昨日は夜遅くまで残業だった。
昼過ぎに起きて、飯を食べに台所に行くと、母親が掃除をしながら言った。
「お隣、ヒョンサンお兄ちゃん帰って来てるわよ」
その一言で、俺の心臓は跳ね上がった。
「えっ。ほんと?」
「嘘言ってどうするのよ。良かったわね、随分帰ってきてなかったものね。昔はよく遊んでもらったじゃない?あんたも、ピアノのお兄ちゃん、お兄ちゃんって……」
最後まで母親の言葉を聞かずに、俺は自室への階段を駆け上がった。
カバンをベッドの上に放り投げて、壁に立てかけてある姿見を見た。
仕事疲れが全身から見て取れる。せめて乱れた髪は直しておこう、と手ぐしで整える。
彼に会うとき、容姿を気にするのは、彼があまりに美しいからだ。
幼い頃は、そんなに意識しなかった。
よく手を繋いで、犬の散歩を一緒にしたものだ。
思わず思い出に浸りそうになって、はっと現実に戻った。
ネクタイだけ取って、そのまま家を出た。
隣の、俺の家とは格差がある立派な家の玄関の前に立つ。
ベルを押すと、中から人の出てくる気配があった。
「ギュナマ!」
ドアが開いて、中から彼が勢いよく飛び出してきた。
「久しぶりだ、ギュナマ! 会いたかったよ」
両腕で抱きしめられて、俺は硬直した。
鼻先に、彼―――イ・ヒョンサンの整髪剤が香る。こんなに小さかったっけ?
俺は、普段自分が筋トレに精を出していることも忘れて、彼の腕の細さにも驚いた。
頭の中で思い描いていたより、小さくて華奢だ。
そっと、抱きしめ返そうか迷っていたところ、ヒョンサンはぱっと手を離して俺から離れた。
「あっ」
「こんなところに立ってないで、早く中へ入れ」
「は、はい」
俺は数年ぶりに、ヒョンサンの家の中へ入った。
家の中も良い香りがする。
スリッパを履いて、リビングに入り、ふかふかのソファに座らせてもらった。
地下の練習室もあるが、リビングにも、グランドピアノが置いてある。
昔はよくこのピアノを弾いてもらった。
今、ヒョンサンはプロのピアニストとして、世界をまたにかけて公演している。なんとかいう世界的なコンクールで優勝したため、兵役も免除された。拠点は留学していたロシアに置いているため、韓国に帰ってくるのは数年に一度だ。
「前に会ったとき、おまえが美味しいと言っていたクスミティーを用意していたよ。呼ぶ前に来てくれて良かった」
ヒョンサンはにこにこして向かいに座って紅茶を淹れる。
彼の動きはいちいち優雅だ。
お湯を注ぐ手の動きに見とれてしまう。
この手が、この指が、鍵盤に触れれば、豊かな旋律を叩き出す。俺なんかが目で追いかけても追いつけないような動きで、驚くべき音を紡ぐ。
その手に、手を繋いでもらうのが好きだった。
いつもはピアノに取られてしまうおにいちゃんを独占出来ているような気がして。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……ございます」
琥珀色の液体の揺れる表面を見つめて、俺はなかなかヒョンサンの顔を見ることが出来なかった。数年ぶりに見る彼は、やはり変わらず美しくて、妖艶で、幼い頃の健やかなお兄ちゃんの面影は見当たらない。いつ頃から変わったのだろう。ロシアに留学に行ってしまってからだ。卒業後、里帰りした彼は、別人のように感じられた。
「旅行会社に就職できたらしいじゃないか。前に来たときは、入隊する直前で大変そうだったが、すっかり一人前になったな。でも、ちっとも変わらないな、ギュナ厶は」
頭の中を見透かされたように、ヒョンサンはカップを口に運びながら言った。
「まさか。子供の頃からは変わってますよ、俺も」
「そうかな? 俺から見れば同じだよ。ポンゲと一緒に散歩させてた頃と」
「俺は、犬と同列だったんですか?」
真面目に聞き返すと、ヒョンサンは一瞬間を開けて噴き出し、声を上げて笑い出した。
「あー、可笑しい。まったく、可愛い奴だな」
ひととおり笑い終えて、彼は言った。
