今年の夏休みの計画を、ハン理事がつらつらと話していた。
「いかにもな観光地に行きたいな」
「珍しいですね、いつもは混んでいるところは嫌だとおっしゃるのに」
「今年は趣向を凝らしてみようと思う。例のおしおきだが―…」
「えっ、今ですか?」
心の準備をしていないときに突然告げられて、わたしは驚いた。
「な、なんでしょう?」
ドキドキしてハン理事の言葉を待つ。
理事はたっぷり間を取ってもったいぶって言った。
「……庶民ごっこにつきあってもらおう」
「?????」
意味がわからなかった。
きょとんとしていると、ハン理事は説明してくれた。
「つまり、俺は本当の立場を捨てて、おまえもボディガードという役目をせずに、安価なホテルでも取って数日過ごすんだ」
「そ、それは……」
普通に二人で旅行に行きたいだけでは?
と思ったが、口には出さなかった。
「これがおしおきだ。どうだ?」
「はぁ」
おしおきどころか、ひどく遠回しなお誘いだった。
「承知しました。具体的にはどこに行かれるおつもりですか?」
「そうだな、例えば、ドブロヴニクなんかどうだ」
「ドブロ……、ええと、クロアチアですね」
「そうだ、いいだろう? ずっと前に一度行ったきりだから、また行きたいんだ」
ハン理事は微笑んだ。
ドブロヴニクといえば、巨大な石壁に囲まれた旧市街で有名なところだ。
「よし、そうと決まったら予定を調整してくれ」
「はい、かしこまりました」
わたしは一礼して、部屋を後にした。
旅行1日目、ハン理事といっしょに車で空港に向かった。
命令された通り、私服で向かったのだが、わたしをひと目見たハン理事はなんだか不満そうだった。
空港に着いて、荷物を預け、保安検査を受けてゲートに入るやいなや、わたしは某ブランドの免税店に連れて行かれた。
「今から俺が服を買ってやる」
「えっ、まさか、わたしの私服がお気に召さなかったんですか?」
驚いた。
どちらかというとわたしの私服はモノトーンでまとめていて、安物だが無難な格好だと思っていたからだ。それなのに、ハン理事は気に食わなかったらしい。
「地味すぎる!」
「えぇっ」
衝撃的なことを言われ、呆然としている間に、ハン理事はわたしに着せる服を選んだ。
柄物のシャツに黒デニムという格好だった。ついでにじゃらじゃらしたベルトと金のアクセサリーもつけられた。
「よし、まともになったな」
「その、少し、派手じゃないですか?」
「そんなことはない、ちょうどいい」
「そうですか」
すっかりハン理事好みの格好をさせられ、わたしはなんだかむず痒かった。
「よし、時間がなくなった。行くぞ」
「はい!」
ラウンジでくつろぐ間もなく、わたしたちはゲートに向かった。
自家用ジェットでも、ファーストクラスでもなく、ビジネスクラスだったが、とくにハン理事は何も文句を言わなかった。それよりキョロキョロ周りを見回して、とても楽しそうに見えた。フランクフルトで乗り換え、約18時間で目的地についた。
「狭い座席で、おつらくなかったですか?」
聞くと、ハン理事は機嫌よく答えた。
「いや? ただ興奮してよく眠れなかった」
遠足前のこどものようなことを言う。
「そうですか。宿で休めたら良いのですが」
空港からタクシーで宿に着く間もハン理事はずっと喋っていた。
「どんな宿泊先を取ったんだ!?」
「それは、着いてのお楽しみです」
実は、ハン理事のお気に召しそうなアコモデーションを探すのは苦労した。
庶民が泊まれる価格帯でありながら、ハン理事が不自由しなさそうなところを探した。結果、旧市街からちょっと外に出たところにある、小さなホテルを見つけた。
「着きました。ここです」
「おぉ」
コンパクトで真っ白い、リゾート的な開放感のある建物を見て、ハン理事は声を上げた。
「いいじゃないか、なかなか」
