また人を殺した。
ハン理事のまわりをしつこくうろちょろしていたフリーのジャーナリストだった。
自分でやるとハン理事はおっしゃってくれたが、我々で先に始末した。ハン理事の手を煩わせるまでもない男だ。
銃で二発急所を打ち、死体を林の中に埋めた。
事前に調べたところ、ほとんど天涯孤独に近い身の上だったため、彼を探す人間はいないだろう。
こうして人を殺したのはもう何度目か数えるのはやめた。
我々はハン理事に仕える私設軍隊のようなものだ。働きに応じてじゅうぶんな報酬を与えられる。だが、決して金のためだけで動いているわけではない。ハン理事には我々を心酔させるカリスマ性がある。
とくにわたしはハン理事に傾倒している。
何度か寝室に呼ばれてからも、いつもは無表情の下に隠しているが、内心はメロメロだ。
だからハン理事のためなら何でもする。
けれど、人を殺したあとは何故か興奮するのも事実だった。
妙に心拍数が上がり、食欲も増える。何より、性欲が高まる。
仕事を終えて帰宅したら、自慰でもするか、と思っていたところ、ハン理事からお声がかかった。
「今夜、寝室に来い」
耳元で囁かれ、わたしの心臓は跳ね上がった。
素直に嬉しい。しかし少しの懸念もあった。
人を殺した後の興奮したわたしは、ハン理事を丁寧に抱けるだろうかということだ。あの方の滑らかな肌に触れると、ただでさえ理性をなくしてしまうというのに。
困った。しかし断るという選択肢はわたしにはないため、時計が0時を回った頃、ハン理事の寝室へ向かった。
「おめでとう」
部屋に入るなり、バスローブ姿でワインを嗜んでいたハン理事にそう言われ、わたしの頭の中は真っ白になった。
「えー……と」
戸惑うわたしに、ハン理事は笑った。
「なんだ、忘れてるのか? 今日はおまえの誕生日だ」
「あっ」
驚きのあまり、無表情が崩れてしまった。
自分の誕生日などすっかり忘れていたし、ハン理事に祝っていただけるなど思っても見なかった。
「失念しておりました」
「ははは、今夜は祝いに呼んだんだ」
「そんな……光栄です」
わたしは柄にもなくもじもじと恐縮した。
すると、ハン理事はわたしにワイングラスを渡した。
「アルコールは?」
「飲めます」
「そうか」
確認すると、高級そうな赤ワインを注いでくれた。乾杯をする。
「31か。俺よりひとまわり以上、若いな」
「はっ、ハン理事はとってもお若く見えます!」
的はずれなことを言ってしまったのだろうか、ハン理事は愉快そうに肩を揺らし、ワインを飲み干した。わたしも慌てて飲み下したが、緊張で味はよくわからなかった。
「今夜のおまえは寝てるだけでいいぞ」
「えっ? どういうことでしょう?」
促されるままにベッドの真ん中に横たわったわたしは、まだ服を着ている。
「こういうことだ」
ハン理事もベッドに乗り上げ、わたしの腹を跨ぐように膝立ちになった。そして楽しそうにわたしのネクタイを外しにかかる。
「あの……」
「動くなよ。寝てるだけでいいと言っただろう」
一瞬、冷たい目で睨まれた。
本気の目つきだ、これは。動いたら殺される。わたしは石のように寝転がることにした。
ハン理事はすぐに表情を戻し、微笑みを浮かべながらわたしの服を脱がしていく。ネクタイをほどき、シャツのボタンを外し、アンダーウェアも引っ剥がす。それから少し体勢をずらして、ベルトを抜き、ズボンを引き下げる。ボクサーパンツも下ろされる段階になって、ようやく羞恥がこみ上げてきた。
さっきからすでに少し勃っているのだ。
それをハン理事に見つかってしまって、赤くなっているはずのわたしの顔を、ハン理事は楽しそうに見つめた。
「元気そうだな」
ハン理事はそう言って、わたしのデカマラの根元に片手を添えると、舌を出して先端に触れようとした。
「あっ」
「……まだなにかあるのか?」
「わたしはまだシャワーを浴びておりません!」
慌てて言った。
しかも、昼間に死体を埋めるために多少の汗をかいた。
しかし、
「なんだ、そんなことか」