「俺は、ずっとアンタにかっこよくなったと言ってもらいたくて頑張ってるんだけど……」
思わずぼそっと呟いたら、彼は聞き流さなかった。
「ふぅん?」
「あっ、今のナシ!ナシ!……です」
慌てて否定して、下を向く。きっと顔は赤くなっている。
俺はなんてことを言ってしまったんだ。
「こっち向けよ、ギュナマ」
うながされて、俺はしぶしぶ顔を上げた。
必死で避けていたヒョンサンの顔が間近にあって驚いた。
ローテーブルの上に手をついて、上半身ごと近づいてきたのだ。
薄っすら笑みを浮かべたヒョンサンがこちらを見つめている。
俺は真顔で見つめ返したけれど、内心はめちゃくちゃに焦っていた。
「おまえは、俺とどうしたいの?」
「えっ」
「俺と、したいことがあるって顔に書いてあるぞ」
全身から汗が吹き出しそうだった。
「べ、べつに何もありません……。何か勘違いしてるんじゃ……」
「へーそうか」
ヒョンサンは、姿勢を元に戻して、ソファから立ち上がった。
俺のまわりをゆっくり歩き回る。
「おまえはもっと男気に溢れた奴だと思っていたんだがな。言いたいことも言わずに済ませるタイプだったか」
「そ、れはその、ただ、アンタは」
「俺は?」
「アンタは、俺の、初恋だから……」
また笑われるかと思った。
ヒョンサンは俺の初恋だった。
幼い頃は、大人になったらヒョンサンと結婚するんだと息巻いていた。
周りの大人に宣言する俺を、彼もにこにこして受け流してくれていた。
それが叶わぬ恋だと知ったのは、だいぶ遅くなってからだった。
ヒョンサン本人も留学に行ってしまって、幼い頃の気持ちなんか忘れかけていた頃、彼が留学を終えて一時帰国した。
思春期真っ盛りの俺の前に再び現れたヒョンサンは、異常な色気をまとっていた。
男同士は結婚できない、なんて嘘だと思った。
「初恋?」
ヒョンサンは笑わなかった。
「それだけか?」
乾いた声で詰められて、俺は窮地に陥った。
それだけじゃない。初恋だけじゃなく、二度目もヒョンサンに恋してしまったのだ。
それ以来、ずっと夢見ている。
ヒョンサンとしたいこと。
きっと彼には感づかれていて、軽蔑されていることだろう。
気色悪いと親に言いつけられるかもしれない。
だってヒョンサンは潔癖症だから。
服についた塵ひとつ許さない彼が、俺の汚い欲望を許すものか。
「なぁ、イム・ギュナム。おまえは俺とどうなりたいんだ?」
ヒョンサンは立ち止まって、俺を見下ろした。
その高慢な表情、漂う気品、赤い柘榴のような唇に、俺は降参した。
「俺は、アンタと結ばれたいっ」
呻くように叫んだ俺に、ヒョンサンは目を細めた。
「よく出来ました」
本当に頭を撫でようとしたので、俺はその手を乱暴に振り払った。
こうなったらもう終わりだ。
ひっぱたかれて派手に振られたい。
そう思って立ち上がった俺は、ヒョンサンの細い腕を掴み、唇を奪うふりをした。
しかしヒョンサンは思ってもみなかった行動を取った。
足元にしゃがみこんだのだ。
「えっ?」
急に視界が開けて、俺は声を出した。
ヒョンサンは空いている方の手で、俺の腰のベルトを掴んだ。
「ヒョン!?」
俺が掴んでいた手首を離すと、今度は両手でベルトを外しにかかる。
「何して……?」
「ちょうど誰も家に居ない時で良かったな。まぁうちの両親は息子がたまに帰ってきても、毎日のように遊びに出かけてるんだが」
「はぁ?????」
ヒョンサンは器用にベルトを外し、ズボンのジッパーを下げ始めたところで、俺はパニックになった。
そんな俺の様子を気にもかけないで、ヒョンサンはズボンとボクサーパンツを一気に引きずり下ろした。
「ぎゃ!」
大事な局部が空気にさらされて、俺は短い悲鳴を上げた。
「おぉ」
よくわからない感嘆をして、ヒョンサンは局部に触ろうとする。
「ちょ……おい、イ・ヒョンサン!」
思わず、ずっと年上の男を怒鳴りつけてしまった。
「なんだ?」
ヒョンサンは不思議そうな顔で俺を見上げながら、自然な動作で俺のちんちんを握った。 嘘だろう……?
