数年に一度、バカが現れる。
うちの財産を持ち逃げしようとしたりとか、邸に盗みに入ったりとか、そういう奴らだ。
とくにとんでもないバカは、俺を誘拐しようとする奴だ。
そのとんでもないバカが、久しぶりに現れた。
俺が仕事の帰りに、銀座の某ブランドショップに寄って、顔見知りの店員と話をし、旅行用のトランクを予約していった帰りのことだ。
今の邸はかなり郊外にある。
だから人気のない道路を俺の乗った車だけが走ることも多いのだが、その日は業務用の白いバンが前方に止まっていた。
「何だ? 事故か?」
「そのようです」
気づいて声をかけると、運転手が平坦な声で答えた。
白いバンの運転手らしき男が、両手をぶんぶん振り回してこちらに合図をしている。
助けてほしいのだろうが、こちらに助ける筋合いはない。
「無視して行け」
「はい」
俺の命令に従って、通り過ぎようとしていた車の前で、突然故障していたと思われた車が動き出して道を塞いだ。
急ブレーキのせいで、ガクンと車が揺れ、頭をぶつけそうになってしまった。
「失礼しました! ハン理事、大丈夫ですか!?」
「あぁ。どういうつもりだ? あの車は」
「さぁ……、ちょっと見てまいります」
運転手がドアを開けると、立って助けを求めていた男の他に、バンの中から男が三人出てきて、俺の車のまわりを囲んだ。
「?」
咄嗟に運転手が一度開けたドアを締め、懐の銃を触ったのが見て取れた。
俺も身構える。
すると後部座席の窓を外から割られた。強化ガラスなので粉々になって砕けた。
男が割れた窓から手を入れ、ドアを開ける。そして俺を外へ引きずり出そうとした。
運転手をしていた部下は、もうためらいもなく男に向かって引き金を引いた。
「うわっ」
弾は腕に命中したらしく、俺を掴もうとしていた男は地面に倒れてのたうち回った。
「おい、撃ってきたぞ」
「うそだろ!?」
他の男たちが慌てふためいている。
俺はその間に、車から降りた。
「ハン理事、危ないので中に入っていてください」
「いや、いい。それ以上は無用だ」
「えっ」
驚く部下を制して、俺は白いバンに向かって歩いていった。
「わっ、こっち来るぞ」
「何なんだ!」
怖気づいている男たちを一瞥して、俺はバンの後部座席を開け、中へ乗り込んだ。
「えぇっ!?」
男たちは目を白黒させて、俺と部下の方を繰り返し見る。
俺は銃を構えている部下に向かって、シィっと人差し指で合図をした。
意図の通じた部下は呆れた様子で銃を下ろす。
「おい、おまえら、俺を誘拐しにきたんだろ? 早く車を出せ」
「は、はいっ」
そうしてやっと誘拐犯になった男たちは、全員バンに乗り込んで、邸とは反対方向へと走り出した。
誘拐犯の一人は腕を負傷したので一番うしろで横になって呻いている。そいつをどうにか手当しようとしている男と、車を運転している男、そしてもう一人は俺の横に座っていた。
見れば、30代くらいの男たちだ。どうせ借金で首が回らなくなって愚かな犯罪を思いついたのだろう。
隣に座った男が、おそるおそる俺に話しかけてくる。
「あんた、ホギョン学術財団のハン理事で間違いないな!?」
「あぁ、合ってるよ。誘拐相手を間違えるほどバカではなかったようだな」
「なんだと!?」
気色ばんだ男を睨みつける。
「せっかく誘拐されてやったんだぞ。なにか文句あるのか?」
「え、あ、ありません……」
相手は調子が狂った様子で、しおらしくなった。
「さて、どこへ連れてってくれるんだ。おまえらのアジトか?」
狭い座席でくつろいだ俺がたずねると、彼らは黙って交互に目を見合わせていた。
さて、俺が誘拐されて、邸ではどんな騒ぎになっているだろうか。
俺は胸ポケットに入っているカードリーダー型GPSをちらりと目で確認しながら、車の走るままに身を任せていた。
アジトは20分ほど走ったところにあった。
珍妙な形をした家だった。
入口にはゲストハウスと小さく書いてあったが、このような施設に入るのは初めてなので、標準的なものかどうかわからなかった。
小さなホテルのようなものだろうか。
確かに俺が案内された部屋は、小さなベッドとデスクだけがあった。
男たちはひそひそ話し合っている。何かと思えば、俺に向かってガムテープを突きつけてきた。
「すいませんけど、縛らせてもらいます」
運転手だった男が、申し訳なさそうに言う。
「あぁ、なるほど。そういえばそうだな」
俺は両手を後ろにして、手首にガムテープを巻かれた。両足も同様に縛られた。
そしてベッドの上に転がされ、人質らしくなった。
ようやく体裁が整ったところで、誘拐犯たちはほっとしたようだ。
