愛と笑いの夜

 ジェームズと暮らしはじめてしばらく経つ。
 お互い、身を寄せ合うように始めた二人暮らしだが、思いの外上手くいっている。
 以前、捜査本部に使っていた一軒家を買い戻したので、居心地も良い。
 俺は毎日、警察署に出勤しているが、ジェームズはIQ187の頭脳だけ韓国警察に雇われているという状態で、家にずっと居るときもあれば、しばらく姿を見せないときもある。
 今夜、俺は仕事の後、同僚たちと飲みに行ってきた。
 帰りは午前様で、家の中には誰もいないと思いきや、ジェームズは一人屋根裏部屋にこもってパジャマ姿で膝を抱えていた。今にも死にそうな顔をして。時折やる、ジェームズの悪い癖だ。
 ドアのところから声をかけた。
「こんな遅い時間に何やってる?」
「…………」
 ジェームズは目線も動かさずに、何も映っていないTV画面を見ている。
 俺は呆れて、もっと彼に近寄った。
「んー」
 顔を近づけて、こめかみにキスをする。
 と、顔ごと手のひらで遠ざけられ、拒否された。
「酒くさい」
 それはそうだ。浴びるほど飲んできた。
「じゃあ、シャワー浴びたらいいか? それとも一緒に風呂入るか?」
「風呂はさっき入った」
 そっけない対応のジェームズの横顔を、俺は酔った頭で眺める。
 彫刻のように整った鼻筋、つんと上を向いた唇、何より茶色のガラス玉のような眼。
 見惚れるほど美しい。
 と、思っていることは口には出さない。
 代わりに、両手を広げて抱きしめた。
「それなら、触らせてくれ」
「は?」
 俺は性急にジェームズの体をまさぐり、手のひらで素肌に触れた。
「つめたっ」
「温めてくれよ」
「さっきから何甘えて……」
「甘えたいの」
 正直に言って、俺はジェームズの唇の横にキスをした。
「む……」
 すると、ジェームズも大人しくなって、キスに応じてきた。
 お互いの唇を重ねて、ねっとりと舌を擦り合わせる。甘く脳が痺れる。
 ささくれだった気持ちが落ち着くような気がする。
 角度を変えながら、何度もキスを繰り返しつつ、俺はもぞもぞと手を動かした。パジャマを引きずり下ろし、下着の中に手を突っ込む。
「ん……ふ……ぅ!?」
 気付いたジェームズがびくっと体を震わせた。
 俺が彼のちんぽを直に握ったからだ。
「ちょ、おい」
 ジェームズは俺に体のどこを触られても怒らないが、ちんぽを触ると困惑する。
 それは、いくら愛撫しても固くならないからだ。本人は、長年服用している薬のせいだと言っている。確かに、握ったちんぽは平時より熱を持ってはいるが、ふにゃふにゃだ。ジェームズは気まずそうに身動ぎをする。
「薬、やめたって言ってなかったか?」
「やめたが……、長い間飲んでたからそんなにすぐには戻らない」
 ジェームズは答えた。
 そもそもその薬というのが、だいぶ物騒な薬品らしい。俺と二人で暮らすようになって、自然と服用する回数が減り始めたと以前話してくれた。それが良い話なのかどうかわからなかったが、恥ずかしそうに彼が笑って言っていたので、良い話なんだと受け取った。
 だから勃起不全も解決するだろうと思っていたのだが、そう簡単ではないようだ。
「そうなのか」
 俺はソファの上に乗り上げて、ジェームズの体を押し倒すと、パジャマのズボンを下着ごと脱がせた。
「……するのか?」
「しないよ」
「???」
 不思議そうに見ているジェームズ本人をよそに、俺は彼のちんぽに向かって話しかける。
「もったいないなぁ、せっかくこんなに立派で、きれいな形をしてるのに」
 そう言って、ぱくっと亀頭を口に含んだ。
「こらっ!」
 怒られたが気にしないで、口の中で丸みのある部分を舐める。
「あっ、うっ、ちょっと待っ」
「はんはははふはっへひはひはふふ(なんか固くなってきた気がする)」
「んっ、喋んな……あっ、はぁ、んんっ」
 勃たなくても感じることは感じるようで、ジェームズは色っぽい声で喘ぐ。
 俺は調子に乗って、さらに舐めたり吸ったりした。
「あーっ、あっ、んっ、はぁ、や、あぁっ」
 やっぱり固くなってきたような気がして、俺は一度口を離した。
 唾液に濡れたジェームズのちんぽは、しっかり天井を向いていた。
「おぉ……、見ろ、勃ってるぞ」
「え? あっ」
 ジェームズは顔がみるみるうちに真っ赤に染まった。
「良かったな。このまま射精出来るかもしれないぞ」
 そう言って、もう一度ちんぽを口に含んだ。
「あっ」
 そして先っぽを思いっきり吸う。
「あぁっ」
 吸いながら頭を上下させて唇で扱いた。
「うっ、そんな、あ、あぁっ」
 口の中で弾けた感覚があった。
 どろりとした少量の精液が、喉の奥に流れ込んできた。
 それをごくりと飲み込んで、粘つく口の中を俺は舌で舐め取った。