「アンタ、潔癖症だろ?」
いや違う、俺の言いたいことはそういうことじゃない。
けれど、そんな突っ込みしか出てこなかった。
「時と場合による」
ヒョンサンはあっさり答えて、俺のちんちんに向き直った。
そしてまるでそうするのが礼儀であるように、ゆっくりと上下に擦り出した。
「待って……ほんとに待って……」
「こっちは待てないようだぞ?」
ヒョンサンが揶揄するとおり、俺のちんちんに体中の血が集まって固くなってきた。
そりゃ、好きな子に手コキされて勃たない男がいるわけない!
体は素直に反応するが、頭も心も追いつかない。
「なんで……どうして……」
ウェーしか言えなくなっている間に、ちんちんは完全に天井を向いてしまった。
「ギュナマ、……かっこよくなったぞ」
うぅ、その言葉を言われたかったけれど、今じゃない。決して今じゃない。
「だからなんで……」
「俺と、こういうことをしたかったんじゃないのか?」
きょとんとした顔で、再びヒョンサンは俺を見上げた。
「結ばれたかったんだろう?」
「そうだけど!そうだけど!ちがくて!」
「何が違うんだ?」
聞き返して、ヒョンサンはぺろりと舌を出した。
その舌で、俺のちんちんの根元から先端まで舐めあげる。
「ひっ」
背筋を鋭い快感が駆け巡った。
俺がヒョンサンとしたかったのは熱い抱擁とくちづけだ。結ばれるってそういうことだと思っていた。もちろん、いい大人だからその先の行動も知ってはいるけれど、ヒョンサンとの間では起こり得ないと思っていた。
ところが、現実は先回りしてやってきた。
ヒョンサンは、俺のちんちんをなんべんも舐め上げる。
「はぁっ……はぁっ……待っ……無理……」
俺の言うことなんか聞く耳を持たず、亀頭にちゅ、ちゅ、とくちづける。
あぁ、その唇の感触は唇で味わいたかったのに、なんでちんちんが先なんだ。
悔し涙が滲んで、鼻をすすったのを、ヒョンサンに気づかれた。
「泣いてるのか?気持ち良くて?」
「ちが」
「それならもっと気持ち良くしてやろう」
そう言って、ヒョンサンは亀頭をぱくっと口の中に含んだ。
「わぁっ」
生暖かい粘膜に包まれて、俺の理性は吹き飛んだ。
ヒョンサンが、吸いながら唇で扱き始める快感を甘んじて受け入れた。
空いた両手で、ヒョンサンの頭を掴んだ。きれいにオールバックにしていた髪が、俺の指の間ではらはらと崩れる。
くちゅ、ぐちゅっといういやらしい水音が天井の高い部屋の中に響く。
亀頭がちょうど喉の奥に当たって最高に気持ちが良い。でもヒョンサンにしたら苦しいだろうに、平気な様子で動き続ける。
だんだんと動きが早くなってきて、俺も目の前がチカチカしてきた。
「出る……、ヒョン!出ちゃうっ、離してっ」
慌てて訴えたのに、ヒョンサンは離すどころか、思い切り喉の方へ吸い上げる。
「うぅぅっ」
俺はとうとうヒョンサンの口の中に射精してしまった。
激しい快感は数秒で過ぎ去る。
その後にすぐ襲ってきたのは、後悔と懸念。
「ヒョン!ぺってして!ここにぺってして!」
俺は萎えたちんちんを引っ込めて、両手をお椀のようにしてヒョンサンの口元に差し出した。
だが驚くべきことに、ヒョンサンは口を閉じて、ごくんと喉を鳴らしたのだ。
「えぇっ!?」
飲んでしまった。
エロ動画で見るそういうやつは、ファンタジーだと思っていた。
「飲んだの!?ほんとに!?」
「死ぬわけじゃないから大騒ぎするな」
「はい……」
冷静に叱られて、俺は項垂れた。
ヒョンサンは立ち上がり、すっかり冷めた紅茶を口の中をすすぐように飲み干した。
俺はボクサーパンツとズボンを上に上げて、ベルトを締め直す。
