俺が家に着いた時からずっとパク・ジェヒョクはそわそわしている。というのも、今日は彼の娘パク・スミンが離婚した母親と面会している日だからだ。うろうろリビングを歩き回っているジェヒョクに、俺は声をかける。
「そろそろ落ち着いたらどうですか。スミンから無事に着いたっていうカトク(注:カカオトーク)も来たんですから」
スミンはまだ小学生だけれど、スマホを持っている。約束の場所まで一人で行って、父親にメッセージを送ってくるくらいにはしっかりしているのだ。
しかしジェヒョクの心配はそこではないようで、焦った表情で俺を見つめた。
「あぁ、ただ母親と会うだけだってわかってるんだ。でも、もしかしたらそのままスミンを取られてしまうんじゃないかって不安なんだ」
「えぇ……」
俺は驚いた。
以前詳しく聞いたところによると、スミンの母親、つまりジェヒョクの元妻は、ジェヒョクが仕事をできなくなった途端、他に男を作って(前からつきあっていたのかもしれないが)出ていってしまったそうだから、親権はジェヒョクが持っている。母親には月に一回の面会しか許されていない。それなのに、こんなに自信がないとは思わなかった。
「あなたがどれだけ愛情を注いでいるか、スミンだってわかっているでしょう。賢い子じゃないですか。不安になる必要なんかないですよ」
「そうかなぁ……」
俺は、まだうろうろしている彼に前に立って、手を取った。
「不安なら、こうしていましょうか?」
ぎゅっと両手を握ってやる。
ジェヒョクははっとしたように足を止めた。
「ありがとう。出来るなら、もっと近くに寄ってくれないか?」
「近く?」
俺が一歩距離を詰めると、ジェヒョクは顔を近づけてきた。唇が触れる手前になって、俺は言う。
「いつもの調子に戻ってきましたね?」
「おまえのおかげだよ、ヒョンスや」
唇がしっとりと触れた。
ついばむようなキスを繰り返しているうちだんだん深くなって舌を絡め合うようになった。お互いの唾液を奪い合いながら、抱きしめ合う。
「ベッドへ行こう」
キスの合間に囁かれ、俺は肯いた。
寝室に移動して、服を手早く脱ぐ。再び抱き合って、もつれ合うようにベッドの上に横たわった。
もう一度キスから始めたジェヒョクは、唇を離れると、耳を舐め始めた。
「あっ♡ それっ♡ くすぐったい♡」
笑いそうになるのを堪えていると、ジェヒョクの舌は耳の穴の中にまで入ってくる。
「あっ♡ あっ♡」
耳の中をくちゅくちゅされて、水音が大きく響く。まるで水の中で溺れているようになる。
「あ♡ んっ♡ あっ♡」
溺れている。まさに。
いつのまにこんなにジェヒョクを大切に思うようになってしまったのだろう。
抱きしめられる腕の硬さも、重なり合う肌の感触も、泣きそうになるほど恋しい。
ジェヒョクはようやく耳を解放して、首の付け根から鎖骨を吸い、乳首を舐めてくる。
「はぁ♡ あ♡ あっ♡」
固くなった乳首を舌先で押しつぶされ、俺はひどく感じてしまう。女性みたいに胸でこんなに感じるようになるとは思わなかった。今は強いくらいいじられるほうが気持ちがいい。
「もう勃ってるな」
「あ……♡」
乳首を舐めながら、ちんぽを触られてびくっと反応してしまった。
すっかり勃ちあがってカウパーを滲ませている。
するとジェヒョクはベッドサイドからローションを持ってきて、中身をたっぷり俺のちんぽの上にぶちまけた。
「あぁっ♡」
冷たさにぶるっと震える。
しかしすぐにジェヒョクの手がローション越しにちんぽを握ってきて、上下に扱く。じゅぶじゅぶと音を立てて、ぬめった感触に俺は背を反らせた。
「あっ♡ あ♡ あ♡ だめっ♡ それっ♡ ぬるぬるしてっ♡」
「ぬるぬるして気持ちいいだろ?」
「あぁんっ♡♡」
ちんぽをぬるぬる扱かれながら、ジェヒョクは後ろの穴までいじってきた。
「あっ♡」
指の腹でぐるぐる撫でられ、穴を広げられる。ローションまみれの指はあっさり中に侵入してきて、浅いところを内側から撫でてくる。
「はぁっ♡ はっ♡ あっ♡ あっ♡ あぁっ♡」
浅いところをいじられるのはなんだかもどかしくてたまらない。
「も♡ もっと♡」
「もっと?」
「もっと奥ぅ♡」
「わかってる」
焦らしていたのか、ジェヒョクはにやりと笑って、奥まで指を挿れてきた。
「あっ♡ いいっ♡ けどっ♡」
俺は恥じらいながら喘ぐ。
「指だけじゃ♡ やだっ♡」
「オーケイ」
ジェヒョクは姿勢を入れ替えて、俺の脚を抱え直した。固く上を向いたちんぽの先をあてがわれ、俺は一瞬腰を震わせた。
「あ♡ あ♡」
熱く太いものが入ってくる。
体を暴かれる感覚に、背筋がぞくぞくする。
「あっ♡ 奥♡ まで♡ 来るっ♡」
一気に貫かれて、俺はのけぞった。
「あっ♡ あっ♡ 機長のっ♡ いいっ♡ きもちいっ♡」
「副操縦士、少し手加減してくれっ」
「そん♡ なこと♡ 言ったって♡ あっ♡♡」
きつい、と言いながらもジェヒョクは構わず腰を動かしてくる。