嬉しそうに中に入っていく。
すると、のっそりと熊のような中年男性が現れた。
「Mr. Hang?」
人の良い笑顔を浮かべる彼は、このホテルのオーナーだった。
英語で、わたしたちの部屋を案内してくれた。
おそらく全室で5部屋くらいしかない。他の部屋も埋まっているが、荷物を置いて出かけているようだった。
「俺たちも早速旧市街地へ行こう」
「お疲れじゃないですか?」
「全然平気だ」
明らかにテンション高止まりしているハン理事の後を追いかけて、わたしは横に並んだ。
外に出ると、歩く道はオリーブの木に囲まれていて、ネリウムの花が満開だった。
天気もよく、汗ばむくらいの気温だ。
ちょっと歩くだけで旧市街地の入口に着いた。
さすがに観光客が多い。いろんな人種が混じっていて、世界中から人が集まっている。
「なぁ、どう思う?」
「何がですか?」
「俺たち、どんな関係に見えるかってことだ」
「他の人達からですか? それは……」
「カップルに見えるか!?」
ハン理事は恥ずかしそうにたずねる。
そう見えて欲しいのだな、と判断したわたしは、歩きながらそっと片手をハン理事の薄い尻に回した。
「!?」
驚くハン理事をよそに、ぎゅっと尻を揉む。
「な、な……!? こんなところで!!」
「これで絶対にカップルに見えますよ」
「!!!」
ハン理事はそれ以上何も言わなかった。
わたしは黙ってハン理事の尻を揉みながら歩き続けた。
それからわたしたちは旧市街の中を見物し、薄暗くなってきたのでディナーを食べた。
ハン理事おすすめの魚料理を食べて、ワインをしこたま飲んだ。
時差ボケの状態で酔ったので、二人共ふらふらした足取りで、ホテルまで帰った。
ハン理事は部屋につく頃にはうとうとしていたので、シャワーを浴びて、すぐに寝てしまった。わたしがシャワーから出た頃には、すっかり熟睡していたハン理事の寝顔を見ながら、わたしも眠りについた。
2日目。
朝食はホテルのラウンジでビュッフェだった。
他の部屋の客たちが先に食べていて、わたしたちは一番最後だった。
他の客は、カップルだったり、友人同士だったり、いろいろだ。
オーナーが自ら食材を補充していた。
ハン理事はフルーツだけを食べていた。
「二日酔いですか?」
「ちょっとな」
だが、元気そうだった。
わたしたちはまた旧市街に出かけ、今度は港のほうへ行き、海を眺めたりした。港にはボートや船がたくさん浮かび、情緒ある光景だった。
街の中は猫が多い。
レストランの食べ物を狙って、堂々と膝に乗ってきたりもする。店主は乱暴に追い出そうとするけれど、ハン理事は腕に抱いて撫でていた。
「かわいいぞ、こいつ」
「ハン理事のほうがかわいいです」
「!?」
正直に言うと、ハン理事は照れて顔を真っ赤にした。
昼間はそんな感じだったのに、さんざん遊んでホテルに戻った頃は、ハン理事は不機嫌だった。あからさまにむくれていた。
「どうなさったんですか? お腹でもいたいですか?」
何か食べ物に当たっただろうかと考えたが心当たりはない。
「どうせ俺はおっぱいもないし……」
「え、なんて?」
急な話の展開についていけない。
「わかるように説明してください、ハン理事」
「……おまえ、昼間、かわいい女の子二人連れにジュース奢ってあげてただろう? 髪の長いほうの子、おっぱいが大きくて、あーいうのが好みか?」
「はぁ?」
説明してもらってもわからない。
頭の中で整理すると、つまり、わたしが昼間女の子にジュース奢ったのが面白くなかったのか。そんなにジュースが飲みたかったのだろうか。……いや、違う。これはヤキモチだ。
「おまえは、世界中どこででもモテるんだな」
ハン理事は頬を膨らませてそんなことを言う。
「あの子たちは、同じ宿に泊まってる子たちですよ。ハン理事が猫と遊んでいるのを見て、かわいいかわいいって騒いでいたから、微笑ましくてジュースを奢ってあげたんです。おっぱいなんか見てません」