「ギュナマ」
「はいっ」
「続きをしたいところだが、そういうわけにもいかないようだ」
「えっ」
何事かと思ったら、外のガレージが開く音が聞こえてきた。
「両親が戻ってきたようだ」
俺は顔を強張らせた。いったいどんな表情をして彼の両親に会えばいいんだ。
その胸中を見透かしたように、ヒョンサンは言った。
「うろたえるなよ?それから、続きはまた明日にしよう。今回はしばらくソウルにいられるんだ。ゆっくり過ごそう」
ヒョンサンは人差し指を唇に当てて、しぃっと秘密のジェスチャーを作った。
ドキっとした。
一足飛びの経験をしてしまったけれど、もしかしたらこれは、夢が叶っているのでは?
ヒョンサンと結ばれて、幸せにめでたしめでたし、となるのであったらそれは手段と目的が入れ違っただけで、結果は後からついてくるのではないだろうか。
俺は一気に夢心地になってぼうっとしている間に、ヒョンサンの両親が玄関のドアから入ってきた。
「ただいま。あらまぁ、ギュナムも来てたの?」
「はい、母さん。俺が帰ってきたのを知って、顔を見せてくれたんですよ」
ヒョンサンはしれっとした顔つきで俺のほうを見る。
「おばさん、おじさん、お久しぶりです」
俺も、笑顔で挨拶した。彼らは、こころよく隣人の息子を歓迎してくれた。
俺はヒョンサンと秘密を共有していることに、気分はすっかり高揚していた。
翌日の昼過ぎ、ヒョンサンの両親が車で家を出ていくのが窓から見えた。
俺は気になってシャワーを浴び、きちんと髪を乾かして身だしなみを整えてから隣家の呼び鈴を押した。ところが返事が返ってこない。
ヒョンサンはいないのだろうか?
不思議に思って中を伺うと、ドアが少し開いていた。
「不用心ですよー」
声をかけながら、中へ入った。近所の幼馴染のよしみなら、このくらい構わないだろう。
「ヒョン? いませんか?」
リビングには誰もいない。
仕方ない、帰ろう、としたところ、二階から物音がした。
自室にいるのか?
二階は、階段の真上がヒョンサンの部屋だった。留学に行って家を出てからも、実家の部屋はそのまま残しているのは知っている。だから、ヒョンサンはホテルより、昔のベッドで寝るのを好んで帰ってくるのだ。ヒョンサンの母親が、うちの母親に嬉しそうに話しているのを聞いたことがある。
「ヒョン? そこにいるの?」
人の気配を感じて、俺は確信を持ってドアを開けた。
「ヒョン……?」
「ギュナマ!」
部屋の中には確かにヒョンサンがいた。
そしてもう一人いた。ヒョンサンは、その男の上に裸で乗り上げていた。
「誰……?」
男は、気だるげに俺を振り返った。
見知らぬ、色白の、(ヒョンサンとは違う意味で)美しい容貌の男だった。
二人が今まで何をしていたかは一目瞭然だ。
俺は胸が張り裂けそうに痛くなった。
「ウミナ、ちょっと止まって」
ヒョンサンは彼のことをウミナと呼んだ。
立ち尽くす俺に、ヒョンサンは少し考える様子を見せた。
「ギュナマ、こっちへおいで。昨日の続きをしよう」
ヒョンサンは見たこともないような、淫蕩な笑顔で俺を手招きした。
男の上に跨ったまま、ヒョンサンは俺を手招きして、んーっと唇を軽く突き出した。
柘榴のように赤い唇に誘われるように、俺はふらふらとベッドに近づいて行った。
近づいた俺の首にヒョンサンは腕を回し、顔がぐっと近づいた。
もう我慢できなかった。
俺は顔を傾けてヒョンサンと唇を合わせた。下唇を挟んで吸う。するとヒョンサンは口を開けて、俺の舌を誘い込んだ。俺は誘われるままに舌をねじ込んで、口の中を思うままに貪る。