ハン理事は鼻で笑って、わたしの半勃ちのデカマラにくちづけた。
「!!!」
平気な顔をして、ちゅ、ちゅ、と数回くちづけたあと、ぱくっと先っぽを咥えた。
口の中でぺろぺろと先端の丸みを舐める。
「ふぁ……♡」
わたしは天にも昇る心地になった。
舌先を尖らせて鈴口をつつかれたり、ぐぅと押されたりするうちに、半勃ちが完勃ちになる。ぢゅるっ、と唇で扱きながら、一度口から完勃ちのデカマラを出すと、ハン理事は満足そうに舌なめずりをした。
「ふふ、濃い匂いがするな」
「だ、だから申し上げたではないですか!」
「ばぁか、それがイイって言ってるんだ」
甘い声で罵られて、わたしはうっかり射精しそうになってしまった。
ばぁかって言われた……ばぁかって……もう死んでもいい……。
全身の力が抜けたわたしの、一箇所だけ血が集まって漲っているモノから溢れ出る先走りを、ハン理事はぺろぺろと丁寧に舐め尽くす。
「はぁ♡ はぁ♡ うぅ♡」
ハン理事の舌遣いは、わたしを追い詰めるというよりも、感触を味わっているようだった。浮き出た血管をなぞるように舐めていたかとおもうと、雁首のまわりをチロチロくすぐり、舌先を固くして鈴口をほじくる。
「はぁ……♡ ハン理事……♡」
わたしは熱に浮かされたように荒い呼吸を繰り返す。
もう一度、ハン理事は大きく口を開けて、デカマラを口いっぱいに咥えこんだ。
ぢゅっぢゅっ、ぢゅるっ、ぢゅうぅぅぅ。
品のない音を鳴らしながら、ハン理事は口の中を密着させて、頭を上下にゆっくり振る。
ぢゅぷぷ、ぢゅうぅ、ぢゅぷっ、ぢゅぱっ。
疑似挿入の快感に、わたしは喉を反らせた。
「うぅ~~~~~~♡」
気持ちいい。射精したい。でもこれじゃあイケない。
ハン理事の小さなお口ではわたしのデカマラは収まりきらず、ゆっくりしたピストンでは射精の決定打にはならない。気持ちいいけど苦しい。まるで、快楽の波に溺れているような気がする。
出したい。でも出せない。どうしたら……?
それをわかっているのかいないのか、ハン理事はわたしを挑発するように言った。
「らひへいいんあお?(出していいんだぞ?)」
その時、わたしのなけなしの理性が完全に途切れてしまった。
腰を思い切り跳ね上げて、デカマラを根元までハン理事の口の中にねじこんでしまった。
「んぶっ!?!?」
そこからは止まれなかった。
ハン理事の頭を両手で掴み、喉の奥に先っぽをこすりつけてしまった。
「うぐっ、ぐぅっ、くはっ」
苦しがるハン理事を無視して、何度も腰を打ちつけ、やわらかな粘膜の感触を味わうと、ついにわたしは喉の奥に思いっきり精液を吐き出した。
「んんんっ!!!」
どくどくと大量に飛び出した粘液をハン理事に無理やり飲みくだせた。
「げほっ、げほっ、かはっ」
ハン理事は反射的にむせる。
わたしが恍惚としていたのは一瞬で、すぐにハッと我に返った。
「わぁっ、失礼をいたしました! 今水を持ってまいります」
青ざめたわたしが起き上がろうとすると、ハン理事は手で制した。
「げほっ、いい、大丈夫だ……」
ハン理事は手の甲で口元を拭い、息をつく。
その濡れた唇が、涙の滲んだ目元が、紅潮した頬が、壮絶に美しいと思った。
自分のやってしまった行為の後悔と、ハン理事からどんな仕打ちを受けるかわからない恐ろしさと、その恐ろしい当人のけだるげな美しさが綯い交ぜになって、わたしは再び固まったように動けなくなってしまった。
「ど、どうか、お許しを」
「いいと言っているだろう、そのかわり、続きはこうさせてもらおうか」
「えっ」
ハン理事は部屋の置物の影から、そこにあるのには似つかわしくないガムテープを取り出してきた。
「両手を上げろ」
「は、はい」
言われるままに両手を上げると、あたまの上で両手首をぐるぐるとガムテープで巻かれて拘束された。
「ハン理事、これは……?」
「動くなと言ってもおまえが動くからだ。今度こそじっとして寝ていろ」
わたしはぞっとした。拘束されたまま、ハン理事に何をされるのかと固唾を飲んで次の行動を待った。
