秘密裏に武器などを売ってくれる商社の社長から、ハン理事がゴルフに誘われた。場所はアメリカのアリゾナ州にある会員制のゴルフクラブだった。
もちろん理事は二つ返事で誘いに乗った。
その結果、わたしは自家用ジェット機に同乗して行く羽目になっていた。
アリゾナは当たり前だが暑い。わたしも理事も屋外ではサングラスをかけた。
終始ハン理事はご機嫌で、スコアも伸ばし、クラブハウスで300gのステーキをぺろりと平らげていた。
楽しくゴルフコースを回った後、その社長からセクハラを受けて、一悶着あったのはまた別の話になる。
これは、帰国前日に寄ったセドナという町での話だ。
セドナに行こうと言い出したのはもちろんハン理事だった。
「どのような目的で行かれるんでしょうか」
セドナといえば、ニューエイジとかスピリチュアルと呼ばれる類の聖地だという。
セレブリティはそういう類にハマる人間も多いが、ハン理事は現実主義だったから、意外だった。
「ヒプノセラピーというのをやってみたい」
「ヒプノセラピー?」
知らない言葉だったので、その場でスマホを使って調べた。
つまり、催眠療法のことらしい。つらい記憶の解消、トラウマやパニックの軽減に効果があるという。
「理事……、なにかお悩みでも……?」
私は不安になって青ざめた。
「ただの好奇心だ」
そうは言われても、理事の様子はおかしかった。
ヒプノセラピーのセッションの予約をしたのはわたしだが、わたしを車に待たせたままで中までは連れていかないというのだ。
「理事お一人でですか? なにかあったらどうされるんですか!」
「2時間、一人になるくらい大丈夫だ。おまえは俺の保護者か?」
そうです!と言いたい言葉をぐっと飲み込んだ。
こんな危なっかしい人を一人にしておけないのだが、命令されれば従うしかなかった。
ひとつ安心材料といえば、カウンセラーが高齢女性だったことだ。襲われる心配はおそらくないだろう。
わたしは車でハン理事をセッションの行われる場所(コテージのような建物だった)へ連れて行き、彼を送り出した。そして車の中で待つこと二時間ちょっと。
建物から、ふらふらとハン理事が出てきた。
「ハン理事!」
慌ててわたしは車の外に出て駆け寄る。
「大丈夫ですか? どうなさいました!?」
「大丈夫だ。眠っていたからまだちょっとふらふらしているだけだ」
「それなら良いのですが……お車へどうぞ」
後頭部席に乗せて、わたしは車を走らせた。
赤い岩山の間の広い荒野を、延々と走っていく。
まわりはサボテンと捻子曲がったジュニパーの樹木ばかりだ。
車に乗っている小一時間ほどの間、ハン理事は後部座席でまだうとうとしていた。
宿泊しているリゾートホテルに着いて、わたしは起こしたハン理事を抱きかかえて車から降ろした。
「おい、俺は歩けるぞ」
「大丈夫です。誰も見ておりません」
言った通り、周囲にひと気はなかった。
わたしは構わずに、ハン理事を抱きかかえたままスイートルームまで歩いていく。
空調の効いて涼しい広い部屋を横切って、寝室までお連れして、そっとベッドの上に横たえた。
「……なんだ、俺を抱きたいんじゃないのか?」
ベッドの上で仰向けになって、ハン理事はわたしにたずねた。
「今は、心配しています。その、セラピーはどうだったのですか?」
差し出がましいようだが、聞かずにはいられなかった。
ハン理事は口の端を片方上げて答えた。
「あぁ、うまくいかなかったんだ。俺はただ眠っていただけだ。催眠状態にならなかった」
「そんなことがあるんですか」
「たまにうまくいかない場合があるらしい。カウンセラーは金を受け取らなかったよ」
「そうですか。じゃあ、本当に眠いだけですか?」
「うん、そうだな」
わたしは首を傾げた。
「何か、カウンセリングのん際に飲食物を口にされましたか?」
「うーん? 水は飲んだ」
「変な薬とか入ってなかったでしょうね……」
心配になった。カウンセリングと称して変なことをされたのではないかと。
相手が老婆といっても、ハン理事はセレブリティだ。何をされるかわからない。
わたしがそんなことを考えているのを見透かしてか、ハン理事は軽く笑った。
「おまえは過保護だな」
「それが仕事ですから」
わたしは即答した。
すると、ハン理事は寂しそうに目を細めた。
「そうか、そうだな……」
「ハン理事?」
「こっちへ来い」
ハン理事が両手を伸ばすので、わたしはベッドの上に乗り上げた。
誘われるままにキスを落とす。
「眠らないんですか?」
「眠らない。今はおまえとしたい。いやか?」
「いやではないですが、ちょっと心配で」
そう答えると、首の後ろに腕を回され、がっしり固定されてしまった。
「心配はもういい。この俺をめちゃくちゃにしろ」
「ハン理事……!」
わたしは煽られるまま、キスを再開して舌を絡ませた。
ハン理事は少し笑っているようだった。
機嫌が直ったなら嬉しい。
キスをしながら、お互いの服を脱がせあった。
やっと裸になって、首筋に顔を埋めて、両方の乳首を爪先で押しつぶすようにいじる。
「あっ、んっ、んふっ」
感度はいつもどおりのようだ。安心してわたしは愛撫に努めた。
あちこちを舐め回し、キスを降らせていると、小さく喘いでいたハン理事が急に静かになり、体の力も抜けてくたっとしてしまった。
「?」
顔を上げて確かめると、ハン理事は眠っていた。健やかな寝息を立てている。
「あー……」
わたしは思わず天井を見上げた。
困ったことにわたしのデカマラはギンギンである。
眠っているハン理事をどうこうする趣味はないのだが、せめて、お姿を見ながら抜かせていただいても良いだろうか、と考えていた。
すると、ハン理事が何かぼそぼそ寝言を言い始めた。
「……?」
何をおっしゃっているのか聞き取ろうと顔を寄せると、ぱちりとハン理事の目が開いた。
「わっ」
「……おにいさん、だれ?」
「え?」
急に警戒するような目つきになったハン理事は、わたしを「おにいさん」と呼んだ。
「どうされたんですか? ハン理事」
「理事? ぼくが?」
幼い口調で話すハン理事に、わたしは何となく思い当たることがあった。
さっきまで効かなかった催眠療法が、今効いてきたのでは?