ずっとキスをしてみたかった。
叶う日がくるとは思っていなかった。
しかも、こんなふうに。
「んっ……ふっ……ぁんっ……」
口の中の粘膜をなぶられて、ヒョンサンは喉の奥からほんの小さい声を出していた。
上顎を舐められるのが好きなようで、そうされると俺の首に回した腕にぎゅっと力を入れる。俺はヒョンサンの高くて掠れた声が耳をくすぐる度に、ちんちんが固くなっていくのがわかった。
そんな俺の様子を、もう一人の男が凝視しているのもわかっていた。
俺はかえって見せつけるように、ヒョンサンと舌を絡めあった。
長い、長いキスは、もう一人の男の嫉妬で終わりを告げる。
男が、下から突き上げたのだ。
「あ、あっ!」
ヒョンサンは気持ちよさそうな声を上げ、俺から唇を離した。
「だめ、ウミンっ。ちょっと待っ……あぁっ」
ヒョンサンは快楽に負けたように俺から視線を外して目を閉じた。
ウミンと呼ばれた男は、腰をガンガン突き上げて、ヒョンサンを翻弄する。
俺はベッドの横から、呆然と二人の行為を眺めた。
人がセックスしている様子を生で見るのは初めてだ。
それは思ったより激しくて、生々しい。
ヒョンサンが苦しげに眉間のシワを寄せて、口を開けて喘いでいる。
俺の存在なんか忘れたように、快楽に集中している。
「あーっ、だめ、ウミン、イッちゃう、もうイッちゃうぅ」
ヒョンサンが天井に向かって叫ぶ。
「うっ、僕ももう」
ウミンも相槌のように答える。
二人の荒い呼吸音が部屋中を満たしていた。
俺は、痛いほど勃起していて、見たくないのに二人の行為を唇を噛みしめながら眺めていた。
「あっ、あっ、あっ、イク、いっ、~~~~~~っ!!!」
最後にはヒョンサンのほうも忙しなく腰を振って、絶頂を迎えた。
俺はごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「ぅ~~~~っ」
ヒョンサンはじっくりと快楽を味わってから、一気に力が抜けたようにウミンの上に倒れ込んだ。ウミンはヒョンサンの背中を撫でながら、ちんちん(でかい!しかもなんか凶悪な形をしている!)を引き抜くと、姿勢を斜めにして、ヒョンサンを横抱きにしながら俺の方を向いた。
「はじめまして」
けろりとした様子で言うウミンに、俺は面食らった。
「はっ?…………じめまして……」
「僕はソン・ウミンです。君がギュナムだね。ヒョンサンからよく聞いてたよ」
「はぁ」
じっくり見ると、ソン・ウミンはぎょっとするほど美しい男だった。ヒョンサンとは違う、中性的な白い顔をしている。まるで人形みたいだな、ヒョンサンはこういう奴が好みなのか?と俺は身構えた。
「僕たちはロシアで知り合ったんだ。ヒョンサンは、弟みたいな子を国に残してきた、と言ってたよ。よっぽど君のことが好きなんだね。妬いちゃうな」
警戒する俺とは裏腹に、ウミンは人懐こい笑顔でべらべらと喋る。
「……こら、勝手に喋るな」
ヒョンサンはけだるげに体を起こして、ウミンの片頬をつねった。
「痛いよ、あはは。じゃあ何でギュナムをここへ呼んだんだ?」
そうだ、それを俺も聞きたかった。
ヒョンサンは紅潮している頬を更に赤らめて反論する。
「呼んだんじゃない。ギュナムが来るなんて知らなかったし、おまえが勝手に来て始めたんだ!」
「へーぇー、ほんとかなぁ?」
本当か?と俺も思った。
ヒョンサンは答えずにそっぽを向いてしまう。
「またそういうときだけかわいこぶって」
随分気安げな言い方をウミンはする。
つまり、恋人ということだろうか? ヒョンサンの。
俺に、昨日あんなことしたのに?
