ジェヒョクが髪を切ってきた。
散髪してさっぱりしたようで、ヒゲもきれいに剃っている。小綺麗にしている彼はなんというか、とても男前で、俺は思わず見とれてしまった。
そんなことは気づかない彼は、俺の背後に近寄ってきて、
「ヒョンスや。お茶でも飲むか? それとも……」
ベッドへ行くか?と耳元で囁かれた。
「わっ」
俺は過剰に驚いてしまった。
「どうかしたか?」
ジェヒョクは目を丸くする。
「びっくりした。いきなり耳元で囁かないでください」
「なんだ、嫌だったか?」
「嫌じゃなくて……」
「おいおい、顔が真っ赤だぞ。熱でもあるのか?」
「ありません!」
俺は慌てて首を横に振る。
ジェヒョクは笑った。
「今日のヒョンスはおかしいな」
そして両手で俺の頬を包んで、撫でる。
「かわいい、かわいい」
「かわいくなんか」
いい年をした男に向かって何言ってるんだと俺は反抗する。
「アイゴー」
ジェヒョクは意外だという表情で顔を近づけてくる。
「おまえがかわいいことを自覚するように、今日はうんと可愛がらせてくれ」
「…………」
俺は恥ずかしくなって俯いた。
言葉通り、ベッドに行った後、ジェヒョクは俺の全身に丁寧に口づけた。あんまり愛撫がやさしすぎると、俺はもどかしくなってしまう。
「は、早く」
「そう急かすな」
ジェヒョクはそう言うと、俺のちんぽに指を絡め、上下に擦りだす。
「あ♡ あっ♡ んっ♡ あんっ♡♡」
緩急をつけて扱かれ、俺はあっさり射精した。
ところがジェヒョクはそれでもやめずに、扱き続けた。
「あっ♡ それ、いい加減にやめ……」
「なんでだ、気持ちいいだろう?」
「いいけど……あっ♡♡♡」
絞り出されるようにまた射精させられた。
「なんで……」
「可愛がりたいって言っただろう?」
ジェヒョクはまだ俺のちんぽをねちっこくいじり続ける。俺の体の弱いところを知り抜いた彼には、俺を射精に導くことなど簡単なのだ。それが嬉しくもあり、悔しくもある。
「あ♡ また♡ 出るっ♡ あっ♡♡」
何度も射精させられて苦しくなってきた。
「も……きつい……」
訴えると、ジェヒョクはようやく頭を撫でてよしよししてくれた。
「こっちもちゃんと触ってやるからな」
力なく横たわる俺の脚を広げ、ジェヒョクは尻の上にローションを垂らした。そして指で中をいじりはじめる。
「あ♡ あ♡ あっ♡」
俺は条件反射的に感じ始めてしまう。
「気持ちいいか?」
「ん♡ いいっ♡」
「もっと気持ちよくしてやるからな」
ジェヒョクは楽しそうに言って、指で奥を刺激する。
「も♡ 挿れていいからっ♡」
「いいのか?」
「うん……早く欲しい♡」
そう答えると、ジェヒョクは指を引き抜いて、かわりにちんぽを挿れてきた。
「……あ♡ んっ♡」
内蔵を抉られるような感覚の後に、深い充実感がやって来る。あとは快感の波に飲まれるだけだ。
ジェヒョクは俺の腰を揺さぶるように出し入れを繰り返した。
「あっ♡ あー♡ あっ♡ んっ♡ あぁ♡」
不規則なリズムで突かれるのが気持ちいい。
「あ♡ いいっ♡ んっ♡ 機長♡ 機長ぉ♡」
「副操縦士、一緒にイこう」
ジェヒョクはそう言って、一層大きく揺さぶった。
「あ♡ あ♡ イクっ♡ イッちゃうっ♡ あぁっ♡」
彼が中で射精するのを感じて、俺も絶頂を極めた。
「あぁ――――♡♡♡」
ジェヒョクにしがみついて硬直する。
一旦大きな快楽の波が去ると、やっと力が抜けてベッドの上に沈んだ。
その後も小さな波がやって来ては、硬直と痙攣を繰り返し、強い快楽に翻弄される。