「ふん、うそつけ」
ハン理事はぷいと顔をそむけてしまった。
「怒った顔もかわいいですけど、ハン理事、勘違いですよ。ハン理事ほどセクシーな方はいません。顔は小さくてかわいいし、スタイルはいいし、完璧じゃないですか!」
「でもおっぱいはない」
これはしぶとい。
「明日からおまえはこれでもかけとけ!」
そう言って出してきたのは、スタンダードな形の黒のサングラスだった。
「これをかければいいんですか?」
「そうだ。おまえの顔がいいから悪いんだ。隠しておけ」
褒められているのか怒られているのかわからないが、とにかくサングラスをかけてみた。
「うっ」
するとハン理事はみるみる顔を赤くして、心なしか目を潤ませた。
「こいつ……サングラスなんかしたら余計かっこよくなるだろ!」
「えぇっ」
自分でかけさせておいて、また怒っている。
顔を真っ赤にして怒りながらも、ハン理事はわたしの肩に頭をぐりぐりくっつけてきた。
どうやら、わたしのサングラス姿がツボにハマッたようだ。
「機嫌は直りましたか、ハン理事」
「うるさいうるさい」
わめきながら、ハン理事はわたしの首にしがみつく。
本当に猫みたいにかわいくて、しょうがない人だ。
3日目。
今日は旧市街には行かず、フェリーに乗って離島を巡ることにした。
アドリア海は穏やかで、明るい。
ハン理事は日焼け止めを顔や腕に懸命に塗っていた。
「お前も塗れ。後で後悔するぞ」
「あ、はい」
前に来たときは、離島まで行かなかったそうで、今回が理事にとっても初めてだという。
小さなフェリーはビシェボ島という青の洞窟で有名なところと、フヴァル島というラベンダーの栽培で有名なところを回る。
青の洞窟は美しかった。
「おぉ、イタリアにも劣らないな」
青い光が反射してハン理事が輝いて見えた。
「はい、素敵です」
わたしはうっとりして答えた。
フヴァル島ではいたるところにラベンダー売りの露店が立っていた。
「土産に買っていこう」
ハン理事は両手に抱えるほどの大量のポプリのサシェを買い、露店の前で、記念写真を撮影した。
「それ、どうされるんですか?」
「ん? 部下たちに配るぞ」
「…………」
オーガンジーのポプリのサシェなんて可愛らしいものを貰って困惑する同僚たちを思い浮かべてわたしは吹き出した。
「おまえがそんなに笑うの、珍しいな」
爆笑するわたしを見て、ハン理事も嬉しそうに笑った。
結局ポプリは大きな袋に入れてもらって、近くの店でパスタを食べ、そしてまたフェリーに乗ってドブロヴニクに帰ってきた。
テンション高いままホテルに戻ると、オーナーが出迎えたので、ハン理事はハグを交わして部屋に入った。
「はぁ、楽しかった」
「良かったです」
ベッドに並んで座り、わたしはすんすんとハン理事の匂いを嗅いだ。
「なんだ?」
「香りが移って、ハン理事からもラベンダーの香りがします」
「あぁそうか」
わたしは匂いを嗅ぐついでに、ハン理事を抱きしめた。
ベッドの上に押し倒しながら尋ねる。
「お疲れですか?」
その問いの意味に気がついて、ハン理事は口ごもる。
「疲れてはないが……その、それより」
「?」
「オーナーや、他の客に聞こえる……」
恥ずかしそうに身をすくめるハン理事があまりにかわいくて、わたしは抑えがきかなくなった。
「口を塞いでてさしあげますから」
そう言って、唇を重ねた。ハン理事の薄い唇を吸って、舌を絡めて、口の中を舐め回す。幸福感で頭がいっぱいになる。ハン理事も薄目を開けてトロンとなっていた。
「ん……」
もっと、と顎を上げてねだるので、わたしはキスを続けた。
角度を変えて深いキスをしながら、ハン理事の服を脱がしていく。
ハン理事も負けじとわたしの服を脱がしてくださる。