直接聞いてやろうとしたところに、先にヒョンサンのほうが口を開いた。
「俺は、ギュナムが好きなんだ。ずっと昔から、かわいいと思っていた。ギュナムだって俺と結婚しようと言ってくれてた。そうだよな? ギュナマ」
「ヒョン……」
「ギュナマ、俺の破廉恥なところを見て興奮しちゃったの? 大きくなってる」
「あっ」
まだ勃起していた馬鹿な下半身に気づかれて、俺は顔が赤くなるのを感じた。
「かわいい奴だ、俺を抱きたい? さっきこいつがしたみたいに」
「うん、俺はヒョンが……、イ・ヒョンサンが好きだ」
俺はきっぱり告白した。こんなことならもっと早く言うべきだった。
だってもっと早く言っていれば、横からウミンが「じゃあ俺は?」なんて、口を挟むことなんてなかったのに。
ヒョンサンは困惑した表情で、視線を彷徨わせた。
「おまえも、好きだ」
「嬉しいよ。君には愛が二つあるみたいだね。選べないんだろう?」
「そうなんだ、わかってくれるか!?」
ウミンの理解ある言葉に、ヒョンサンはぱぁっと顔を輝かせた。
なんてことだ。俺は頭を抱えたくなった。
ヒョンサンは本気で言っている。
しかもウミンもそれを許容しているようだ。
「そんな……!」
俺は意を決して言った。
「俺はやだよ!ヒョン!」
「ギュナマ」
ヒョンサンはまた困惑した表情に戻ってしまった。
俺が悪いのか? 俺の心がせまいのか?
俺は揺らいだ。
「ごめん、困らせて。そんな顔をさせたいわけじゃないんだけど」
俺は今度は自分から、ヒョンサンを抱きしめた。
「ねぇ、俺だけのものになって」
願うように言いながら、こめかみにキスを落とす。
ヒョンサンは黙って俺の背中に手をまわしてくれた。
ウミンは黙って見ているようなので、俺はベッドの上にヒョンサンを押し倒した。
俺はウミンの存在なんかないかのように、ヒョンサンを抱く。
あちこちにキスしながら、きれいなピンク色をした乳首を指でいじる。
爪で引っ掻くと、ヒョンサンはまた喉の奥で高い声を出した。
「あっ、んっ、んぅっ」
この声がすごくイイ。腰に響く。もっと声を上げさせたくて、脇腹にキスをして震わせたり、下腹の薄い茂みをくすぐったりした。
「あんっ、ふっ、も、もうっ、欲しい……っ!」
ねだられて、俺はヒョンサンの脚を開かせた。さっき挿入されていたばかりのヒョンサンの奥まったそこを指で確かめると、じゅうぶん柔らかかった。
俺は自分のベルトをもどかしく外し、ジッパーを下げて、ズボンを下着ごと膝下まで下ろした。ようやく開放されたちんちんは勢いよく上を向いていて、我慢汁が滲んでいた。
「はぁ……はぁ……、ヒョン……っ」
俺はなるべくゆっくりと挿入しようとしたが、ナカの蠢く襞に引き込まれるように挿入ってしまった。
「あっ、あぁっ、ギュナマ!」
「ヒョン……っ!」
俺は奥まで挿れて、ぎゅうと締まる感触を味わった。
そして名残惜しみながらぎりぎりまで引き抜いて、また奥深くへと突いた。
「あんっ、激しっ」
俺はウミンよりも大きくないし、経験も少ないのでテクニックなどないから、勝るのは体力くらいだろう。だから、思い切り腰を動かしてやる!と俺は激しく抜き差しした。
「あぁっ!すご、いっ、こんなのっ」
「良くない?ヒョン」
「いぃっ、すごく、いぃっ、続けてっ」
パンパンと肉を打つ音が響いて、ヒョンサンに声を上げさせつづけていると、不意にウミンが絡んできた。
