悪い癖

 ハン理事はいつも良い匂いがする。
 高級な香水をつけているのはもちろん、部屋にはアロマキャンドルが焚かれている。
 わたしには香りの名前などわからないが、どの香りも好きだった。

「これはフランスの新進気鋭の調香師に作らせたんだ」

 そう言ってハン理事が首筋につけた香水を嗅がせるのは、近づいて良いという合図だ。
 近づいて、すんすん匂いを嗅いでいる間に、ハン理事はくすぐったそうに肩を竦める。
 そうしたら自然とキスをする流れになる。
 
 夜だけでなく、たまに誰もいないときに、ハン理事はそのような悪戯を仕掛けてくる。
 仕事の合間に、ほんのひと時戯れるのは、頭の切り替えが難しい。
 熱烈にキスしたあと、ふぅ、とハン理事はひと息ついただけで仕事の電話に出られるからすごい。セレブリティというのはそういうものなのだろう。

 その日、ハン理事は朝から、室内ジムのランニングマシンで走っていた。
 高校生の頃から体型が変わっていないらしいが、肉がついた気がすると、運動をするようにしているという。
 わたしはタオルを持ってその様子を眺めていた。
 Tシャツにスパッツというカジュアルな格好が拝めるのも珍しい。
 それに、上気した頬に、弾む呼吸は、健康的というよりも夜のそれを思い起こさせる。
 わたしは不埒な考えを頭から振り払うことに努めた。

 汗だくになった理事は、きっかり一時間で走るのを止めた。

「はぁ、久しぶりだときついな」

 つぶやきながらこちらに近寄ってハン理事はわたしの持っているタオルに手を伸ばした。

「お疲れ様でした」

 汗を拭いて差し上げようと、わたしも一歩踏み出した。
 と、近づくと、ハン理事の汗の匂いがわたしの鼻先を掠めた。
 そしてつい、まるでいつもの香水を嗅ぐようにすんすんと近寄って首筋に鼻を埋めてしまった。

「わっ、おまえ!」

 ハン理事は驚いていた。
 それはそうだ。犬じゃあるまいし、他人の匂いを嗅ぎまわるなんて無礼でもってのほかだ。
 なのに、わたしは止められなかった。
 首筋から、脇から、汗臭い匂いをすんすん嗅いで、しだいに身をかがめ、ハン理事の腰のあたり……つまり汗だくのスパッツを履いた股間に鼻先をつけてすんすん匂いを嗅いだ。

「なにしてんだ! こら! セッキャ!」

 激しく怒られて、わたしはハッと我に返った。

「し、失礼しました。つい、良い匂いだったもので」
「はぁ????? おまえは変態か?????」

 変態かもしれない。そうかもしれない。初めて自分のことをそう思った。
 
 見れば、ハン理事は真っ赤な顔をしていた。耳まで真っ赤だ。

「おまえ、しかも勃起してるじゃないか」
「あっ」

 バレてしまった。

「大変申し訳ございませ……」
「くそっ、仕方ないやつだな。まだ朝だぞ。また寝室に戻るのか?」
「えっ、良いのですか?」
「勃ったものは仕方ないだろう? つきあってやるから来い」
「はい!!!!!!」
 
 調子に乗ったわたしは、ついでにお願いをしてみた。

「あの、シャワーを浴びないでいただけますか?」

 すると、ハン理事は恥ずかしさと興奮の入り混じった表情で、こちらを睨みつけた。

「バカっ! やめろってぇ」

 男二人が乗っても十分余裕のある大きさのベッドの上で、脇を舐めるわたしにハン理事は抗議の声を上げた。
 しかしわたしは無視して、夢中で、殆ど毛のないきれいな脇をぺろぺろ舐めた。
 脇だけではなく、ハン理事の体は元からなのか脱毛しているのかわからないが体毛が薄い。だから舐めるのに迷いはいらない。

「も、舐めるなよぉ」

 珍しく弱々しい声で、ハン理事は言う。
 わたしは脇の凹凸を舌で確かめるように舐めながら、濃い汗の匂いを嗅いでいた。
 自分でもこんなフェティッシュな趣味があると知らなかったが、ひどく興奮する。