奪い合うように裸になって、抱き合った。
「……ふ……ぅ……っ」
肌を撫でたり、くすぐったりしている間、ハン理事は唇を噛んで声をこらえる。
でもそうすると、発散する方法がないようで、ひたすら熱をためこんでいくみたいに、体は熱くなっていった。
固くなっているちんぽを触りながら、後ろの穴に指を挿入すると、ハン理事は耐えれずにキスしているわたしの唇を噛んだ。
「!」
じわっと血が出てしょっぱい味がした。
ハン理事は血の味を感じてはじめて自分が噛んでしまったことに気づいたようだ。
「わ、悪かった」
唇を離して小声で謝るので、わたしは首を横にふる。
「あやまらないでください」
「でも……」
「声が出そうになったら、どこでも噛んでいただいて構いません。痛いどころか、むしろ感じますので」
自分でも変態みたいだなと思うが、本当なのでしかたがない。
ハン理事はまたたきをして、小さく肯いた。
「ん……♡ ふっ……♡」
切ない息遣いをしながら、ハン理事はわたしの指を黙って受け入れた。
わたしは狭い肉壁をかきまぜるようにして広げる。
指の根元いっぱいまで挿入すると、奥まで届かないのがつらいのか、ハン理事は腰をくねらせて悶える。
「もっと奥を突いて欲しいんですね?」
たずねると、こくこくとハン理事は肯く。
わたしはゆっくり指を抜いて、ハン理事の脚を広げると、代わりにデカマラをあてがった。
「ふぅ……っ♡」
少しずつ挿入していくと、ハン理事はこらえきれないように全身で抱きついてくる。
軽く揺さぶれば、とうとうわたしの首の付け根をはぐっと噛んだ。
「うっ」
わたしの体に衝撃が走る。
噛まれたところはじんと痺れ、下腹に響いた。
さらにデカマラを奥へ薦めて、ナカをかき混ぜるように腰を揺する。
「んんぅ♡♡」
ハン理事はガブリとわたしを噛む。
痛みが強いぶんだけ、感じているということだ。
わたしは本格的に、前後にストロークを開始した。
「!!!♡♡♡」
ハン理事はわたしの首筋を噛みながら、強く吸った。
これはきっと痣になるだろう。男の勲章だ。わたしは悦に入りながら、一心不乱に腰を動かした。
いっそうハン理事は両手両足でわたしにしがみついたので、絶頂が近いのだと思った。
「~~~~~っ!♡♡♡」
こうなると声を我慢していると言うより、声も出せないほど感じているようだ。
「イッていいですよ?」
耳元でささやくと、ハン理事はびくんっと全身で反応した。
「♡♡♡♡♡っ!!!!!」
ガブガブと強く噛まれて、わたしも我慢できなくて射精した。
すると、ハン理事の口がとうとうわたしの首筋から離れてしまった。
「あぁあーーーーーーーーっ!!!♡♡♡♡♡」
ハン理事の色っぽい嬌声が、ホテル中に大きく響き渡った。
身支度を整えて、わたしはたずねた。
「ハン理事、朝ご飯は召し上がらないんですか?」
ハン理事はまだベッドの中、毛布にくるまっている。
「……恥ずかしくて無理だ」
「大丈夫ですよきっと」
「無理ったら無理だ!」
癇癪を起こし始めたので、わたしは黙って部屋を出ていき、フルーツとヨーグルトだけビュッフェから取ってきた。その際にオーナーや他の客と顔を合わせたけれど、もちろん彼らは何も言わなかった。ただ幸せなカップルの片割れを見つめる目をしていただけだ。
「ハン理事、食べ物取ってきましたよ。部屋で召し上がってください」
「うぅぅ」
毛布から頭だけ出したハン理事は、まだ涙目だった。
その頬をちょっと触って、わたしはたずねる。
「今日はこのまま部屋で過ごしましょうか?」
「……それじゃ、旅行に来た意味がないだろう」
「ありますよ。ハン理事と二人きりなんですから」
わたしはそう言って、フルーツを混ぜたヨーグルトをハン理事の口にスプーンで運んだ。
「んむ」
ベッドの上でハン理事は最後の一口まできれいにたいらげた。
