夜、ハン理事に呼び出された。
見せたいものがある、というので何だろうと思いながら寝室へ行くと、ドアを開けた瞬間、全裸のハン理事が立っていたので驚いた。
「ど、どうしたんですか?」
動揺してたずねるが、ハン理事は無表情でわたしを見つめている。
まるで知らない人間を見るような目つきで。
わたしは不安になって、ハン理事に近づいた。
「風邪を引いてしまいますよ。何かお召になってください。何かあったのですか? いつもとどこか違う……」
「どこが違うと思う?」
急にハン理事の声が、違うところから聞こえてきてぎょっとした。
キョロキョロあたりを見回すと、隣接したバスルームの扉が開いて、バスローブ姿のハン理事がこちらへ歩いてくる。
「えっ? えっ? えっ?」
目の前には全裸のハン理事がいるのに、横からもう一人ハン理事が出てきたのだ。
わたしはパニックに陥った。
「ど、どういうことですか!?!?!?」
すると、バスローブを着ているほうのハン理事が愉快そうにケタケタ笑った。
「驚いただろう? 見せたいものがあるといったのはこれだ。我が財団の叡智をかけて作った俺のヒューマノイドだ」
「はぁ?????」
わたしはさらに混乱した。
いつのまに科学はそんなに進歩したんだ!?
ヒューマノイドなんか作れるのか?
疑って、もう一歩近づいた。間近からじろじろみても、ハン理事と瓜二つだ。違うことといえば、瞬きをしないことくらいだった。
「そんな……」
「驚いたか」
「はい、とても」
ハン理事は満足そうに肯いた。
「それにしても、何で全裸なんですか?」
「手っ取り早いだろ?」
「どういう意味ですか?」
聞き返すと、ハン理事はヒューマノイドに近づいて、顔を覗き込んだ。
「目を合わせて命令すると、従うんだ」
そう説明して、ヒューマノイドと目を合わせた。
「キスしろ」
えっと思って見ていると、ヒューマノイドはハン理事の唇に唇を合わせた。
「あっ、俺じゃない!」
ところが、ハン理事はすぐに顔を離して舌打ちした。
「あいつとキスしろっていう意味だ」
「えっ」
指を差されてわたしは驚いた。
「わたしと? ヒューマノイドが?」
「そうだ。俺は俺のヒューマノイドとおまえが睦み合うのを見てみたいんだ」
堂々と言うハン理事に、わたしは圧倒された。
「それより、おまえ、なんで勃っている……?」
「あっ、あっ、これは……」
指摘されてわたしは慌てた。
「その、ハン理事とヒューマノイドとのキスがあまりにも美しくて……」
「ふぅ、おまえのツボがどこにあるのかいまいちわからないな」
ハン理事は呆れたように言った。
「じゃあリクエストに応えてやろう」
そう言って、ハン理事はヒューマノイドに向き直った。
そしておもむろにキスをする。今度は深く。
唇の間から見える舌にわたしは大変興奮した。
鼻息荒くするわたしの前で、ハン理事はバスローブを脱ぎながら、ヒューマノイドをベッドに押し倒した。シーツの上で、キスをしながら抱き合う同じ顔の二人が美しすぎて、わたしは完全に勃起していた。
それをちらりと見たハン理事は、抱き合う腕を離して起き上がった。
「やっぱり自分としてもつまらないな。やめた」
「えぇー」
思わず声が出るが、ハン理事はヒューマノイドに目を合わせて命令する。
「今度こそ、あいつのちんちんをフェラチオしてこい」
「えっ」
わたしは緊張して固まっていると、ヒューマノイドはベッドを降りて、わたしの下半身の前にしゃがみ込んだ。器用にベルトを外してジッパーを下げ、下着ごと引き下ろした。
そして右手を添えながら、わたしのデカマラを口に含む。
わたしはいつもハン理事がしてくれる感触を思い出して、うっとり目を閉じたが、どうも様子が違うことに気づいて目を開けた。
ヒューマノイドは一生懸命デカマラを咥えて、あぐあぐ舌を動かしている。