怪我をした男を覗いた三人で、身代金要求の準備を始めている。
その時だった。
「手を上げろ。抵抗するなら即座に撃つ」
その堂々たる銃の構え方に、警察かと思って誘拐犯たちは飛び上がった。
しかし、警察ではない。
ぞろぞろとアジトに入って来たのは、俺の優秀な部下たちだった。
その先頭で指揮を取っているのは、もちろん”あいつ”だ。
俺はベッドの上で、口元が緩むのを止められなかった。
「ハン理事、ご無事ですか?」
かけつけた部下たちに、俺は頷いた。両手両足のガムテープを剥がしてもらう。
自由になった俺の目の前に、あいつがやって来た。
この瞬間のために、わざわざ誘拐されてやったんだ。
「お怪我はありませんか?」
無表情で、俺を見下ろしてくる。
「?」
なんだか思っていたのと違うが、さすがに、人前で抱きしめるなんてことはするはずがないか。俺はちょっとがっかりしつつ、平静を装う。
「ない、大丈夫だ」
「では、ご自身で歩けますか?」
「……縛られて痺れたから、歩けない、かも……」
そう言うと、彼は無言で、私の体の下に腕を差し入れた。
しっかりホールドされた瞬間、持ち上げられる。
「わ、ちょっと、これは……」
お姫様のように抱っこされて、部屋から運び出される。
いくら甘えたからといって、これは恥ずかしくなって目を閉じた。
その後、車に乗せられ、邸まで帰ってきた。
誘拐犯の四人がどうなったかはよく知らない。まぁどうでもいい。
その日から、あいつの様子がどうもおかしい。
俺を見る目が冷たい。
仕事は普通にしているが、俺のことを避けているような気さえする。
まさか、そんなはずは……と思って、仕事が終わった後、寝室に来るように命じた。
さすがに命令には逆らわない。
寝室に入ってきた彼は、仕事のままの黒スーツ姿だ。
「シャワーを浴びてこい」
そう言うと素直に浴室に歩いていった。
良かった。俺の気の所為だったようだ。
俺は先に風呂に入っていたので、バスローブ姿でベッドに座って待っている。
同じバスローブを着て出てきた彼は、見惚れるほど男前だった。
俺はうっとりしながらたずねる。
「俺が誘拐されたとき、心配したか?」
そりゃ当たり前にするだろう、と思ったが、あえて聞いた。
「えぇ、それはもう」
彼は答えた。
「でもすぐに、貴方がわざと囚えられに行ったと知って、腸が煮えくり返りました」
「えっ」
「あ、運転手が喋ったのか!?」
俺は焦った。秘密にしろと伝えたのに。
いや、今はそれどころじゃない。
「つまり……怒った、ということか?」
俺の前に仁王立ちで立っている男を下から見上げる。
「えぇ。貴方にこんなに腹が立ったのは初めてです」
「ちょっとしたイタズラのつもりだったんだ。おまえならすぐに駆けつけてくれるだろうと思って。現に、すぐ助けに来てくれただろう?」
言い訳を並べ立てる。
すると、彼は一段と低い声で言った。
「イタズラなら、お仕置きが必要ですね」
冷ややかな目つきで見下され、俺は恐怖と同時に腹の底がきゅん♡と疼くのを感じた。
「た、たすけ、て」
全裸で手足をガムテープで固定され、ベッドに転がされながら、尻の穴に極太バイブを突っ込まれていた。
彼はバイブを持って、俺のナカの気持ち良いところに当てようと調整するものだから、俺の体は意思に関係なく感じてしまう。
びりびりと脳まで痺れる快楽を感じている。
ところが、捌け口であるちんちんは結束バンドで根元を縛られ、射精を禁じられている。
「ひ、ひどい、こんな」
誰にもされたことがないプレイだった。
気持ちいいのに苦しくて涙が出る。
いつもはバイブなんて使わないのに。
「射精しなくても構わないでしょう? 貴方なら」
そう、いつもだって射精より、ナカの刺激でオーガズムに達することのほうが多い。
けれど、玩具で強制的にイかされるのは苦しくてひたすら体力を消耗する。
「も、いきたくないっ。くるし……あっ♡ またっ♡」
兆候を感じて、俺はぎゅっと目をつむった。
「あ♡ あ――――っ♡」
背中をのけぞらせて絶頂を極める。
もう何度目だかわからない。
大声を出しているせいで、喉もカラカラだ。
「……や、もう、助けて、くれ」
俺にのしかかってバイブを動かしている男に向かって懇願する。
彼は言う。
「本当は、誘拐犯たちにこうされたかったんじゃないですか?」
「えっ、ちが」
「えっちな理事のことだから、このくらいじゃなきゃ満足できないんでしょうね」
「ちがうってば。や、やだぁ」
またバイブで奥をぐりぐりされて、気持ちよくて泣き声を漏らしてしまう。
