一緒に二丁目のバーに行き、お互いがナンパされないようにベタベタくっつきながら飲んでいたところ、流しの占い師が店に入ってきた。
どうやら手相占いらしく、わたしとポールは顔を見合わせて、観てもらうことに決めた。
占い師は年を取った女性、つまりお婆さんだった。
重いまぶたを精一杯開いて、わたしの手相に見入っていた。
「あんた、苦労するタイプだね」
ひと言で片付けられて、ポールは傍らでげらげら笑った。
「前世のカルマが重いようだ」
「前世? 前世までわかるんですか? わたしは何だったんでしょう?」
「えらい金持ちについてたボディガードみたいな人間だよ。主人のために尽くして尽くして、悪いこともたくさんして、最後は主人と一緒にくたばっちまったんだな」
「へぇ」
わたしは興味深く聞いた。
スピリチュアルなことなど一切信じないが、このお婆さんがどういう心理でそういう答えを導き出したのかと思うと面白い。
飲み屋街の占いは簡易的なもので値段も安く、あっという間に終わってしまった。
続いてポールがお婆さんに向かって手のひらを差し出した。
すると、彼女はぶるぶると震えだした。
「こんな手相は観ちゃいけない。お金は返すから帰らせてもらうよ」
「えぇっ」
わたしたちが驚くのを尻目に、お婆さんの占い師は本当に店を出ていってしまった。
「何だったんだ。俺の手相がおかしいのか……?」
じっと自分の手のひらを見つめる。
「気にすることないですよ、一切信じる必要はないですから」
わたしは断言するように言った。
せっかくの夜に、不吉な気分にされちゃ困る。
「おかわり、何飲みますか?」
気をそらすように聞けば、ポールもすぐに今のくだりを頭から追い出したようだった。
「そうだな、フルーツ系の甘いやつなんか飲みたい」
リクエストを告げると、古株のバーテンダーがちょっと迷いながら作り始めたのは、杏露酒を使ったカクテルだった。
「アジアン・ハートという名前です」
「なんだ、俺にぴったりじゃないか」
機嫌よく口をつけた。
「うん、甘い」
「さっきから甘い系ばかりで、あまり飲みすぎないでくださいね」
釘を刺すと、おとなしくポールは肯いた。
ところが、結局飲みすぎてしまったようだ。
真夜中、ふらふらになったポールを支えながら、タクシーで家まで帰った。
エレベータに乗って、玄関になんとか入ってため息をつく。
「はー、疲れた。シャワー浴びて寝ましょう」
「寝るわけないだろ」
ポールはそう言って、しゃがみこんだ。
「わっ、トイレに……」
吐きそうなのかと思って慌てたが、そうではなかった。
しゃがんだまま、ポールはわたしのベルトを外しにかかる。
「えっ、まさか」
うまく外せると、チノパンのジッパーを外して下着の中からわたしのペニスを引きずり出した。
「んー」
むにゃむにゃ聞き取れないことをつぶやきながら、ペニスを舐め始めた。
「わっ、シャワーも浴びてないのに!」
「今更だろ」
きちんと意識はあるらしく、答えたポールは、玉袋を手で揉みながら舐め続ける。
そこまで酔っていないわたしは、すぐさま反応して勃ち始めた。
「そんなに切羽詰まってたんですか? それとも、酔ったら欲しくなりましたか?」
今度は問いには答えず、玉袋をしゃぶり始めた。
「うっ」
片方をやわらかく揉みながら、もう片方を飴のように口の中で転がされて、わたしは呻いた。完全にペニスは勃ち上がって、腹につきそうなほど反り返ってしまった。
それを見て、ポールは固い竿を手で擦りながら、先端をぱくっと咥える。
ポールの小さな口に、わたしのペニスを収めるのは無理なので、真ん中あたりから唇で扱くのが精一杯だ。
ぢゅぽっ、ぢゅぽっ、ぢゅうぅぅぅ。
扱きながら吸われると射精感がこみ上げる。我慢しながら、ポールの柔らかい髪を手で梳いた。
「んっ、ほんとに、わたしのちんちんが好きですね、あなたは」
ポールは頷くように、ぢゅっ、ぢゅっと強く吸った。
「このままじゃ出ちゃいますよ」
一応警告はしたけれど、ポールが離れる気配はない。
それどころか喉の奥に擦り付けるようにするものだから、わたしは本当にやばくなって口元を手で抑えた。
「うぅっ」
射精した、瞬間ポールは口からペニスを離した。
あっと思う間に、精液がポールの顔にべっとりとかかる。
顔も口の中も、白い精液でべしょべしょに濡れたポールが、にやりと笑ってわたしを見上げる。
「うわ……」
「アンタの匂いがする。最高」
若干引くくらい、ポールはいやらしい表情をしていた。
「もう、アナタって人は……」
わたしはハッと我に返って、ポールを風呂場へ連れて行った。
服の上からシャワーをかけて、びしょびしょにする。
「どうすんだよ、これ」
「どうせ洗うからいいんですよ」
そう言って、濡らした服を脱がせて手早く精液と汗を洗い落とした。
