真夜中、コンビニでカップラーメンを食べた後、わたしは地下駐車場に停めておいた車に戻った。車はジャガーのSUV。こんな高級車、もちろんわたしの持ち物ではない。
わたしはまだ売れない俳優で、主にコンビニバイトで生計を立てている。
一応スカウトされて事務所に所属しているので、そこへ時々顔を出しているのだが、ある時社長から言われたのだ。
「おまえ、暇ならあいつの運転手しないか?」
あいつと言いながら、社長は壁に貼ってあるポスターを指差した。
この事務所の看板俳優ハン・イサの主演作のポスターだった。
わたしから見れば随分年上の大先輩だが、思わず眉を潜めた。
「暇ってわけじゃないんですけど」
「仕事ないんだろ? 手当は弾むから、バイトもやめちまえ」
「はぁ」
確かにオーディションは落ち続けていて、生活は苦しかった。
社長が言うには、ハン・イサは運転の才能がまるでないらしく、本人に運転させるのはリスクがあるという。最近も自損事故を起こしたのをなんとか事務所の力でもみ消したそうで、ちょうど運転手を探していたのだそうだ。
白羽の矢が立ったわたしは、しぶしぶ引き受けた。
正直、定期的にまとまった金が入るのは有り難い。
だが、相手がハン・イサというのが気になった。
確かに彼は、主演作が何本もある売れている中堅俳優なのだが、売れ方が問題だ。
デビュー作から19禁で、老婆に襲われる青年の役だった。
それから不倫夫の役とか淫蕩な王様の役など、作品の中で性的なシーンが必ずある。
ナムウィキでは、冒頭に、”エロスの申し子”と渾名されていると書かれている。
簡単に言えば、エロ俳優なのである(注:AV男優ではない)
売れていることが羨ましいには羨ましいが、憧れは一切ないのだった。
だから運転手になれるといっても嬉しい訳では無い。
そんな気持ちで初めてから、今日で一ヶ月ほどになる。今のところ、撮影の時間の前に自宅へ迎えに行って、撮影を見学するときもあれば、外で時間をつぶしたり、車を磨いたりして、帰りの時間になれば送っていく、という繰り返しだ。ハン・イサはいつも眠そうで、ほとんど口を聞かない。黙って車に乗り、黙って降りていく。寡黙な人だった。
気難しいのかな……。
わたしは緊張しながら車を運転していたので、毎日どっと疲れていた。
しかも今日の撮影は、思ったより時間がかかっている。
待ちくたびれていると、十二時を回った頃に、ようやくハン・イサはやって来た。
「お疲れ様です」
わたしは後部座席のドアを開けて、挨拶をした。
「あぁ」
彼は生返事をして、車に乗り込んだ。
わたしは黙って運転席にもどり、車を発進させた。
しばらく走ったところで、ハン・イサは姿勢を変えて身を乗り出してきた。
「そこで、コーヒー買ってきてくれ」
指差された方向を見れば、コンビニがあった。
「あ、はい」
わたしは店の前に車を停めて、走って買いに行った。
真夜中の店は店員一人しかいなくて、すぐにコーヒーを淹れて、わたしは後部座席の彼に手渡した。
礼も言わず、飲み始めたようなので、わたしはまた運転席に戻って車を走らせる。
コーヒーを飲んでいる彼を、わたしはミラー越しに眺めた。
当たり前だが、きれいな顔立ちをしている。とくに目がガラス玉のように美しい。
主演俳優クラスは、やっぱり違うなぁとしみじみしていると、背後で「あちっ」と焦った声がした。
「あっ、大丈夫ですか!?」
わたしは慌てて車を路肩に停め、一度外に出て後部座席を開けた。
「どこか火傷でも……」
ハン・イサに近づくと、彼は驚いたようにわたしを見つめ、べっと舌を出した。
「べろ火傷した」
「べろ?」
わたしは彼の赤い舌をまじまじと見た。
確かに少しただれたようになっているが、なんだ、べろか。
呆れたのを表に出さないように気をつけて離れようとすると、彼は言う。
「なんだその目は」
「えっ」
バレたか?と思って慌てると、彼は予想外のことを言い出した。
「おまえも俺のこと、いやらしい目で見ているな!?」
「は?」
「俺の体目当てなんだろう!?」
「え、ちょっと待ってください」
わたしはあまりのことに、後部座席にそのまま座ってしまった。