しかし、違うのだ。いつもと。
舌の動きがつたない。たまに歯が当たったりもする。
とんでもない技巧を繰り出してくるハン理事とは大違いだ。
「こ、これは……ハン理事、まさか……」
わななくわたしに、ソファで肘をついて寝そべって一部始終を眺めていたハン理事は尋ねた。
「どうした?」
「このヒューマノイドは、”はじめて”では!?」
つまり、セックスやそれに準ずる行為をしたことがないということだ。
ハン理事はけろりとした顔で答える。
「そりゃそうだろう。完成したばかり、つまり生まれたばかりだからな」
「そっ、そんな、こと、いけません!」
わたしは慌ててヒューマノイドからデカマラを取り上げた。
すると<彼>は名残惜しそうな顔をして、不満そうに唇を尖らせた。
その表情はまさにハン理事そのもので、かわいらしさに色気たっぷりで、わたしは思わず喉を鳴らしてしまった。
「ははは、大丈夫だ。俺の記憶も埋め込んでいる。ただ動きが伴わないだけだろう。じきに慣れるし、何も虐待しているわけじゃない」
「そ、そうですか」
半信半疑の気持ちで<彼>を見下ろす。<彼>はわたしの顔を見て、にこぉっと笑った。そして足にしがみつくように抱きついてくる。
「自由な行動もするんですね。自我がある……?」
「それはない。埋め込んだ記憶と今までの学習でAIが行動を生成しているだけだ。すぐに命令しなくてもひとりでに動くようになる。賢いんだ」
「なるほど……」
「だから俺と同じように、おまえとセックスしたいと思っているぞ」
「光栄です」
わたしは返答して、<彼>の脇の下に腕を入れて立ち上がらせた。そして抱きすくめたまま、ズボンを脱ぎ捨てて、ベッドへ連れて行った。寝そべっているハン理事の横で、上半身も裸になり、<彼>を寝かせて唇や頬にキスを降らせる。<彼>はくすぐったそうに笑って、わたしの首に手を回して抱きついていた。とても人懐こい、そして無垢だ。
ハン理事の酸いも甘いも噛み分けた色気は最高だが、同じ容姿で無垢な様子を見せられると、それはそれで胸がぎゅっと痛くなる。
わたしはキスが止まらないまま、リラックスさせてあげるように手足を撫で擦った。
そうしているうちに<彼>のちんぽも勃起していた。
わたしの視線に気がつくと、<彼>は恥ずかしそうにもじもじする。
「かわいい……」
つい呟いて、形の良い乳首に吸い付いた。乳首を舌でねぶりながら、片手でちんぽを軽く握ってやわやわと擦ってあげた。<彼>はもどかしそうに、わたしの肩におでこを擦り付けてくる。なんて素直で奥ゆかしいんだ。
わたしは一度ベッド脇からローションを取るついでに体勢を変えて、ちんぽを舐めながら<彼>の脚を開かせた。固く閉じた奥の穴をローションを塗り込めた。
びくりと<彼>は反応して、目の奥に恐れを浮かべる。
「大丈夫ですよ」
わたしは優しい口調で言い、ちんぽの先を吸いながら、後ろの穴のこわばりをほどいていく。
「ん……♡ なんか♡ きもちい♡」
初めて<彼>が言葉を発した。
その声ははじめての快感に震えていた。
「指だけで気持ちよいですか?」
「んっ♡ んっ♡ きもちい♡ もっと奥ぅ♡」
うぶなのにねだってくるのもたまらない。
「もっと奥がいいんですね、じゃあ」
わたしは指を引き抜いて、勃起しっぱなしだったデカマラを穴にあてがった。
「挿れますよ」
そう言って頭を撫でて安心させてあげてから、挿入していく。
はじめて拓かれる場所は狭くて熱い。
わたしもその感触に感動を覚えていた。
ヒューマノイドとはいえ、ハン理事の”はじめて”をもらえるのだ。これが感動せずにいられるだろうか。
挿れられるところまで挿れて、わたしは止まって<彼>の顔を見た。
<彼>は目に涙を浮かべていた。
「痛いですか?」
ふるふると首を横に振る。
「大丈夫ですか?」
「ん♡ 奥まで挿入ってる♡ うれし♡」
