会えない夜は……

 急な来客だった。
 ハン理事に報告すると、彼はさっと顔を青ざめさせ、「いないと言ってくれ」と答え、すぐに寝室に籠もってしまった。
 わたしは 玄関に行って、それを客に告げた。
「ハン理事はあいにく外出中ですので、お引き取りを」
「まぁ! 私を玄関先で追い返す気?」
 案の定彼女は憤慨した。
 ハン理事の義理の母親であるチャン女史である。
 女子高生の実の娘がいる親ながら、体の線がぴったりと出るワンピースを着こなし、韓国の誇る美容医療の成果でシワ一つない顔には真っ赤な口紅を塗っていて、まさに「女」のイメージの具現化といった外見をしている。
 ハン理事が嫌うのも頷けるというものだ。
「はぁ、でも主人不在の家に勝手に迎え入れるわけには……」
「お茶くらい出したらどうなの?」
「せめて事前に連絡していただければ……」
「新しい家だというから見に来たのに。入るわよ!」
「あっ!!!」
 だめだ。まったく話が噛み合わない。
 ハイヒールの音を立てて邸に入り込むチャン女史を、わたしは慌てて追いかけた。
 階段をのぼり、彼女は勝手にリビングに踏み入る。
「ふーん、なかなかいい家じゃない。見晴らしがいいわ。こんな辺鄙なところに何でって思ったけど、田舎暮らしもいいかもしれないわね」
 絶妙な皮肉を言って、彼女は部屋の中の家具を値踏みし始めた。
 仕方なくわたしは言う。
「お茶を淹れて参りますので、飲んだらお引き取りを」
「ちょっとあなた!」
「はい」
「前からいたかしら?」
「はい、五年前からハン理事にお仕えしております」
「私としたことが、こんなイイ男がいるのを見逃してたのね」
 彼女はギラギラした目で私を品定めしていた。
 まるで肉食獣が舌なめずりをするようで、わたしは迫力に呑まれて動けなくなってしまった。
「ふぅん。素敵ね。あなた、私のところへ来ない?」
「は?」
 彼女はわたしの顎を指ですくって言う。
「もちろんここで働くより良い条件でよ?」
「はぁ……」
 わたしは彼女の手を振り払いたかったが、それは失礼にあたるかと思い、彼女が自主的に離すまで我慢した。
「わたしはハン理事に身も心も捧げておりますので」
 そう言うと、彼女は流行りの形に整えられた眉を上げた。
「まぁ、あの子と寝てるの?」
 外見だけでなく、中身も品のない女性だ。
「そういうことではなく……」
「まったく、誰でも彼でも男とくれば見境ないんだから、困ったものね」
「そのような言い方は、ハン理事に失礼かと」
 ムッとして言い返すと、彼女は鼻白んだ。
「いいわ! もう帰る!」
 そう言って再び部屋を出て、階段を降りていく。
 一応見送ろうと追いかけていくと、玄関のドアの前で彼女は突然振り向いた。
「いつでも来たくなったら来ていいのよ?」
 背伸びして私の耳元にささやくと、頬にキスをした。
「わっ!?」
 あまりの驚きにわたしは声を上げてしまった。
 呆然としている間に彼女は車に乗って去っていった。
 わたしはドアを締めながら、頬にべっとりついた口紅を手の甲で拭き取った。
 なんてことだ。
 手の甲だけでは汚れを広げるだけだったので、ポケットからハンカチを出してきれいに拭き取った。そうして気がついたが、彼女のつけていた香水もわたしに移っていた。昼に似合わぬ官能的な匂いがする。
 わたしは気になりながらも、そのままハン理事のいる寝室へ向かった。
 ドアをノックして部屋の中へ声をかける。
「ハン理事、チャン女史は帰られました」
 するとドアが開いて、ハン理事が顔を出した。
 顔色は青ざめたままだ。
「大丈夫ですか?」
「……女臭い」
「えっ」
 いきなり罵られて驚いた。
「あの女の匂いがする!」
「あ、すみません。シャワー浴びてきま……」
 やはり気に障ったようだ。シャワーを浴びてから来れば良かったと後悔したところで、ハン理事はさらに言う。
「キスしてた。見たぞ」
「えっ」
 どこから見ていたのだろう。あぁ、CCTVか。
 わたしは慌てて反論する。
「あれはいきなりされただけです!」
「なぜ避けなかった? 突き飛ばさなかった?」
「そ、それは……」
 立場上、そんなことは出来ない。いくらハン理事が嫌っていても、義理の母親であることは間違いないのだ。
 言い淀んでいると、ハン理事は冷たい表情でドアを閉めた。
「ハン理事!」
「うるさい! しばらく俺に顔を見せるな!」
 わたしは絶望してドアの前に立ち尽くした。
 