「射精出来たじゃないか! やったな! 治ったぞ!」
「う……」
 ジェームズは目に涙を溜めて、視線を泳がせている。
「…………? 嬉しくないのか?」
「恥ずかしい……っ」
 両方の手のひらで顔を覆ってしまった。
 うっ、かわいい。
 俺は胸の痛みを覚えて、思わず唇を噛み締めた。
「ははは、すっきりしただろ?」
 ジェームズはこくんとうなずく。
「ずっともやもやしてた感覚がいきなりクリアになった」
「なるほど」
 感心していると、ジェームズは俺の方をじっと見つめている。
「どうした?」
 たずねると、彼はまだ潤んだ目で、真剣な表情をして言う。
「僕も同じことをするべきだ」
 そう言って彼は俺のベルトを外し始めた。
「あっ、おい、俺シャワー浴びてないって」
 そういうことを人一倍気にしそうな男が、俺のズボンを脱がしにかかっている。
 下着ごと抜き取られて、俺は下半身裸になってしまった。
「……なんでだ?」
 ジェームズは眉間にシワを寄せて、俺のちんぽをじっと見つめる。
「普通だったら、この時点でガチガチに固くなってるだろ? 今日はどうしたんだ?」
「それは……飲みすぎたせいだな……」
「なんだと」
 信じられないというような表情をして、彼は目の前のちんぽを片手で握った。
「お、おい」
 れーっと舌を出して、舐めようとする。
「だから汚いって」
「気にしない」
「うそつけ!」
 絶対気にしているはずなのに、平気な顔をしてジェームズは舐め始める。
「うぅ」
 こんなシチュエーション、普段だったら我慢できないくらいバキバキになるのに、今夜は気持ちよさはあるものの、もやもやするだけだ。
「……おまえの言ってたことがわかったかも」
「そうか」
 ジェームズはもぐもぐ口を動かし続ける。
 俺はしかたなくちんぽを明け渡して、体の力を抜いてソファに寝そべることにした。
 それからどのくらい経っただろうか。
 しつっこくジェームズは俺のちんぽを舐め続け、次第に酔いが覚めてきた俺は、無事に勃起出来たのだった。
「ふふ、僕の粘り勝ちだな」
「ちんぽがふやけるかと思ったわ」
 俺は、唾液まみれになった自分のちんぽを触って、固さを確かめる。
「挿れられるけど、どうする?」
「何のためにこんなにがんばったと思ってるんだ」
「そんなに俺が欲しかったの? 嬉しいな……」
 俺はニヤニヤしながら、ソファから立ち上がり、部屋の隅からローションを取ってきた。
 戻った俺は、ジェームズの片足を肩に担ぎ、脚を開かせた。尻の穴の上からローションを垂らして、指の腹で撫で付ける。
「ん……、ぁ、はぁ」
 指を押し付けるように挿れていき、浅いところでぐるぐる回していると、ジェームズは口元に手を当てて小さく喘いだ。
「そこ、ばっかり、する、な」
「奥が好きなんだもんな。知ってる知ってる」
「だったら……!」
「俺のこれで突いてやるから」
 指を引き抜いて、代わりにちんぽをあてがった。
 少しずつ中へ挿れていく。
「んぅ、あ、あぁ」
 奥へ進むにつれ、ジェームズの息が上がっていく。
 根元まで全部挿れ、しばらくじっとしていると、ジェームズが背中に手をまわしてトントンと合図するので、俺はゆっくり腰を引いて、抜けるギリギリのところでまた奥へ突っ込んだ。
「あぁっ」
 それを何度も繰り返しているうちに、俺は射精感が募ってきた。
「悪い、ちょっと速くする」
 そう言って腰の動きを速めた。
「あっ、んっ、あぁっ、はぁっ、んんっ」
「う、出る」
「あぁぁっ、あっ」
 俺達はほぼ同時にイッた。
 出したら波が引いていく俺とは違い、中でイッたジェームズは快感が長引いて、俺の下でびくびく痙攣している。俺はそれを邪魔しないように待っていた。
「……は、ぁ」
「大丈夫か?」
「ん」
 痙攣が治まったジェームズは、興奮の醒めきらない顔つきで、俺を見上げた。
「オ・デヨン、なんてかわいいんだ」
「は?」
「イク時の顔が最高にかわいい」
「何言ってるんだ」
 射精するときの顔なんて間抜けに決まっている。
 それをかわいいと思えるなんて、それは、つまり、惚れているということじゃないだろうか。そう思ったら、俺は激しく照れた。
「う、あんまり見るな」
「どうして」
 抱き合いながら、視線を避けるように動いたら、ジェームズが追うように動いたので、二人してソファから転げ落ちてしまった。
「いたた」
「あーぁ」
 お互いに呆れ、笑ってしまった。
 これから二人でシャワーを浴びて、ちゃんとベッドで寝よう。
 その前にもう一回だけ、キスを。

おしまい

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