「いやなのにぃ、なん、なんでっ、うっ」
俺はぐすぐすと泣きべそをかいて、なんとか彼の注意を引こうとした。
いつもみたいに、普通に抱いてほしい。
あわよくば、俺の無事を喜んで、熱烈に抱いてほしかっただけなのに。
こんなに怒ると思わなくって、後悔した。
「なんで? 俺が、どれだけ心配したと思うんですか。貴方が拉致されて、傷つけられでもしたらと思って……」
言葉に詰まって下唇を噛む彼に、俺はハッとした。
自分が思うより、強く想われていたんだと知って、胸を打たれた。
「悪かった。俺が悪かった。反省している。だから、もうこんなのじゃなくて、おまえのでっかいちんちんをくれ。頼むから」
「ハン理事……」
彼は怒りが収まったのか、俺を潤んだ目で見つめた。
冷たい光はどこかへ消えていった。
バイブをゆっくり抜いて、かわりにでっかいちんちんを突きつけてくる。
「……ご無事で……良かったです」
性急に挿入すると、ぎゅっと両腕で体ごと抱きしめられた。
これだ、これが俺の欲しかったものだ。
嬉しくて、つい顔が緩んでしまった。
にこにこした俺を見て、彼はまた真顔になった。
「……本当に反省してますか?」
「えっ」
「またやろうとか思ってませんよね?」
「思ってない! 思ってないぞ!」
俺は慌てて否定する。
まだ手足(とちんちん)は拘束されたままで、身動き取れない。
「ほどいて……」
言いかけた俺は、再び彼の表情が冷たく曇っていることに気がついた。
怒りがぶり返した!?
それと共に、ナカにあるでっかいちんちんが、さらにでかくなるのを感じた。
「あっ♡ どういう……」
どういうシステムでそうなるんだ?と思った直後、彼は腰を動かし始めた。
「ハン理事っ、わたしがっ、どれだけっ」
「あっ♡ あっ♡ いきなりっ♡」
思い切り奥を突き上げられて、俺はまたイきそうになった。さんざんイかされたので、スイッチが緩くなっているのだ。
と、その時、サイドテーブルに置いてあったスマホが震えた。
どっちのスマホだ? 俺のじゃない。じゃあ彼のだ。
彼は腰の動きを中断し、片手を伸ばして着信を止め、ふと何かを思いついたように固まった。
「なにを……?」
「ハン理事、証拠を残しておきましょう」
「え、どういうことだ?」
彼は再び腰をゆっくりグラインドさせながら、片手でスマホを操作する。スマホの裏面をわたしのほうに向ける角度でわかった。
「おまえっ、撮ってるのか!?」
「はい、ハン理事が反省しているところを残しておきたいので動画を撮っています」
「や、やめ……やだぁっ!」
拘束されて犯されているところを真正面から動画撮影されて、ひどく動揺した。
今まで、誰にも、写真だって撮られたことはない。
撮影されるのがまさかこんなに恥ずかしいことだとは知らなかった。
「あっ♡ やだっ♡ 恥ずかしいっ♡ こんなっ♡ こんなのっ♡」
腰をリズミカルに動かされ、揺れる結合部から顔まで小さなレンズが舐めるように撮る。
こんな動画をネットの海にばらまかれたらどうしよう!?
考えただけでむちゃくちゃに恥ずかしくて、それが頭の芯まで痺れるほど気持ちいい。
「あんっ♡ やぁ♡ んっ♡ 動くなっ♡ きもちい♡ からぁ♡」
「気持ちいいだけですか? わたしの気持ちをわかっていただけましたか?」
「あぁっ♡ んっ♡ わかった♡ おれがわるい♡ すまなかった♡」
「謝っていただいて恐縮です。じゃあカメラに向かって、二度としないと誓ってください」
容赦なく責め続けながら、彼はカメラを俺に向ける。
「あぁんっ♡ はんせー♡ してるぅ♡」
「それならほどいて差し上げましょう」
彼は俺のちんちんを縛っている結束バンドに手をかけた。
「あっ♡ あっ♡ ごめんなさ♡ にどと♡ しないからぁっ♡♡♡」
結束バンドが外された瞬間に、びゅるるると溜まっていた精液が飛び出し、同時にナカでも絶頂を極めた。
「あぁぁぁぁっ♡♡♡」
俺はカメラの前であられもなく、白目を向いて失神してしまった。
手足の拘束が解かれ、TVの大画面でさっきの動画を再生され、それを見せられながらもう一回戦した。
くたくたになった後、すっかり機嫌の治った彼にスマホを渡された。
「わたしが悪用・流出しないように、ここで壊してください」
「……証拠を残しておかなくていいのか?」
「ハン理事を信じておりますから」
笑顔でそう言われ、俺はスマホを床に投げ落とすと、靴の踵で思い切り蹴り潰した。
紳士的な男ほど、怒らせると恐いものだな。
知らなかった一面を見られて、俺はますます深みにハマってしまったように思えた。
おしまい
