大人になってからも木登りをする羽目になる職業は、フリージャーナリストくらいだろう。今もこんな真夜中に、邸のまわりに立っている高い木によじのぼり、明かり採りの窓から邸の中が映るようにカメラ越しに覗き込んでいる。
ホジュン財団が住居としてメインに使っている大きな邸だ。
今回の取材のターゲットは、そのホジュン財団の創始者の息子で、理事を務めるハン・ヒョンチョルだった。
ヤツのまわりは大変きな臭い。
強引な土地の買収や、事業の計画に障害となる人物が都合よく行方不明になる。
しかもハン理事は、私設軍隊のような部下を引き連れている。
もしかしたら、ホジュン財団にとって都合の悪い人間を消しているのかも……という噂は水面下で流れているが、どこにも証拠はない。この証拠を掴めば、大スクープだ。
ギャンブルで金を溶かして、カツカツの暮らしをしている俺には、金のなる木に見えた。
おそらく、ハン理事を付け回していれば、何らかの証拠を手に入れられる。
そう思ってヤツのプライベートをひたすら嗅ぎ回ってみた。
ヤツはいい歳をして独身なので、不倫のようなスキャンダルは望めないが、それでも女関係で何かあるだろうと思ったのだが、女の影は一切なかった。外で遊んでいる様子もない。だから邸の中になにかあるのではないかと思ったのだ。
ソウル郊外にあるバカでかい邸は、最近建てたばかりのものらしい。
邸は私設軍隊のようなボディガードがうろうろしているので、裏手に回って木登りをしてたどり着いたのが、この明かり採りの窓だったというわけだ。
しかしここから見えるのは、大きなベッド、おそらくハン理事の寝室のようだ。
中に忍び込まないとろくな情報は得られないかもしれないな、と住居侵入を覚悟していると、部屋の中にバスローブ姿のハン理事が入ってきたのが見えた。
慌ててカメラを覗き込む。
すると、ハン理事の後に続いて、部下の男たちが数人部屋に入ってきた。ハン理事がベッドに横たわる間に、部下たちは素早く服を脱ぎだした。
!?
動揺してカメラを取り落としそうになった。
数人……冷静に数えれば五人の男たちと、ハン理事が交わり始めたからだ。
まじか!だから女の影がなかったのか!
俺は慌ててシャターを切ったが、ふと思い立って動画モードにして録画を始めた。
これは、スクープよりも金になる方法があるんじゃないか?
この動画でハン理事を脅せば、巨額の金を手に入れることが出来るだろう。
そう思って、俺は真剣に動画を撮っていた。
部下の男たちは皆、屈強な体格の持ち主で、殴られたらひとたまりもないだろう。そういう男が好みなのか知らないが、ベッドの上で仰向けになったハン理事は、左右両側から二人の男のペニスを交互に咥えている。
確かにハン理事の顔は整っていてハンサムなほうだろう。だが、横から突き出されたペニスを舐めまわしているハン理事は、淫靡で猥雑な表情に満ちている。
他の二人はハン理事のペニスを舐め始めた。
そして最後の一人は、ハン理事の脚を持ち上げ、正面から犯し始めた。
うっ。
声は聞こえないが、そのあまりにも淫猥な絵面に、俺は思わず前かがみになった。
くっそエロいな。一発抜きたいところだが我慢だ。
黙って動画を取り続けていると、あることに気がついた。
体位を変えても、ハン理事を犯しているのはさっきの男だけだ。顔立ちのくっきりした、ひときわハンサムな男だ。その男は、後ろから前からハン理事を犯した挙げ句、顔を近づけて長いキスに興じたりもしている。
きっと、ハン理事の本命はこの男なのだろう。
この男に後ろから犯されて、ハン理事は恍惚とした表情を浮かべている。
俺はその様子を懸命にカメラで追っていた。
すると……、目が、合ったような気がした。フレームの中のハン理事とだ。
ヤツは俺をみて、にやりと口の端を上げた。
ぞっとして、俺は撮影をストップした。なんだかやばい。
今すぐ逃げようとした視界の端で、本命の男が寝室から出ていくのを捉えた。
やばい、やばい。
カメラを大事にかかえて、滑り落ちるように木を下りた。
邸の近くにある林に向かって、一目散に逃げ出した。
おしまい