焦らさないで!副操縦士

 今年の夏休みは、スミンとヒョンスを連れてバリ島に来た。
 大きなヴィラを一棟借りて、バカンスを思い切り楽しむ予定だった。
 一日目はビーチで遊んだり、街に出て食事をした。帰ってきて、泳ぎ疲れたスミンは自分の部屋のベッドで早くもうとうとしてしまった。
 ところが、ヒョンスは、なぜか不機嫌でソファに座ってむくれている。
「どうしたんだ? 腹でも痛いのか?」
 何か食べ物に当たっただろうかと考えていると、ヒョンスはしぶしぶというように口を開いた。
「どうせ俺はおっぱいもないですし……」
「は?」
 急な話の展開についていけない。いったい何の話なんだ。
「わかるように説明してくれ、ヒョンスや」
「……ジェヒョクさん、昼間、現地のかわいい女の子二人連れにジュース奢ってあげてたでしょう? 髪の長いほうの子、おっぱいが大きくてあなた好みでしたね?」
「はぁ?」
 説明してもらってもわからない。
 頭の中で整理すると、つまり、俺が昼間女の子にジュース奢ったのが面白くなかったのか。そんなにジュースが飲みたかったのか。……いや、違うな。これはヤキモチだ。
「ジェヒョクさんは世界中どこででもモテますよね」
 頬を膨らませてそんなことを言う。
 ヒョンスの頭の中で、俺はどんなスケコマシになっているのか。以前、女の子たちと一緒に風呂に入っている写真を見られたのが良くなかった。あれ以来、素行を疑われている気がする。
「あの子たちは、スミンをかわいいかわいいって誉めてくれたから、ジュースを奢ってあげたんだ。おっぱいなんか見てないぞ」
「へぇー、そうですかぁ」
 ヒョンスはぷいと顔をそむけてしまった。
「怒った顔もかわいいが、ヒョンスや、おまえは何か勘違いしているぞ。俺にはスミンもいるし、くたびれたアジョシだぞ。女の子たちの目になんか入ってない」
「ふーん。でもあなたは女の子が好きでしょ? 俺は残念ながら男ですからね」
「おっ」
 なんだか根本的な愚痴を言い出したので俺は身構えてしまった。
 確かに俺はヒョンスに惚れて、つきあっているけれど、元々ゲイだったわけじゃない。おそらくバイセクシャルだったのだろう、と思ってはいるが、この議論を出されると弱い。
 俺がヒョンスに惚れている理由は山ほどあって、なかなか言語化が難しいところも、彼を不安にさせている原因なのだろう。
「何言ってるんだ。おまえほどイイ男は滅多にいないぞ。顔は小さくてかわいいし、八頭身でスタイルはいいし、完璧じゃないか」
「でもおっぱいはない」
 これはしぶとい。
「あるじゃないか、感じやすい乳首が」
 と言ったら、クッションが飛んできて顔に当たって落ちた。いきなりシモネタはまずかったか。
「とにかく、おまえだってモテるじゃないか? ビーチで視線浴びてたの、気づいてないわけじゃないだろ?」
「……それ、ゲイの男たちの話ですよね」
「まぁ、そうだ。だいたい、おまえも際どい水着着てるからいけないんだ。なんだあれは」
「今流行りの水着はあんなもんですよ」
「おまえみたいなセクシーな体型であぁいう水着を来たら大変なことになるんだよ!」
「…………」
 思わず責め立ててしまって、火に油を注いでしまった。
「ジェヒョクさんには関係ないでしょ」
 ぷく、と頬を膨らますヒョンスが子供みたいにかわいくて、俺は喧嘩をしているのに目尻が自然と下がってしまう。
「ヒョンスのことには全て関係していたいと、俺は思ってる」
 俺はそう言って一度部屋を出た。韓国から持ってきた本と眼鏡を取ってきて、戻ってヒョンスの隣に座った。
「まぁ、好きなだけ拗ねていなさい。機嫌が直ったら、教えてくれ。それまで俺はここで本を読んでいるから」
 傍にいることをアピールしつつ、放置することにした。
 すると、ヒョンスは一度俺のほうを振り返って、まじまじと見つめた。
「……眼鏡、作ったんですか?」
 唐突に聞かれて、俺は答える。
「あぁ、もう年だからな。老眼になってるんだ。仕事のときのサングラスにも度を入れてもらった。遠くは変わらず見えるんだが、計器が見えにくくなって困るんだ」
「老眼鏡……」
 つぶやくヒョンスは、俺が年を取っていることにショックをうけているのかと思った。
 だが、違うようだ。
 ヒョンスはみるみる顔を赤くして、心なしか目を潤ませた。
「眼鏡なんかしたら余計かっこよくなるでしょう!だからモテるって言ってるんですよ!もう、俺の心配を全然わかってないんだから……!」
「はぁぁ?」
 顔を真っ赤にして怒りながらも、ヒョンスは体ごと態勢を変えて、俺の肩に頭をぐりぐりくっつけてきた。
 どうやら、俺の眼鏡姿がツボにハマッたらしい。