 脇を舐めるのに満足したわたしは、今度は下半身の薄い茂みに鼻を埋めた。

「あっ、ケーセッキャ!」

 思わず口が悪くなるくらい恥ずかしかったのだろう。
 ハン理事は両腕で顔を隠してしまった。
 恥ずかしさに慄く顔も見たかった強欲なわたしは言う。

「恥ずかしいのが良いんでしょう? 理事も、すごく興奮していらっしゃる」

 茂みの下のちんぽは固く勃起して、触ってもいないのに先走りをだらだら流している。

「ち、ちが……」
「ちがくないですよ。とても気持ちよさそうです」
「あぁっ♡」

 わたしはすんすん茂みの匂いを嗅いだ。

「やめろよぉ……」

 ハン理事は涙目になっていた。真っ赤になった下瞼がかわいらしい。
 あまりいじめすぎてもいけないな、と反省して、震えて待っているちんぽに舌を這わせた。

「ひっ♡ だめっ♡ あっ♡ あっ♡ んっ♡ くっ♡」

 根元から雁首に向けて竿を舐め上げる。

「あっ♡ あっ♡ んんっ♡ ふっ♡ あんっ♡」

 先端を唇を押し付けるようにしながら舌でくすぐる。

「あんっ♡ バカ♡ バカバカバカ♡♡♡」

 弱々しい声でなじられて、わたしは余計に奮い立たせられた。
 ハン理事は、人のちんぽを舐めるのは好きなくせに、自分のを舐められるのは弱いようだ。脚を伸ばして硬直させている。射精が近い。

 わたしは先端をぱくっと咥えて、鈴口を舌でぐりぐりと刺激した。

「あぁぁっ♡ あんまり……きついと出せない、からぁ♡」

 刺激が強すぎると射精できないということらしい。
 気持ち良いのに射精できないつらさに、ハン理事は頭を横に振って耐えていた。

「出したいですか?」
「んっ♡ 出したいっ♡ 出したいぃ♡」

 わたしは咥えた唇で根元から強く扱き始めた。

「あぁぁっ♡ あぁっ♡ 出るっ♡ 出ちゃうっ♡♡♡」

 ハン理事はそう言いながらわたしの口の中に射精したので、その粘つく精液を全部飲んで差し上げた。

「はぁ……おまえ……飲んだのか……?」
「いつも理事はそうしてくださるじゃないですか」
「それとこれとは違うだろ、……もう、バカ」

 ハン理事はむぅっと口を尖らせた。
 この時折見せる幼い表情は、わざとやっているのかなんなのか。
 とにかくわたしの欲情を煽るものでしかない。

 わたしはハン理事の脚を大きく開かせて、尻たぶの間で小さな穴がひくひくしているのを確かめた。ベッド脇からローションを取って、上からたっぷり垂らし、指の腹でシワのひとつひとつを伸ばすように塗りつける。

「うっ♡ は、はやく♡」
「はい、失礼します」

 わたしはデカマラをハン理事の尻の穴にあてがい、一気に中へくぐらせる。

「んんっ♡ あぁ♡ でっかい……♡」

 腹の中を満たされたというように、ハン理事はため息をついた。

「ここまで入ってるのがおわかりになりますか?」
「うん……♡ あっ♡ いきなり♡ 動くなっ♡」

 奥まで入ったところを、ギリギリ抜けそうになるまで腰を引いて、また一気に奥まで貫く。前立腺より奥のほうが感じるとはいやらしい体だ。わたしは下から突き上げるように腰を使った。

「あっ♡ あはっ♡ んっ♡ あぅっ♡ あんっ♡ あぁっ♡」

 奥を突くたびにハン理事はとろけるような声を上げる。
 
「あぁっ♡ んっ♡ いいっ♡ きもちいいっ♡」

 ハン理事は熱に浮かされたように喘ぐ。
 わたしは奥をえぐるように、腰を回した。

「あぁっ♡ それっ♡ いいっ♡ すごいっ♡ イッちゃう♡ イクぅ♡」

 ハン理事は襲い来る絶頂の波に飲まれた。

「はぁっ♡ あっ♡ あぁぁ♡♡♡」

 ナカでぎゅうぎゅう締め付けられて、私も射精感がつのる。 

「うっ、わたしもっ」

 搾り取られるように射精した。

 うとうとしている間に、ハン理事がぼそぼそ隣で喋っていた。

「もー、おまえが変態だってことはわかったからな」

 低くかすれる声で、言い聞かせるように言う。
 よく見れば、わたしに向かって話しているのではない。
 わたしのデカマラに向かって喋っている。

「……それ、悪い癖ですよ、ハン理事」

 わたしは言った。
 ハン理事は、終わった後によく、わたしのデカマラに向かって喋りかけるのだ。
 
 しかし、ハン理事は意に介せず言い返す。

「おまえに言われたくないぞ!」

 さて、どっちが悪い癖か……。

おしまい

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