「良かった」
「もっと♡」
「わかりました」
促されるままに、腰を動かし始めた。
「あっ♡ あぁっ♡ いぃっ♡ きもちい♡ んっ♡」
<彼>は本物のハン理事より控えめに声を上げる。
「あんっ♡ あ♡ はぁ♡ んっ♡」
「きつくないですか? きもちいいですか?」
「うん、きもちい♡ とっても♡ す……」
「ストーップ!」
突然割って入ったのは、ハン理事だった。
「そこまで。ストップだ」
「どうしましたか? ハン理事」
わたしは顔をあげてたずねる。
「おまえ、俺が横にいるの忘れてたろ」
「うっ、そ、そんなことは……っ」
正直、ちょっと忘れていた。
そのくらい、ヒューマノイドの<彼>に夢中になっていた。
「面白くないな!」
ハン理事はぷぅと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
「もしかして、嫉妬してくださってますか?」
「ふん!!!」
か、かわいい。
ハン理事もかわいくてたまらない。
自分から、ヒューマノイドとわたしのセックスが見たいと言っていたくせに。
どうしよう、かわいいとかわいいが渋滞を起こしている。
わたしは困りつつ、ハン理事の両頬を両手で挟んでこちらを向かせ、唇を重ねた。
「ん~~~~~~っ!」
ハン理事はいやいやと首を振って、キスを振りほどく。
「他の男と繋がったまま、キスするな!」
「他の男って、ハン理事のヒューマノイドですよ?」
「とにかく、抜けっ」
すごい剣幕で言われたので、わたしは<彼>の中からデカマラを抜いた。
「んっ♡」
名残惜しそうに<彼>が鳴くのを聞いて、ため息が漏れる。
「なんだ、俺じゃ不満か!?」
ため息を勘違いしたハン理事は、俺の上に乗っかってきた。
「不満な訳ないじゃないですか!」
「じゃあ何だ」
「どちらのあなたもかわいらしいってことです!」
「むぅ……」
納得行ったような行かないような顔をして、ハン理事は目を閉じた。
わたしはそれを合図と受け取って、もう一度キスを始めた。
ちゅ、ちゅっ、ちゅっ、と唇を何度か吸って、舌を挿れて口の中を舐め回す。
「んふ……っ♡」
ようやく納得したように、ハン理事は身を任せてきた。
わたしは両手でハン理事の薄い胸を揉み、指の腹で乳首を転がす。
「はぁ……♡」
ハン理事はわたしに思いっきり抱きついてきた。
まるで自分のものだと主張するように。
子どもがおもちゃを独占するのと同じ気持ちなのだろうか。でも相手は自分のようなものなわけで、そう必死にならなくても良いと思うのだが。
ちらりと見ると、ヒューマノイドの<彼>は文字通り指をくわえてわたしたちを見ている。と思っていたら、急に膝立ちになって、わたしたちを突き飛ばした。
「うわ、なんだ?」
びっくりしていると、<彼>は身をかがめて、わたしのデカマラを舐め始めた。
「あっ、こいつ!」
対抗して、ハン理事も反対側から舐め始めた。
「うわ」
ハン理事たち二人に舐められて、わたしは幸せのあまり頭がどうかなりそうだった。
同じ顔を寄せ合って、美しい二人が懸命に舐めている。
「あぁぁ、わたしは今死んでもいいです」
「何を泣いてるんだ」
ハン理事は呆れながら、しかし怒張したデカマラにちゅっと口づけてくれた。
しばらく二人が舐め続けてくれたけれど、わたしがそれで射精するわけもなく、疲れ始めたのを見て取って、わたしはハン理事に懇願した。
「ハン理事、挿入させてください」
するとハン理事は、うれしそうに顔を上げた。
「俺のほうに挿れたいのか?」
「はい、もちろんです!」
そう答えると、<彼>のほうは眉を下げて悲しそうな顔をした。
「ですが、<彼>を舐めてもよろしいですか?」
「あ? まぁ、そのくらいなら」
わたしたちの会話を聞いて、<彼>は顔を明るくした。
「じゃあ騎乗位がいいな、横になれ」