オーガズムが小さな死だと言っていたのは誰だったか。俺はこの瞬間に何度も死と再生を繰り返し、最終的に生きてる幸せを実感するのだ。
「は、ぁ……っ♡」
切ない溜息を漏らす。
ジェヒョクと抱き合うのはいつだって気持ちがいい。
ぼうっと余韻に浸っていたが、ジェヒョクがイッた後も俺のちんぽをしつこくいじっているので気になった。
「何して……あ、それ、や、だっ」
鈴口をいじられて、痛いくらいの刺激を感じる。さっき何度も射精させられて、出るものも出ない。
「ちょ、何でそんな……あ、出る、出ちゃうっ」
また射精するのかと思ったが、出たのは大量の透明な液体だった。
「えっ、なんで……なに……っ」
ベッドの上で放尿してしまったのかとパニックになりかけた俺に、ジェヒョクはやけに冷静に声をかける。
「大丈夫だ、おしっこじゃない。潮噴きっていうんだ」
「えぇ……」
俺は内心でドン引きした。
何でそんなことばっかり知ってるんだ、この人は。
俺は潮吹きとやらをしてしまった自分が情けなくて涙目になった。
「拭いてあげるから、泣くな」
ジェヒョクは傍らに置いてあったタオルを手にとって、俺の下半身を拭き始めた。
「泣いてな、い」
鼻をぐすぐすさせながら、俺は口先だけでせめてもの反抗をする。
それが余計ジェヒョクをつけあがらせたようで、
「かわいいなぁ、ヒョンスや」
と、彼はうれしそうに俺の額に額をくっつけてぐりぐりして言った。
今日はいつも以上に可愛がりたくてジェヒョクはこういうプレイをしたのだと、俺はやっと気がついた。
ということがあった。
俺はくやしくて、恥ずかしくて、珍しく根にもった。やり返してやりたいと思ったのだ。
そのために俺はインターネットで検索した。しまくった。おかげで検索履歴がメチャクチャなことになってしまった。
しかし、俺の復讐にぴったりの手段が見つかった。
俺は次の休みの合う日に、入念な準備をしてジェヒョクの家に向かった。
「で、何をやりたいって?」
嬉しそうにジェヒョクは聞き返した。俺がセックスに関して積極的にリクエストをしてきたのは嬉しいようだった。
「ローションガーゼです」
俺はさんざんネットで検索した単語を答えた。
「ふぅん? 別にいいぞ」
ジェヒョクは軽く即答する。
「いいんですか!」
「そんなすごいプレイなのか?」
どうやら彼は知らないようだ。俺の勢いに、ちょっと引いていた。慌てて言い繕う。
「いや、危険とかではないですよ」
「そうか、それならいいが」
「じゃあお願いします。早速、服を脱いでそこに座ってください」
ベッドの上にジェヒョクに座ってもらった。
「キスくらいはしないのか?」
「そうですね」
いきなりローションガーゼをやるのも色気がなさすぎるので、俺はジェヒョクの唇に顔を寄せた。唇をくっつけて、舌を忍び込ませると、迎えたジェヒョクに絡め取られた。
「ん……っ♡」
ジェヒョクはキスがうまい。昔遊んでいた所以なのだろうと思うと複雑な気持ちがする。
でも舌を絡ませあって唾液を奪い合うのは気持ちが良くて、恍惚としてしまう。
そのまま身を任せそうになってハッとした。
今日は俺がリードするんだった。危ない危ない。
唇を離して、頬を擦り寄せたりした後、俺は言った。
「やりやすいように少し勃たせますね」
「なんだか事務的だなぁ」
ジェヒョクはぼやいた。でも俺が彼のちんぽに指を絡めて軽く扱くと、あっという間に固くなった。
「そう言いながら勃ってるじゃないですか」
「そりゃヒョンスに触られればいやでも勃つさ」
ジェヒョクは 爽やかに言い切る。顔がいいからってこんな時でも爽やかなのはずるい。
