
俺はゆるく射精しながらナカでもイッてしまった。
「うぅ……っ♡ う……っ♡」
快感が強すぎてつらい。
「うっ、副操縦士っ」
ジェヒョクは、最後に思い切り奥まで突いて、射精した。腹の中に溜まっていた濃い精液がびゅるびゅる注がれるのを感じる。
足りなかったものを補充されるような感覚。
求めていたのはこれだ。
「あ……っ♡ 機長、気持ち良かった、です……♡」
「な、最高のフライトだって言っただろ? 副操縦士♡」
「またそういうことを……」
俺は彼の唯一の欠点であるギャグセンスについて、溜息をついた。それはともかく。
トイレの中で、全然ロマンチックじゃないけれど、俺はたっぷりとした幸せを感じていた。
おしまい