そしてバスタオルに包んだポールを脱衣所に追い出してから、自分の身体もひととおり洗った。ようやくひと息つく。
あぁぁぁぁ。
なんて体たらくだ。ポールと出会ってから、すっかり溺れている。
一介の会社員がこんな生活でいいんだろうか、とこんなとき、たまに冷静になる。
でも幸せだ。これが幸せと言わずして、何が幸せなのだろうか。
わたしは幸せを噛み締めて、風呂場を出た。さっさと体を拭いて、寝室へ入っていく。
「ポール?」
ベッドの上にポールは座っていた。
「髪乾かしました?」
「うん」
「じゃあ続きしましょうか」
近づいて、キスをしようとすると、ベッドの上に押し倒されたのでびっくりした。
「え」
「そのまま寝てるだけでいいぞ」
ポールはそう言って、ベッド脇に置いてあるローションを手に取ると、手のひらの上にたっぷり垂らし、自分で尻の穴を弄り始めた。
「んっ♡ んっ♡ はぁ♡ んぅ♡」
押し殺すような声を出しながら、片方の手で後ろを広げつつ、もう片方の手で自分のペニスを擦る。
「ちょっと、それじゃわたしのやることがないじゃないですか」
「いーんだってば、まだ」
「まだ? それに、目の毒です」
わたしは見ているだけで再び勃起していた。
さっきの快楽を思い出しつつ、目の前の光景に情欲を煽られる。
「ほら、元気になってきた」
「それはそうなりますよ。そんなふうに見せられたら」
ポールは笑顔になると、わたしのほうへ四つん這いで近寄ってきて、腹の上に跨った。
「そのままでいてくれよ?」
そう言われたのでおとなしく従っていると、わたしのペニスを自分で尻の間に埋めていく。
「うっ、でっかいから、なかなか入んない……っ」
「やりましょうか?」
「いい、俺がやんの!」
ポールは意地でも自分でペニスを挿入して先端の太い部分を捩じ込んだかと思うと、腰をゆっくり落としていく。
「ん♡ ……んぅ♡ もう少しっ♡」
「あんまり無理にしないでください」
「だい、じょうぶ♡ だからっ♡」
自分の体重をかけるように根元近くまで埋め込んで、ほうっと息をつく。
「動くなよ? 俺が、やるんだからっ」
そうして次に、自分で腰を揺さぶり始めた。
喘ぎながら、わたしに確認する。
「あっ♡ あっ♡ あんっ♡ どうだ、きもちいいか?」
「いいですけど……どうしたんですか、今夜はこんなふうに……」
「おまえがっ♡ 尽くして死んだなんて言われてっ♡ 腹立ったから♡」
「えっ」
全然そう見えなかったが、ポールは怒っていたらしいことがこのとき初めてわかった。
「誰だよ♡ その主人って♡ むかつく♡」
「いや、前世の話ですよ? それもインチキかもしれないし」
「前世でも♡ おまえは俺の♡ なんだよっ♡」
「ポール」
わたしは真剣な顔で、ポールを見上げた。
「わたしは、ポールのですよ」
「本当か?♡ 本当だな?♡」
念を押されて、わたしはしっかりと答える。
「はい、信じてください。わたしはあなたのものです」
そして願わくば、あなたもわたしのものだったら良いのに。
「うん……♡」
ようやく溜飲が下がったのか、ポールは大人しくなった。
わたしは、たまらなくなって、下から突き上げる。
「あっ♡」
急な突き上げにびっくりして、ポールはのけぞった。
「あっ♡ あっ♡ いきなりっ♡ 動くなぁ♡」
「わたしにも、可愛がらせてください」
ポールの怒りが解けたようなので、わたしも好きに動くことにした。
彼の腰を両手で押さえつけるようにして、下からガンガン突き上げる。
「あっ♡ そん、なっ♡ はげしっ♡」
「あなたがかわいいことを言うので我慢できません」
「んっ♡ あんっ♡ ガン突き、するなぁっ♡♡♡」
するなと言われても止まらなくて、下から奥の深いところをめちゃくちゃに突き上げた。
「Oh my god♡♡ Oh♡ Wait♡♡」
ガクガク揺さぶられて、ポールは白目を剥く。
「Ahhhhh♡ I’m cumin’♡ cumin’……っ♡♡♡」
ポールはわけがわからなくなったようにしゃくりあげながらイッた。
絶頂を迎えたナカにねっとり締め付けられて、搾り取られるようにわたしも二度目の射精をした。
ポールはしばらくぐったりしたり、痙攣したりを繰り返していたが、ようやく絶頂の衝撃から自我を取り戻した。
「はぁ……すごかった……」
「大丈夫ですか?」
「うん」
カーテンの隙間から窓の外を眺めてつぶやいた。
「……あぁ、もう朝になりそうだ」
「明日、じゃなくて今日は休みです。寝ましょう」
「ん……、チャギヤ」
韓国語で何か言われたけれど、わからないままわたしは目を瞑ってしまった。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
その夜、わたしたちは裸のまま、何の邪魔も入らないよう、隙間なくぴったりとくっついて眠った。
おしまい