俺はブツブツ文句を言いながら、用意していた洗面器にローションを大量にぶちまけて、そこにガーゼを浸した。ひたひたに濡れたガーゼを俺は両手で端をつまんで持ち上げた。
「これを、こう、被せます」
ジェヒョクの亀頭の上にガーゼをやさしく被せた。
「うぐっ」
それだけで彼はぶるっと全身を震わせた。
「いいですか、いきますよ」
「う、うん」
俺は恐る恐るガーゼを横にずらし始めた。
すると、どうだ。
「うわぁぁぁぁ!」
ジェヒョクはいきなり叫んだ。
「わっ、びっくりした」
これには俺の方が驚いた。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと待っ、なんだこれは!」
息を荒げて乱れた髪をかき上げる。そんな時でも男前なのがくやしい。
「そんなにイイですか?」
俺は聞いた。
「イイなんてもんじゃない、脳天に響く感じがする。けど……」
「けど?」
「これじゃイケないだろ」
彼はローションガーゼの核心をついた。
そうなのだ。これはすごく良いけど、決して射精に至らないという。
だから最終的に潮を吹く人も多いらしい。
それで、ジェヒョクも潮吹きをさせてやろうと思ったのだ。
だが、思いの外、ローションガーゼの威力はすごいものだった。
「ぐうううぅぅぅ」
今度は反対側にすべらせたら、ジェヒョクは歯を食いしばって呻いた。
もう彼のちんぽはバッキバキに勃起して血管が浮き出ている。
俺はその形の良いちんぽに見とれながら、また、反対側にガーゼを滑らせる。
「あぁぁぁぁぁっ」
ジェヒョクは喉を反らせて声を上げた。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「う、もう我慢できないっ」
「え?」
耐えられなくなったのは俺のほうだった。
「挿れさせてくださいっ」
俺はガーゼを放り出して、ジェヒョクの上に跨った。
「ヒョンス、もうやめていいのか?」
ジェヒョクは驚いて聞いた。
俺は正直に答える。
「機長がこんなふうになってるのに、見てるだけなんてたえられない!」
すると、ジェヒョクはにやにやして呟いた。
「いい子だなぁ、副操縦士は」
俺は恥ずかしさをかなぐり捨てて、ジェヒョクのローションでぬるぬるになっている亀頭を自分の尻の穴にあてがった。
「んぅっ♡」
「入るか……?」
「ローションまみれだから何とか」
ジェヒョクは俺の腰を両手で支えてくれていたので、俺はゆっくり腰を下ろしていく。
「あ、はぁ♡♡」
俺は充足感に包まれた。
「もっと奥まで挿れるぞ」
ジェヒョクはそう言って下から腰を突き上げた。
「あっ♡」
「よし、全部入った」
「ふぅ……♡ あっ♡ 抜かないで♡」
すぐに引き抜こうとする動きを感じ取って俺は焦った。しかしジェヒョクは俺を抱きしめて耳元で囁く。
「大丈夫だ、いっぱい突いてやるから」
「あ♡」
宣言通り、ジェヒョクはいきなり奥を突き上げた。
「あっ♡ あっ♡」
俺はのけぞって快感に耐える。
「あっ♡ あ♡ あーっ♡♡」
俺の腰を押さえながら、下からちんぽで突き上げるので、深いところに届くのだ。
「あーっ♡♡ イク♡ イクっ♡♡」
「もうイクのか? 一緒にイこう」
ジェヒョクは力加減を弱めようとしたが、スイッチの入ってしまった俺は止められなかった。
「だめっ♡ もうイクっ♡♡ あぁぁぁ♡♡♡」
「うっ、俺も」
結局ほとんど同時に俺たちはイッた。
頭の中が真っ白になって、まるでローションの海にふわふわ浮かぶような錯覚に陥った。
かくして俺の計画は失敗に終わったのだった。
おしまい