「落ち着いて。そのコーヒー、前に置いときましょうか。危ないから」
ひとまわりくらい年上の人に、子どもに言い聞かせるような口調でなだめながら、わたしはドリンクホルダーにコーヒーのカップを置いた。
「どうしました? 誰かにセクハラされましたか?」
「ち、ちがう。そういうわけではないが……」
急に彼はしょぼんとしてしまった。
「どいつもこいつも俺を性的に見やがって……」
あぁ、”エロスの申し子”俳優として性的に消費されるのに疲れて、錯乱してしまったのか、と思った。
かわいそうに。
「大丈夫ですよ。わたしはそんなこと思ってません」
「なんだと!? 俺はそんなにつまんない体だというのか?」
うわ、めんどくさい。
性的に見られたいのか、見られたくないのか、どっちなんだ。
困惑して黙っていると、ハン・イサはさらにヒートアップした。
「この俺を見てムラムラしないなんてことがあるか!?」
「わっ、どこ触ってるんですか! ちょ、あの、待っ」
いきなり股間を探るように触られてわたしはうろたえた。
「あ……っ」
「ほら、少し固くなってるじゃないか!」
鬼の首を取ったように勝ち誇る。
「いや、そんなふうに触るからですよっ」
わたしが言い返すと、彼はまだしつこく触り続ける。
「じゃあおまえは、俺を見て何も感じないというのか!? 俺の映画やドラマくらい見たことあるんだろう!?」
「あります! ありますよそりゃ!」
わたしはすでにゆるく勃起させられてキレた。
「正直言ってあなたで抜きました!!!」
言ってしまった。
本当のことだ。
勉強のためにハン・イサの出演作はほとんど見たが、どれもこれもムラムラしてたまらなくなった。そんなこと、本人に言う気は全くなかったのに。
「やっぱりそうか!」
なぜか満足気に、彼は言った。
「そうだよな。セクシーな俺が悪いんだ。よし、正直に言ったごほうびに口でしてやろう」
「えぇっ!」
まるで銀の斧と金の斧を差し出す女神のようなことを言い出した。
「してやるから、ベルトを外せ」
「あ、はい」
どうしてこうなったのかよくわからないまま、わたしはベルトを外してズボンを下着ごとずり下げた。半勃起したちんぽがぼろんと飛び出した。
「で、でかいな……」
ハン・イサは真顔で呟いた。そして後部座席に腹ばいになって、わたしのちんぽを横から咥えこんだ。
「あっ」
勢い良く吸い込まれて、わたしは思わずのけぞった。
ぢゅうぅ~~、ぢゅるる~~~っ。
すごい吸引力だ。ちんぽは当然のように完勃ちになった。
すると今度は舌を動かして竿を舐めながら吸い上げる。
さっきべろを火傷したとか言ってなかったか?ノーダメージじゃないか。
器用な舌使いにわたしはすっかりメロメロになってしまった。
亀頭を舐め回されて、頭の中がどろどろに溶けていく。
わたしのちんぽの形を確かめるように舐め尽くした後は、頭を上下に振りながら唇で扱き上げ始めたので、わたしは限界を感じた。
「む、無理です。もう、出ますっ」
わたしは降参の声を上げた。車を汚してしまったら大変だ。
しかしハン・イサは聞く耳持たず、吸い上げながら唇で扱き続ける。
「あぁっ、うっ」
頭が真っ白になって、わたしは我慢できずに射精してしまった。
「はぅっ、すみません!!!」
我に返ってから慌ててハン・イサを見ると、彼は口に溜めた精液をごくんと飲み干した。
「大丈夫ですか!? そんなもん飲んで!」
「……濃いな。溜まってたのか?」
「うわぁ」
手の甲で口元を拭う様子があまりにもいやらしくて、わたしは思わず感嘆してしまった。
それからどうするのか放心したまま眺めていると、彼は、ポケットを探ってコンドームらしきパッケージを取り出したかと思うと、口で咥えて、その間に自分のベルトを外した。そして口に咥えたままパッケージを剥がし、中のゴムを指に嵌めた。
その指を後ろ手に回して、ズボンの中でごそごそ動かし始める。
おそらく、尻の穴をいじっているのだ。
「……あ♡ ……ん♡」
吐息混じりの小さな声を出して、ハン・イサはわたしの目の前で、自慰行為に耽る。
「あ、あの」
これはどうしたらいいんだ?