 こんなイイ男が、こんなに俺に惚れてくれていることに驚く。
 というか、チョロすぎて、呆れる。
「機嫌は直りましたかね、チェ・ヒョンス副操縦士」
「うるさいうるさい」
 わめきながら、ヒョンスは俺の首にしがみつく。
 まったく、かわいくてしょうがない。
 少し落ち着いたら、情熱的なキスをしてやろうと思いながら、俺はしばらくされるがままになっていた。

 夕ご飯を食べている間も、スミンはずっと眠そうだった。飛行機での移動と海で泳いだ疲れが一気に襲ってきているのだろう。欠伸をしながら「おやすみなさい」と言って別室のベッドへ行ってしまった。
「俺たちも今日はおとなしく寝るか。明日は庭のプールにも入ってみよう。それからマッサージを呼ぼう。アーユルヴェーダだっけ、あれをやってもらいたいんだ」
 間接照明で薄暗い寝室に入ったが、ヒョンスはついてこなかった。
「ヒョンスやー?」
 キングサイズのベッドの上に寝転んで、声をかける。
 すると、ようやくヒョンスが遅れて部屋に入ってきた。
「どうしたんだ?」
 ヒョンスはオーバーサイズのTシャツと短パンに着替えていて、手には何かのボトルとタオルを持っていた。
「明日、マッサージはなしですよ」
「なんで」
「ジェヒョクさんが女性にべたべた触られるのは俺がイヤだからです」
「えぇ……」
 思っていたよりヤキモチ妬きの恋人に俺は困惑した。
「女性じゃないかもしれないぞ? 男かも」
「だったら余計イヤです!」
「はぁ……」
「その代わり、俺がマッサージしてあげます」
「えっ」
「土産物屋でオイルも買いましたし、さぁ、服を脱いで、ベッドにうつぶせになってください」
 手に持っていたのはオイルだったのか。小さいペットボトルくらいの大きさだったのでわからなかった。
「マッサージは嬉しいけど、服を脱ぐ必要があるのか?」
「オイルで濡れるでしょう? ベッドにはタオルを敷きます」
「あぁ、しょうがないか」
 俺は一度ベッドを降りて、黒のボクサーパンツ以外の着ていた服を脱いだ。
 その間にヒョンスはベッドの上にタオルを敷き詰めた。
 俺はその上にもう一度うつぶせで寝転がった。ヒョンスはベッドの横に立って俺を見下ろしている。
「何だか緊張するな」
「リラックスしてくださいよ」
「そう言われても……」
 俺はそわそわ手足を動かしていた。
 ヒョンスはボトルを開けて、オイルを俺の背中の上に垂らす。常温になっていて、冷たくはなかった。ただ大量に垂らすので、俺はちょっと不安になった。
「多すぎじゃないか?」
「いいから黙っててください」
「はい……」
 俺は口を閉じて、ヒョンスに従った。
 彼はベッドに乗り上げて、俺の脚を跨いで腰を下ろした。そして俺の肩をオイルを掬った両手で揉み始めた。
「おぉ……気持ちいい」
 ちょうど良い力加減で肩の筋肉をほぐされて、俺は一気に全身をリラックスさせた。
 ヒョンスは黙って肩を中心に揉みつつ、時々肩甲骨のあたりを親指で揉む。それも気持ち良い。けっこう強めにぐりぐりされて思わず目をつむる。
「ヒョンスにマッサージの才能があったとはな。もっと早くやってもらえば良かった」
「俺はあなたの体のこと、よく知ってますからね」
 意味深な言い方に俺は笑った。
「俺もおまえの体のことはよく知って……う!?」
 いきなりわき腹をやさしい手つきで撫でられて、俺は動揺した。
 揉むというより、オイルを撫で付けるように触れてくる。
「?????」
 その手つきは明らかに性的で、俺はぶるっと背筋を震わせた。
「こら、何するんだ!?」
 振り向いてヒョンスを見ると、彼は無表情で俺を見下ろしている。
「サービスです」
「は?」
「これも、マッサージですよ」
 そう言うと、ヒョンスはにやりと肩頬を上げた。彼がこんな悪戯を仕掛けてくるなんて珍しい。
「ほぅ~?」
 俺は喜んで乗っかることにした。
 ヒョンスの手は俺の体を自由にまさぐる。オイルでぬるぬるして、さっきまでとは違う気持ちよさが全身を走り抜ける。もうすでに勃起していた。ヒョンスも察しているだろう。呼吸が荒くなっている俺に言った。
「仰向けになってください」
「あ、あぁ」
 仰向けになるとパンツの下で勃起しているのが丸わかりになるので恥ずかしい。俺はためらいがちに体を起こした。相変わらずヒョンスは俺を冷静に見下ろしている。
「そうやって見られていると、いたたまれないんだが」
「気にしないでください」
 ヒョンスは冷たく返した。
「気にするって……」
 俺はぶつぶつ言いながらも、言われたとおり、ベッドの上に仰向けになった。
 するとヒョンスは再び手をすべらせて、腕や脚、背中を触ってくる。