「ヒョンサン、四つん這いになって」
「えっ」
俺が驚いている間に、ヒョンサンは言われるままに体を反転させて四つん這いになった。目の前で薄い尻を突き上げる格好も扇情的で、俺はその尻肉を掴んで中を穿つ。
「あぁんっ」
後ろからだともっと深く突ける感じがして、ヒョンサンも喉を反らして喘いだ。
ウミンは、ベッドの上に膝立ちになって、勃起しているでかいちんちんをヒョンサンの顔につきつけた。ちんちんの先で頬をぺちぺちと叩く。
「な、何やって」
咎めたのは俺だけだった。
ヒョンサンは何も言わずに、そのちんちんを口に含んだ。カリの張ったその凶悪な形のモノを頬張って、ヒョンサンはフェラチオを始めた。
「んっ……んっ……ふっ……っ」
口と尻の穴でそれぞれ男のモノを咥えこんでいるヒョンサンの姿は、凛として美しくピアノを弾く姿とは正反対で、淫靡というしかない。俺は嫌悪感を感じるどころか、ひどく興奮している自分に気がついた。
「んぐ……っ」
ナカでひと際膨らんだのを感じたのか、ヒョンサンは喉の奥で声を上げて咳き込みそうになった。
「大丈夫?」
ウミンがヒョンサンの前髪を掻き上げるように顔を上に向かせた。
その時、俺は気づいてしまった。
ヒョンサンの部屋の門においてある姿見に、ちょうどヒョンサンの顔が写っている。
髪が乱れて幼く見えるが、とろんとした表情をして、とても淫猥だ。俺の突き上げに合わせて腰を揺らしながら、美味しそうにちんちんをしゃぶるのは、本当にちんちんが好きで仕方がないという感じがして、俺はさらに興奮してしまった。
こっちがヒョンサンの本当の姿なのだろうか。
いや、凛としたヒョンサンも、淫猥はヒョンサンも、きっと両方の姿を持ち合わせているのだろう。だからこそ、不思議な奥行きのあって魅力的なのだ。
「ヒョン、ヒョンっ、好きっ、好きですっ」
「あ、イかせてっ。もう無理っ。イク、イッちゃう!」
ヒョンサンは咥えていたウミンのモノを口から出して、ベッドに顔を突っ伏した。
「俺も、ナカに出しますっ」
「あぁ、出してっ、ギュナムの、出してくれっ」
俺は突き入れたちんちんで奥の方をぐりぐり掻き回した。
「あぁ、あぁぁ――――っ」
「う、うぅっ」
「あ――――!」
ヒョンサンがイッている間に、俺も射精した。
中に出すと行ったが、衝撃で穴からちんちんが飛び出したので、半分くらいヒョンサンの背中にぶちまけてしまった。
そしてウミンも最後は自分で擦って出したものが、ヒョンサンの背中に滴った。
つまり、俺達の精液は混じり合って、ヒョンサンの背中を汚したのだった。
「はぁ~~、すごかった」
回復したヒョンサンは、いたくご機嫌な様子で俺の肩に寄りかかった。
俺もまだぼんやりして、ヒョンサンの肩に手を回して撫でる。
すると、ウミンが身を乗り出して、ヒョンサンの頬にちゅっとキスをした。
「とてもかわいかったよ」
「あっこいつ!」
俺は対抗するように、ヒョンサンの反対側の頬にくちづけた。
「わぁ、俺の大好きな二人が、俺のこと愛してくれるなんて夢みたいだ」
悪気のないその言葉に、俺は諦めることにした。
「ヒョンは、愛に溢れる人間なんだね」
そう言って、自分自身を納得させる。
「そういうことだよ」
ウミンが同調した。
ヒョンサン本人は、照れくさそうに笑った。
その笑顔があんまり無邪気だったので、俺はヒョンサンのすべて(とおまけのウミン)を受け入れることにしたのだった。
おしまい