 それから本当に休暇を言い渡されたことを同僚から告げられた。
 そういえば、ローテーションに組み込まれている非番の日以外、ろくに休暇を取っていなかったことに気づいた。
 非番の日でも、ハン理事に会えなくてさみしいほどだ。
 それ以上の休みなんて、耐え難い。
 わたしたち部下は、基本的に邸に近いところにある同じ宿舎に住んでいる。
 ホテルみたいな使用人任せの生活をすることも出来るが、わたしはあえて自炊掃除洗濯をする生活を選んでいた。
 みんなそれぞれ事情を抱えた者たちだ。寝る場所と食べるものがあるだけでじゅうぶんだという者も多い。実際の待遇はじゅうぶん手厚い。だからわたし達はハン理事に感謝しているし、崇拝している。
 無期限の休暇を与えられ、わたしは途方にくれた。
 旅行にでも行こうか。いや、別に行きたい場所もないし、楽しくもないだろう。
 自分の部屋で毎日なにをするでもなく、ぼうっとしていた。食事を作っては食べ、細かいところまで掃除をして呆然としたまま過ごした。
 スーツを着ないで過ごしているのも久しぶりだった。
 少ない私服を着回して、せめて怠けないようにトレーニングだけは続けていた。
 いつもハン理事のことを考えていた。
 彼の女性嫌悪は、殆どチャン女史のせいなのだろう。
 実の母親を失ったばかりのときに再婚、そして義妹の誕生。それだけでも過酷なのに、義母の性格があの通りだ。
 そんなハン理事にとっての敵のような相手を、わたしはもっと警戒するべきだった。
 ビジネスライクに徹していたことさえ、ハン理事には許せなかったのだろう。
 後悔してももう遅い。嫌われてしまった。
 一週間くらい経った日の真夜中、わたしは眠れずに涙をこぼしていた。
 とめどなく溢れてくる。
 こうなったらもうわたしは、ハン理事に殺してもらいたい。
 本気でそう決意したときに、スマートフォンが鳴った。

 ”すぐに来い”
 ハン理事からのメッセージだった。
 わたしはすぐにスーツに着替え、部屋を出た。
 邸に入り、わたしはハン理事の姿を探した。
「ハン理事!? どちらに!?」
 寝室のドアをノックすると、中から返事があった。
「入れ」
「はい!」
 ドアの前にハン理事はルームウェア姿で立っていた。
「久しぶりだな」
「は、はい」
「泣いてたのか」
「えっ、何でそれを」
 CCTVがわたしの部屋にも設置されているのか、と思い至った。
 怒りは感じない。ずっと監視されていたことに、安心感さえ覚える。変な話だが、わたしのことはすべてハン理事に知ってほしいし、見ていてほしい。そう思うのだ。
 ハン理事はすんすんと私の首元の匂いを嗅いだ。
「うん、もう臭くないな」
「そうですか」
 わたしはハン理事を目の前にして、また涙が溢れてきた。
「す、すみませ、ぐすっ……申し訳、ありませんでしたっ……うっうっ」
 泣き始めたら止まらなくなって、しゃくりあげながら頭を下げる。
「わはは、男前が台無しだな」
 反対に理事は笑った。
「そんなに俺に会いたかったか?」
「うっ、はいっ……ぐす」
「かわいいやつだな」
 耳を疑った。
「許してくださるんですか!?」
「あぁ、本当は怒ってない。悪いのはあの女だ。八つ当たりだ」
「ハン理事ぃ……っ」
 嬉しくていっそう泣けてきた。
 ハン理事は手を伸ばしてわたしの頭を撫でてくれた。
 わたしは子どものようにわんわん泣いた。