「はぁ……はぁ……っ」
 天井を向いている自分のちんこがはちきれそうで俺は我慢できなくなった。
「いい加減に、焦らさないで触ってくれないか?」
 しかしヒョンスはにべもなく拒絶する。
「ダメです」
「なんでだ!?」
「今夜は俺があなたを気持ちよくさせてあげたいんです。だから動かないでください」
 そう言うとヒョンスは着ていた服を脱いだ。
「おい、何だそのパンツは!」
 俺は思わず叫ぶ。ヒョンスの履いているのは、もはやパンツと呼べないような形状をしていた。前はなんとか覆っているものの、後ろは無防備に晒されている。そのまま挿入も出来る下着に、俺は目眩がした。
 昼間のビキニの水着よりひどい。あとから聞いたら、ジョックストラップという種類のパンツらしい。いったいどこでそんなものを買うんだ。
「あなたにしか見せないから大丈夫ですよ」
 ヒョンスは涼しい顔で答えて、ベッドの上に乗り上げ、俺を跨いで四つん這いになった。手を伸ばせば抱きしめられるが、先に動かないでと言われてしまったので、おとなしくしていると、ヒョンスは決して俺に触れないようにしながら、自分の手を後ろへ回してお尻の穴をいじり始めた。
「あっ、おい!」
 思わず咎める。
「俺を気持ちよくさせるんじゃないのか?」
「これは準備です!」
「あ、はい」
 きっぱりと言われたので、俺は黙った。
 ヒョンスはだんだん夢中になって自分のお尻の穴を解している。
「はぁ……♡ はぁ……♡」
 俺はその様子をまんじりともしないでじっと見つめることしか出来なかった。目の毒だ。ちんこから我慢汁が垂れている。
「なぁ、ヒョンスや。そろそろ焦らすのはやめ……」
「……いいですよ」
 準備が整ったのか、ヒョンスは後ろに出し入れしていた指を引っ込めて、上半身を起こした。
「仕上げに、機長のちんぽもマッサージしてあげますね」
「おぉ、やっとか……!」
 歓喜する俺のパンツを引き下げたかと思うと、晒された勃起ちんこの上からヒョンスは腰をゆっくり落としていく。
「……あっ♡ 入る、入っちゃう……っ♡」
 自分で挿れているくせに、そんなことを呟きながら俺のちんこを根元までくわえ込む。
「ん……全部、入った♡♡」
「いい眺めだ。お前のナカでたっぷりマッサージしてくれ」
 俺はリラックスして、ヒョンスが動き出すのを待った。
「はいっ……んっ♡ んっ♡ あっ♡ すごく♡ 硬い……っ♡」
 ヒョンスはゆっくりと前後に腰を揺らし始めた。ナカの肉壁が波打つようにうねって、俺のちんこを喜ばせる。
「……ふっ、いいぞ、ヒョンスや……っ」
「あっ♡ あっ♡ はぁっ♡ あっ♡ 機長っ♡ きちょおっ♡」
 しだいに動きは早くなっていき、どうやらヒョンスは自分の良いところに俺のちんこの先を擦り付けているようだった。
「こら、俺を楽しませるんじゃなかったのか?」
「あっ♡ すみ、ませっ。でもきもちよくって♡ とまらな♡ いっ♡♡」
 没頭して腰を振るヒョンスに俺は苦笑する。
 快楽に弱くて、欲張りな彼を愛しく思う反面、心配でもある。
「そういう顔見せるのは、俺だけにしとけよ?」
「え……あっ!♡♡」
 俺はヒョンスの腰骨のあたりを両手でつかみ、下から杭をうつように打ち付けた。
「あぁっ♡♡♡」
 ヒョンスはのけぞって快楽に耐える。
「だめ♡ ですって♡ 今日は、俺が……♡」
「そうは言っても、我慢の限界だ」
「あぁっ♡ あっ♡ あんっ♡ あぁぁっ♡」
 俺は下から何度か突き上げると、ヒョンスは声を上げて震え、軽く射精した。
「あっ♡ 出ちゃっ♡ たっ♡ あんっ♡ はぁっ♡ あっ♡」
「もっとイッていいんだぞ。思い切りイけ!」
「あぁんっ♡ あっ♡ あーっ♡ あっ♡ あっ♡ あーっ♡♡♡」
 ヒョンスの腰を両手で押さえつけるようにして、下から突き上げた。快楽を逃がせない状態で責められて、ヒョンスは泣いた。涙をぽろぽろ流しながらナカでイッた。
「あぁ……っ♡」
 力尽きて、俺の上に倒れ込んでくる体を抱きしめた。オイルでぬるぬると滑るが構わない。俺はヒョンスを強く抱きしめながら、腰を動かして射精した。
「最高だったぞ、ヒョンスや」
 俺は褒めながら、うとうとしかけているヒョンスのパンツを指でひっかけて脱がせていく。
「…………?」
「おっと、まだ夜は長いぞ? 俺を満足させてくれるんだろう?」
「は、はい……♡ がんばります♡♡♡」
「えらいぞ、副操縦士」
 今度はヒョンスを体の下に組み敷いて、確かめるように唇を合わせた。
 南国の夜はまだまだ続く……。

おしまい

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