「はいっ」
わたしは言われたとおり横になった。
ハン理事は腰の上に乗っかってくる。
もじもじしている<彼>に、わたしは手招きした。<彼>は嬉しそうに、わたしの顔の上に覆いかぶさるように跨いだ。
「ん……っ♡」
ハン理事がゆっくりと自分で挿入していく。
わたしは目の前にある<彼>のちんぽを咥えた。
ここからがわたしのがんばりどころだ。
奥まで挿入したらしいところを見計らって、わたしは腰を上下に振り始めた。
「あっ♡ すごいっ♡ 突き上げてくるぅ♡」
気持ちよさそうなハン理事の声が聞こえて安心する。
一方で<彼>のちんぽを口の中で舐め回した。
「あんっ♡ きもちいっ♡ あっ♡ あっ♡」
二人の嬌声が部屋に響く。
腰も顎もけっこう疲れるが、二人を満足させるとはこのくらいの体力がなくてはならない。
わたしは覚悟して、無心になって二人に奉仕した。
「はぁんっ♡ いいぞっ♡ 奥に当たるぅ♡」
「はぁっ♡ あんっ♡ あっ♡ そんなとこっ♡」
同じ声の喘ぎが重なって耳に心地よい。
「あっ♡ もうっ♡ 出ちゃう♡ 出ちゃうよぉ♡」
<彼>のほうが先に根を上げた。
わたしは鈴口を舌先でえぐるようにして、さらに追い詰める。
「ひっ♡ うぅっ♡ もうだめぇぇ♡♡♡」
<彼>は泣きながら射精した。
口の中に苦い味が溢れる。ヒューマノイドは精液も同じ味なんだなと感心しながら、喉の奥にためて一気に飲み込んだ。
「あっ! 飲んじゃった……?」
初心な反応もかわいい。
たまらなくなったわたしは、ひときわ高く腰を突き上げた。
「あぁぁっ♡」
絶頂が近いハン理事の中がぎゅっといっそう締まる。
「うっ、そんなに締められると……っ」
しまった、とわたしは焦った。
うっかり限界を迎えてしまい、わたしはハン理事の中に思い切り射精してしまった。
「あ♡ あ♡ びゅるびゅる来てる♡ 俺の中におまえのが♡♡♡」
射精された刺激で、ハン理事も絶頂を極めてしまったようだ。
「~~~~~っ♡♡♡」
声にならない声を上げて、ハン理事は仰け反った。
長い絶頂に震える。
しばらくわたしはそっと見守っていたが、何度かビクビクと痙攣した後に、脱力した。
「はぁ……、気持ちよかった♡♡♡」
「満足していただけて良かったです」
「ん? 満足はまだしてないぞ。こいつもそうだろう?」
こいつ、と呼ばれた<彼>はきょとんとして、それからまたもじもじ腰を揺らせた。
「今度はこいつに挿れてやれ。それでその次はまた俺だ」
「え……、は、はい」
これは大変なことになったぞ、と青ざめたときはもう遅い。
その夜は朝まで二人交互に挿入し続けて、わたしは足腰立たなくなってしまったのだった。
翌日、姿を消したヒューマノイドについて、わたしはハン理事に尋ねた。
「<彼>はどこへ行ってしまったんですか?」
ハン理事はこともなげに答える。
「うん? 廃品にした」
「えっ!!!」
ぎょっとするわたしに、ハン理事は続けた。
「おまえとセックスするのが見たかったというのは、間違いだった。やっぱり面白くない。おまえは、俺とだけセックスしてればいいんだ」
「ハン理事……!」
要は、やっぱり嫉妬していたらしいハン理事のかわいい拗ね方に、きゅんとなった。
同時に、廃品となってしまった<彼>を思うと胸が痛くなった。
<彼>の”はじめて”を奪ってしまったことは、<彼>にとって幸せだったのだろうか。
そんなことを考える。
「なんだ? 俺以外のことを考えてるな?」
「いいえ!」
鋭く見透かされて、わたしは強く否定した。
「ふん、嘘つき。俺のことだけ考えろよ」
「はい、ハン理事」
目を見て返事をすると、ハン理事はようやく微笑んだので、わたしは背筋がぞくっとした。
自分と同じヒューマノイドをいとも簡単に壊してしまう残酷なところも、ハン理事の魅力のひとつなのだ。
おしまい