催眠中に幼児退行……いや、それよりは大きいな、十代くらいだ。つまり、思春期退行してしまっているのではないだろうか。
「ハン理事、いや、ハン家のお坊ちゃんですね」
「うん」
「わたしはあなたのボディガードです」
「あぁそっか」
説明すると安心したような顔を一瞬見せたが、ハン理事は自分たちが裸であることに気づいて、また表情を曇らせた。
「ボディガードをベッドに連れ込んだなってお父さんに叱られるかも」
「大丈夫ですよ。二人だけの秘密にしますから」
「そうか? 絶対だぞ!」
ハン理事は嬉しそうにくすくす笑った。
コロコロと良く表情が変わる。子供の頃はこんな素直な子だったのか。
「わぁ、おまえのちんちんでっかいなぁ。触ってもいい?」
「良いですけど……」
なんだか子どもに悪いことをしているような気がして、わたしは気が引けてしまった。
外見はハン理事のままなので、ぎりぎりセーフだと思うのだが……。
「あっ、萎えた。なんでだ? ぼくが大きくしてやる!」
ハン理事はわたしのデカマラを両手で握って、ゆるゆると擦り始めた。
「ぼくがこうしてちんちん好きなこと、お父さんは怒るんだ」
拙い手つきで扱きながら、ハン理事はぽつりぽつりと話し始めた。
「お父さんはいっぱい女の人と寝てるのに。お母さんが病気でも、フィリピンに行って遊んでたくせに。お母さんが死んだら、すぐにまた結婚してさ。でもぼくはセックスしちゃだめなんて、ずるいよ」
ハン理事はぼろぼろと涙をこぼす。
わたしは胸が締め付けられるように痛くなった。
「あぁ、お坊ちゃん。おかわいそうに」
わたしはハン理事を手繰り寄せてぎゅっと抱きしめた。
「ん、苦しいよ」
「すみません!」
「いいよ、許して上げる。ねぇ、おまえはぼくのことを好きなの?」
上目遣いで見つめられて、わたしはごくりと唾を飲み込んだ。
「はい、お慕いしております」
「じゃあぼくを連れて逃げてよ」
「それは……」
思わずわたしは言い淀んで、ハン理事をがっかりさせてしまった。
「やっぱり出来ないんだね。みんなそうなんだ」
ぼそっと呟くハン理事に、わたしは耐えられなくなった。
意を決して両手を掴んで言う。
「逃げましょう! 二人で! どんなところでも行けます。わたしの稼ぎじゃ貧しくなりますが、我慢していただけますか?」
一度言ってみたかった言葉だ。
言ったら最後、わたしの命はなくなるだろうと思っていたのだが、まさか口に出す日が来るとは思わなかった。
「ほんとに? うん! 我慢するよ!」
ハン理事はわたしに飛びついてキスをした。
「その前にぼくを抱いてくれる? このでっかいちんちんで、めちゃくちゃに気持ちよくしてよ」
再びわたしのデカマラを握るハン理事を、わたしはそっとベッドに横たわらせた。
「お望みのとおりに」
わたしは再びハン理事に愛撫を始めた。
肌の薄いところを狙ってキスをしていく。時折強く吸う。
「あっ♡ んっ♡ はぁ♡ きもちい……♡」
ハン理事はうっとりとつぶやく。
ハン理事がヒプノセラピーで解消したかったのは、この頃の心の傷なのだろう。
思春期真っ盛りに、父親が再婚したと聞いている。
女遊びの激しかった父親に加えて、自身のセクシャリティの悩みもあったことだろう。
その苦しみをまだ忘れられていないハン理事を思うと、ひどく胸が痛む。
わたしで癒やして差し上げられるだろうか。
少しでも、お力になれたら良いのに。
そういう気持ちを込めて、全身を舐めたり、撫でて差し上げる。
「はぁ♡ ん♡ あぁ♡」
すっかりハン理事をメロメロにしたあと、わたしは彼のちんぽを手にとって、口に含んだ。
「あぁっ♡」
根元から一気に何度か扱き上げ、カリのくびれを舌でちろちろくすぐる。
「あっ♡ あっ♡」
先端に唇を押し付けて、鈴口に舌先を押し込める。
「んーーっ♡♡♡ 出るっ♡ 出ちゃうよぉ♡♡」