わたしは混乱していた。
置いてけぼりにされたわたしのちんぽは、目の前で繰り広げられる扇情的な光景に、早くも復活してビンビンに固くなっている。
わたしはこのまま放って置かれる可能性を考えて、焦って叫んだ。
「自分、まだやれます! やらせてください!」
すると、ハン・イサは目を上げて頷いた。
「いいだろう」
そうして、狭い車内で体を起こし、ズボンを下ろしてわたしの膝の上に乗り上げた。
「そんなに俺の中に入りたいか?」
「入りたい、ですっ!」
かっこつけている余裕もなくがっついたわたしに、ハン・イサはにやりと笑い、尻を沈めていく。
ずぷぷ、と狭く熱い肉壁にわたしのちんぽは埋もれていき、脳に直接快楽が響く。
指でじゅうぶん解された尻の穴は、ちんぽを咥えこんできゅうきゅうと絡みつく。
「はぁ……すごい……っ」
「気持ちいいか?」
「はい、いいです。めちゃくちゃ」
わたしの答えが気に入ったように、彼はゆっくり腰を揺らし始めた。
「んっ♡ 俺も♡ いいぞ♡ おまえの♡ でっかいちんちん♡」
小刻みに腰を揺らしながら喋る。
わたしはその振動にうっとりと溺れる。狭い車の中は二人の汗と熱い呼吸のせいで湿っていた。
「あっ♡ いぃっ♡ 奥までっ♡ 届くっ♡」
ハン・イサは嬉しそうに言うので、わたしはその細腰を両手で掴んだ。
「もっと奥、いけます!」
「えっ♡」
彼の腰を固定して、下からちんぽを突き上げた。
「あぁっ♡♡♡」
のけぞるハン・イサを、わたしは何度も突き上げる。
「おっ♡ おっ♡ しゅごいっ♡」
奥を突くことによって、中はぎゅうぎゅう締まるので、わたしもたまらなく気持ちいい。
「あっ♡ うっ♡ イク♡ イッちゃうっ♡」
「わ、わたしも、またっ」
ハン・イサはわたしの頭を抱えるようにして、わたしは彼の腰をぎゅっと抱きしめて、お互い限界を迎えた。
「い、イクぅぅ~~~~♡♡♡♡♡」
「………………!!!!!」
わたしはハン・イサの中に二度目の射精をした。
最高に気持ちが良かった。
ハン・イサは長い絶頂の間、私の髪に顔をうずめて呻いていた。
疲れてうとうとしているハン・イサを乗せて、冷静になったわたしは服を整え、運転席に戻った。ゆっくり車を走らせて、ハン・イサの自宅マンションまで送った。
「着きましたよ」
外に出て、後部座席のドアを開けると、彼はのろのろと地面に降り立った。
「ん……」
「あ、あの」
「なんだ?」
振り向いた彼の腕を必死で掴んだ。
「……キスをしても良いでしょうか?」
勇気を振り絞ってたずねると、ハン・イサは微笑んだ。
「可愛い奴だな、俺が見込んだ通りだ」
「えっ」
驚く間もなく、彼はわたしの首に腕を回して、唇を重ねた。
するりと舌が入ってきて、わたしの舌と絡まる。
主導権を奪い合うように、舐めたり擦ったりしながら、ひとしきり粘膜のやり取りを愉しんだ。笑いながら離れたのも、彼の方からだった。
「明日も撮影がある。来てくれるんだろうな?」
「も、もちろんです!」
「そうか、それなら良い」
そう言って、ハン・イサはエントランスの中へ入っていってしまった。
わたしはとぼとぼと車の中に戻った。
「はぁ~っ」
ハンドルを握りしめてため息を付く。
好きになってしまった。
人生どこで何が起こるかわからない。数時間前まで考えもしなかった。
ハン・イサの余裕の笑みを思い出す。
この恋は前途多難な予感がする……。
おしまい