「悪かったな、さみしい思いをさせて」
 ハン理事がわたしの顔を両手で挟みながら、まぶたやおでこにキスをしてくれた。
 おかげで涙がおさまった。
「いえ、わたしこそ、配慮が足りず」
 わたしは言いながらハン理事の唇を制した。
「ん? いやなのか?」
「いえ、今夜は、理事は何もしなくていいです。わたしがたくさん気持ちよくして差し上げたいんです」
 そう言うとハン理事は恥ずかしそうに目を逸らしながら、両手をわたしの顔から外した。
「それなら……」
 わたしはハン理事を横抱きにして抱きかかえて、ベッドへ運んだ。
 ベッドの上で柔らかな生地のルームウェアを脱がして、直接素肌に手を伸ばすと、指先が触れるか触れないかのところでハン理事はビクッと震え、後ずさった。
「?」
 もう一度、触れようとすると、またハン理事はビクビクッと震えた。
 わたしはごくりと喉を鳴らした。
「すごく感じやすいですね。わたしがいない間、ご自分で慰めなかったんですか?」
「そ、そんな気分にはならなかったからっ」
「可愛い人ですね……」
 わたしは今度こそ、と素早く手を伸ばした。
「ひゃっ」
 するとハン理事は身を翻して逃げようとするので、後ろから抱きしめた。ちょうどベッドの縁に腰掛けて、膝に抱えるような姿勢になった。
「逃げないでください」
「あっ」
 膝の上のハン理事は、真っ赤になって俯いている。
「本当にかわいらしい……」
 耳に息を注ぎ込むようにささやくと、それだけでハン理事はせつないため息を漏らした。
 わたしは後ろから抱きしめたまま、両手を胸元にずらして、乳首を指先で弄り始めた。
「あっ♡ あん……っ♡」
 ハン理事は大きな声で啼いた。
 わたしは嬉しくなって、いつもよりねちっこく乳首を弄り続ける。
「あぁっ♡ はぁ♡ ん♡ あ♡ あふ♡」
 乳頭に触れるだけだったり、指の腹でこね回したり、時々ぎゅっと強くつねると、息も出来ないほど感じているようだった。
「あーっ♡ あっ♡ 今のだめっ♡」
「気持ちよくないですか?」
「良すぎてだめぇ♡ あっ♡ あっ♡」
 目に涙を浮かべてハン理事はよがる。
 わたしはいっそう強く両方の乳首をぎゅうっと引っ張った。
「あぁぁーっ♡♡♡」
 ハン理事のちんぽから白濁が飛び散った。どろりと腹を汚したそれをわたしは手ですくって、ハン理事の眼の前に突きつけて見せた。
「乳首だけでイッちゃいましたね?」
「らって……そこばっかり……」
 ハン理事は呆然として舌も回らなくなっていた。
「かわいい……もう、わたしも我慢できません」
「ん……、はやく、ほし……っ」
 ハン理事の言葉を聞くが早いか、わたしは枕元にあったタオルで飛び散った精液を拭き、ついでにローションを手に取る。
 さっきからわたしのビンビンに勃起したデカマラが尻に当たっているのは、ハン理事も重々わかっているだろう。
 わたしはハン理事を膝に載せたまま、ローションをデカマラの上にぶちまけた。
 そしてハン理事の尻に挿入していく。
「あぅっ♡」
 いきなり突っ込まれて、ハン理事は衝撃に呻いた。
 ハン理事は丁寧に挿入されるより、多少乱暴に突っ込まれるのが好みらしい。
 案の定、ジンと痺れたように快感を味わっている。
「入って♡ くるっ♡ んんっ♡」
「久しぶりでしょう? この形を覚えていますか?」
「わ♡ わかんな……♡」
「これはあなたのものですよ。忘れないでください」
「あぁぁっ♡」
 奥まで入ると、温かく深い沼地に全身を包まれたような快楽に陥る。
 わたしはしばらくその感覚を堪能していたが、ハッと思い出して腕の中のハン理事に囁いた。