いちいち反応が幼くて、わたしはいけない気持ちになりながら、射精を促すように鈴口を吸い上げた。
「あぁぁっ♡♡♡」
ハン理事はひときわ高い声を上げて、わたしの口の中に精液を吐き出した。
わたしはそれをそのまま飲み込んで、さらに吸い尽くすように吸い続ける。
「んんっ♡ もう♡ だめぇ♡♡♡」
ハン理事がわたしの髪の毛を引っ張るので、わたしは止めて、顔を上げた。
「気持ちよかったですか?」
「うん、とっても♡」
「もっと気持ちよくしてさしあげましょうね」
そう言って、わたしはハン理事の脚を大きく広げさせた。
ベッド脇に置いてあるローションのボトルを手にとって、中身を指に絡めてから、ハン理事の尻の穴を丁寧に解し始めた。
シワのひとつひとつをほどくようにして、縁を指の腹で撫で、ひらいていく。
「あんっ♡ あっ♡ なんかっ♡ こわいっ♡」
「怖いですか?」
「良すぎてっ♡ あぁっ♡」
それなら大丈夫だろうと、わたしは指を尻の穴に埋めていく。
「あっ♡ んっ♡」
ハン理事の体の中は熱く、指を締め付ける。わたしは指を不規則に動かした。
「あぁんっ♡ あふっ♡ んっ♡ くっ♡」
「まだこわいですか?」
「あっ♡ こわい♡ けど♡ もっと♡♡」
かわいらしい。煽られて、わたしは指を引き抜いた。
かわりにデカマラを充てがって、少しずつ挿入していく。
「わぁっ♡ そんなでかいの♡ 入る♡ の?♡ あっ♡」
「大丈夫ですよ」
中身は思春期の少年でも、体はハン理事のままなので、もちろん入る。
わたしはいつものように、焦らしながら、デカマラを奥まで入れていった。
「あっ♡ あっ♡ 奥♡ おくっ♡ すごいっ♡」
「奥を突かれるのがお好きでしょう?」
「えっ♡ だめっ♡ こんなの♡ へんになっちゃうよっ♡」
動揺する彼をなだめるように抱きしめながら、わたしは腰を突き動かした。
「あっ♡ あっ♡ へんっ♡ 変になるっ♡」
「変じゃないですよ。気持ち良いでしょう?」
「きもち♡ よすぎるぅっ♡ あぁっ♡ どうしよう!♡♡♡」
目に涙をためて、すがってくるハン理事が愛しくてたまらなくなった。
まだドライでイッたことがないのかもしれない。
初めての感覚を教えて差し上げると思うと、感無量だ。
「あっ♡ あぁっ♡ もう♡ だめぇっ♡♡♡」
ハン理事は手足をわたしに絡めて抱きすがってきた。
そのまま絶頂に達してしまったようだった。
ぎゅっと抱きつかれ、中でもぎゅうぎゅう締め付けられ、わたしも射精してしまった。
「うっ」
「……あ♡ あぅっ♡」
それでも離れないハン理事の頭をそうっと撫でていると、急にぱたりと力が抜けた。
「お坊っちゃん?」
眠りに落ちてしまったようだ。
大丈夫かな?
次に目が覚めたときは、元に戻ってるだろうか。
気になりつつ、抱きしめながら、わたしもうとうとしてついには眠りに落ちてしまった。
「おはよう。起きたか?」
「え……あぁっ、おはようございます!」
そのまま朝まで隣で眠ってしまったわたしは、ハン理事の声に慌てて起きた。
「気にするな、誰も見てない」
「はぁっ、すみません。すぐ支度します!」
慌ててシャワーを浴びに行き、浴室から出ると、新しい服をハン理事が揃えて置いてくれていた。(こういうときのために用意してくれていたものだ)
「ありがとうございます!」
頭を下げて、服を身につける。
「もう今日で帰国だな。いろいろあったが、今朝は実に気分がいい」
ハン理事は満足そうに呟いた。
「そうですか? それは良かったです」
そう言うと、本当にご機嫌なハン理事は、わたしの頬にキスをひとつしてくれた。
「!」
こんなことは初めてだった。
よっぽど良いことがあったのだろうか。
「夢を見たんだ」
とハン理事は言った。
「思春期の頃の夢だ。あの最低な頃に、おまえに抱かれる夢を見た」
「えっ」
「いい夢だった」
ハン理事は微笑んで呟いた。
わたしは、何も言わずに黙っていることにした。
おしまい