ハン理事は、ベッドサイドの棚からローションとコンドームを取り出してきた。
じっと見ていると、ハン理事はてきぱきと自分の指にコンドームを嵌め、さらにローションを垂らして絡めた。そして再びわたしの上にまたがると、片手を後ろにまわし、自分の尻の穴に指を突っ込んで準備を始めた。
出し入れする指に絡ませたローションがぐちゃぐちゃ音を立てる。
わたしはその光景を眺めがら、また完勃ちになっていた。
「よし、元気なちんちんになったな」
ハン理事は確認するように言って、指を引き抜いた。
かわりに、わたしのデカマラを尻の穴にあてがい、少しずつ腰を落としていく。
「ふ……ぅ。おまえのは最初に挿れるのが大変だ……」
とこけるような肉壁に締め付けられても、縛られているわたしはただ眺めることしか出来ない。
「全部入っ……あっ♡」
思ったより深く入ったのか、ハン理事はのけぞって喘いだ。
「くそ……でかい、な……♡ おまえのは本当に……♡」
ゆっくりゆらゆらと腰をゆすり始める。
「あっ♡ んんっ♡ はぁっ♡ あっ♡ いぃっ♡ きもちいっ♡」
揺れながら、ハン理事はひっきりなしに喘ぐ。
ナカの感じるところに当て、擦り、揺さぶっている。
まるで、わたしのデカマラを使って自慰行為をしているようだ。
わたしも気持ち良いが、もどかしい。自分がただの玩具になったような気持ちだ。
「はぁっ♡ あんっ♡ あっ♡ んっ♡ すご♡ あぁっ♡」
ハン理事はわたしの上に乗りながら、自分でちんぽも擦っている。
夢のような眺めなのだが、何故か切なくなって涙が出てきた。
「はっ♡ はぁっ♡ あ♡ きもちい♡ イクっ♡ イキそう♡♡」
わたしの気持ちをよそに、ハン理事は一人でイキそうになっていて、激しく動き始める。
そんなの、わたしだったらもっと無茶苦茶に揺さぶってイかせてあげるのに。
そう思ったところで気がついた。
手首に巻かれたガムテープが緩くなっている。いや、そもそもガムテープなんか力任せに引きちぎれば、なんとか外せるよな?
試しに思い切り力を入れてみた。
ビリビリと音がして、両腕が自由になった。
「ハン理事!」
わたしは自由になった途端、ハン理事に襲いかかった。
「ぅわっ!?」
繋がっている腰を押さえつけて、ガツガツ穿った。
「あっ♡ こら♡ うごくなって♡ 言った♡ はずだろっ♡」
「すみません、すみません、我慢できませんでした、許してください」
わたしは泣きながら腰を振る。
我慢していた分、制御がきかなくなって、遠慮なく根元までぶち込んでしまう。
「あぁっ♡ ふか、いっ♡ そこ♡ おくっ♡ やめ♡」
「奥がいいんですよね? わたしならここまで届きます。だから、一人でイかないでくださいっ」
「あぁぁっ♡ あぁっ♡ あぁぁ♡♡♡」
奥深くを狙って突き、ハン理事がいやいやと首を振ってもやめなかった。
奥のせまいところまで突っ込んで、何度も抉る。
「あっ♡ やめっ♡ もう♡ イク♡ イクか♡ らぁ――――♡♡♡」
ハン理事はベッドの上に抑え込んだわたしの腕の中で絶頂を迎えた。
その間、きゅううっとしまる肉壁に促されるようにわたしもナカにぶちまけるように射精した。
いったいどんなお仕置きが待っているのだろうと目を開けるのが怖かった。
あれほど動くなと言われておきながら、二度も暴走してしまった。
自分がこんなに我慢のきかない人間だとは思わなかった。むしろ忍耐があるほうだと思っていたのに……。
「なんだ? 眠りながら泣いてるのか?」
隣で目を覚ましたらしいハン理事が、わたしの頬を指で拭うのがわかった。
「かわいいやつだな、さすが、俺の見込んだ男だ」
うっとりとした声色に、怒っている気配はなくて、不思議に思った。
それでハッと気がついた。
動くなと言ったのも、外しやすいガムテープで拘束したのも、わたしを挑発するためだったんじゃないか? 本当は、些か乱暴に抱かれたかったとか?
すべて終わった後にハン理事の意図に気づいて、わたしはぐったりとベッドに沈み込んで今度こそ動けなくなってしまった。
おしまい