「わたしが部屋にいる間、ずっと見ていたんですか?」
 ハン理事は快楽に酔った顔つきで、答える。
「ふ、普段は見てないぞ。今回だけだ。……怒ったか?」
 珍しく弱気な声を出すので、わたしは即座に答えた。
「まさか。部屋の中で、私は何をしてましたか?」
「うん?そうだな、家事をしてたな……使用人に任せればいいのに……それから、トレーニングしてた」
「はい、そうです。怠けてはいません。ほら」
 わたしはベッドに腰掛けていた姿勢から、急に立ち上がった。
「わっ!?」
 もちろんハン理事を両腕で抱きかかえて、デカマラは挿入したままだ。73.5kgのハン理事をずっと抱き抱えるのは、わたしには余裕だ。そのために鍛えているといっても過言ではない。
「な、何を?」
 動揺するハン理事をよそに、わたしはそのまま窓際へ歩いていく。
 夜なのでカーテンを閉めてあるのだが、わたしは片手でそれを思い切り引いた。
「えっ」
 真っ暗な窓に反射して、ハン理事とわたしの姿がくっきり映し出された。
「見えますか、繋がっているところ。よく見てください」
 わたしはいっそうハン理事の脚を広げ、繋がっている部分を映るようにして見せた。
 デカマラをのみこんで、ぎちぎちに広がった縁までよく見える。
「ひっ!」
 ハン理事は両手で顔を覆った。
「は、恥ずかしい……っ」
「だめですよ、よく見てください。そしてよくわかってください。何があろうと、わたしはあなたのものだということを」
 やさしく言い聞かせるように言うと、ハン理事は手のひらの隙間から窓を凝視していた。
 わたしはハン理事の身体を上下に揺さぶり始める。
「あっ♡ あぁっ♡ そんなっ♡ 揺らしたらっ♡♡」
 ハン理事は嬌声を上げる。
「お♡ おくぅ♡ ぶつかってるっ♡ 激しっ♡」
 揺さぶられながら、自分の姿からは目が離せないようだ。
「さっき出したばっかりなのに我慢汁がだらだら出てるし、ナカはきゅうきゅう締まって、ものすごく感じてるんですね」
「だ♡ だって♡ こんなのぉ♡」
 わたしはさらに下から腰を突き上げて、ハン理事の大好きな奥を攻めた。
「あぁぁっ♡ あーっ♡ 出してくれ♡ もう出して♡ 見たいっ♡ 出してるところ見たいっ♡」
 ハン理事がねだるので、わたしは我慢せずにハン理事の中に射精することにした。
 一気に突き上げるのと同時に、奥に溜め込んでいた精液をぶちまける。
「あぁぁっ♡♡ きてるっ♡ 濃いのいっぱいきてるぅっ♡♡♡」
 自分の淫乱な表情を見ながら、ハン理事も絶頂を極めた。
「あぁぁーーーっ♡♡♡ あぁっ♡♡♡ うぅーっ♡♡♡」
 ハン理事は白目を向いて、全身の力が抜けたので、わたしは両腕で支えながら長い絶頂が落ち着くまで抱きしめていた。

 隣でうとうとしているハン理事に、わたしはそっと懇願した。
「もう、会えないお仕置きは勘弁してください」
 眠っているかと思ったら、起きていたようで、返事が帰ってきた。
「そうだな……じゃあ、別のお仕置きを考える……」
「えっ」
 わたしは焦った。
「わたしはまた何かしましたか?」
「してないけど……、おしおき……」
「えぇぇ」
 何か企んでいるようで、わたしは恐ろしくなった。
 しかしそのままハン理事は眠ってしまった。健康的な寝息が聞こえてきて、つられてわたしもすぅっと眠りに吸い込まれていった。

 ハン理事の新しいお仕置きが明らかになったのは1ヶ月後のことだった。

おしまい(つづく?)

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