それから、
「大丈夫だ、ちゃんと出かける」
と言って、ようやくバスルームに入っていった。
すっきり立ち直って宿を出てからは、また旧市街地に行き、城壁の上を歩いて散歩した。美しい街並みを眼下に見下ろせる。
城壁の反対側に立てば、真っ青な海が広がっている。
「絶景ですね」
「あぁ、ここをおまえと来たかったんだ」
ハン理事はさらりとそんなことを言うので、わたしは嬉しさに胸が詰まった。
砂浜を見下ろす場所では、地元の子どもたちの姿が見えた。
「泳いでる子たちがいますよ」
「どれ、本当だ」
「気持ちよさそうですね」
ぐるりと城壁の上を歩いて、満足したので降りたところでは、辻ヴァイオリン弾きに遭遇し、軽快な音楽を奏でる若者にハン理事が破格のチップを入れたので他の見物人たちが目を丸くした。
「ははは、次はロープウェイに乗ろう。もっと高いところから見られるぞ」
「いいですね」
あと数日で韓国に帰らなくてはならないが、それまでは旅行を満喫したい。
韓国に戻ったら、主人と部下に戻るのだから、今だけはせめて。
ハン理事もきっと同じ気持ちだろう。
わたしは歩き出すハン理事の腰を抱き寄せた。
「あ」
ハン理事は恥ずかしそうにしながらも、体を寄せてくれた。
すると突然、
「そこの素敵なお二人!」
声をかけられて、振り向くと、古いポラロイドカメラをもった中年男性に写真を取られた。観光客を狙って、写真代を撮る詐欺のようなものだ。
断ろうとしたわたしを制して、ハン理事は言い値の倍を払って、写真を受け取った。
「どうだ、記念にいいじゃないか」
写真の中には、お互いしか見えていないように見つめ合うカップルが写っていた。
なんだか気恥ずかしいけれど、形に残るのは嬉しかった。
ハン理事はその写真をじっと見つめて、しばらく動かない。
「なにかありました?」
声をかけると、写真の上にぽたりと水滴が落ちた。
「!?」
ハン理事は泣いていた。
目を真っ赤にして、泣いていた。
「ハン理事!? どうしました!?」
「……うぅ」
ハン理事は声を絞り出すように言う。
「帰りたくない」
わたしはハッとした。
「おまえとずっとこうしていたい。帰りたくない」
はらはらと涙を落として泣くハン理事を、すれ違う人々が不思議そうに眺めている。
わたしは彼の泣き顔を誰にも見せたくなくて、隠すように抱きしめた。
「ハン理事、わたしもです」
「うぅぅ」
「でも、帰っても、わたしはずっと理事をお慕い申し上げてますから、安心してください」
「うぅーっ」
ハン理事はわたしの胸にすがるようにして泣いていた。
その夜は、声など気にしないでお互いを奪い合うようにに交わった。
隙間なく抱き合い、ゴムの厚みも嫌だという理事に応えて、生で挿入した。
「出してっ♡ 中でっ♡ おまえのがっ♡ 欲しいっ♡♡♡」
「はいっ。出しますっ! 受け止めてくださいっ」
「あぁぁっ♡♡♡ あぁっ♡♡ 来るっ♡ いっぱい出てるぅ♡♡♡」
薄い腹の中へ思い切り射精すると、ハン理事は震えてイッた。
「うぅ――――っ♡♡♡」
ハン理事は呻きながら白目を向いて、意識を失った。
わたしはしばらくその体に覆いかぶさってぎゅうと抱きしめていた。
そして帰国日当日。
駄々をこねるかと思いきや、ハン理事はさっぱりと支度を済ませた。
スーツケースに収まらない土産などは全部別便で送った。
「さぁ、帰るぞ」
そう言って部屋を出た理事の顔は、いつものように凛々しくて、あれだけ泣いていたのが嘘のようだ。わたしは安心して、2人分のスーツケースを持って後に従う。
「はい、帰りましょう」
清々しく歩き出すハン理事に、わたしはまた惚れ直した。
あの写真は、ハン理事が大事にいつも持ち歩く手帳に仕舞っていた。
この麗しい日々を、心の糧にして、わたしたちはまた日常を生きていく。
おしまい