「あっ♡ あぁっ♡ あっ♡ いいっ♡ あっ♡」
俺は身も世もなく喘いだ。
気持ちいい。頭がどうにかなってしまいそうだ。
ジェヒョクに思い切り抱きついて、自分でも腰を揺らしてしまう。
俺はいつからこんな淫乱になったのかと思う。
でも止まらない。気持ちよさにまともな思考など流されてしまう。
「あっ♡ あっ♡ あぁっ?♡」
「奥の方が好きだろ?」
ジェヒョクはそう言って、いつもより深く腰を打ち付けてきた。
「それっ♡ 深いっ♡ こ、こわ」
「こわいか? 大丈夫だ。奥の方には、s字結腸といってもっと深く入る部分があるんだ。そこに挿れたらすごく気持ちいいはずだ」
「えぇっ」
俺の腹の中にそんな部分があるなんて知らなくて呆然とした。そこに挿れたらこれ以上気持ちいいというのか? ドライオーガズムだけでじゅうぶんおかしくなってしまうというのに。まだ未知の感覚があるなんて、俺は怖くなって、頭をジェヒョクの肩に擦り付ける。
「こわい、やだ、こわ」
「あぁ、悪かった。やりすぎたな」
涙目になった俺に、ジェヒョクは動きを止めた。
「大丈夫だ。普通に、イこう」
「ん……ぅ♡ あっ♡ あっ♡」
再び動き出したジェヒョクは、いつものように俺の好むところをガンガン突いて来た。
「あっ♡ あぁっ♡ イクっ♡ イクぅっ♡♡♡」
俺は素直に絶頂に身を任せた。
足先がピンと伸びて硬直する。頭の中が真っ白になる。気持ちが良くて死んでしまうのかもしれないと毎回思う。
こういう時、俺のナカはぎゅうぎゅうジェヒョクを締めつけてしまうから、たいていその間に彼は我慢しきれなくなる。
「うっ」
ジェヒョクは短く呻いて射精した。
「あ♡ はぁ……っ♡」
俺は痙攣しながら、腹の中が満足するのを感じた。心地よいあたたかさに、全身でジェヒョクにしがみつく。
ジェヒョクも俺を力いっぱい抱きしめてくれた。
心身ともに満たされるというのは、こういうことを言うのだろう。
溺れすぎてこわいけれど、幸せだと思えた。
「……引っ越しをしようと思ってるんですよ」
俺は、ふと思い出して呟いた。
最近ずっと頭を占めていたことだ。
起き上がって服を着ながら、俺は話を続けた。
「結婚してからずっと同じマンションに住んでいたのですが、一人で暮らすには広すぎて。もっとコンパクトなところのほうが合理的なんですよね。それに、妻の持ち物も整理しないと」
最後のつけたしは余計だったかなと思った。
一人に慣れてきたので、一人用の住まいにさっぱりと引っ越したいのだ。
ベッドに裸で横たわったままのジェヒョクは黙って聞いていたが、俺がしゃべり終わると口を開いた。
「そうか。……じゃあ」
嫌な予感がした。
俺はベッドの端に腰かけて、次の言葉を待った。
「一緒に暮らさないか」
「嫌です」
俺は間髪入れずに答えた。
その素早さに、ジェヒョクは目を丸くした。
「一秒も考えずに返事をすることはないじゃないか!」
「考える必要がありません!」
俺は強く言い返した。
「何でだ。この家だって俺とスミンだけで住むには広すぎる。ちょうどいいじゃないか」
「そんなパズルみたいな考えで重大な決定をしないでください!」
「そうじゃない。俺はおまえと家族になりたいんだ!」
「そんなこと、スミンの意思も確かめずに……いや、だいたい、もしも同じ住所になったら会社に知られるじゃないですか!」
「は? 別にいいだろ、そのくらい」
「そのくらい?」
俺は呆れた。
なんて軽い返答だ。
しかしジェヒョクは言う。
「うちの会社は国際的企業だぞ。今時そのくらいのこと受け入れる態勢は整ってる。おまえも知っているはずだろう?」
「知っているのと、実際に自分が該当するのとでは違います!」
俺がきっぱりと言い切ると、ジェヒョクの目つきがきつくなった。
睨むような目で言う。
「つまりおまえは、俺との関係をバレるのが嫌だってことだな?」
「当たり前じゃないですか!」
俺は吐き捨てるように言った。
だが、彼にはちっとも理解できないようだ。
「俺は構わない! お前が保守的なだけだ!」
そんなことを言う。主義の問題ではないのに。
「保守的で悪いんですか!」
俺も売り言葉に買い言葉で叫んでから、それ以上議論する意味を見失った。
このままじゃ平行線だ。決して理解しあえない。
「……帰ります」
俺はジェヒョクに背を向けた。
「好きにしろ!」
背中に向かって彼は言った。
部屋を出てリビングで荷物を拾った俺は、逃げ出すようにジェヒョクの家を飛び出した。
喧嘩をしたのはこういう関係になってから初めてのことだった。しかしこれが最初で最後になるかもしれないと思った。
こっちから連絡はしなかったし、向こうからも何も来ない。お互い国際線のスケジュールが詰まっているので、合わせる努力をしない限り顔を合わさない。
一度だけ、空港ですれ違った。目を合わせたが、ジェヒョクは無表情で会釈しただけだった。俺はムッとして会釈を返した。それだけだった。
それ以来会っていない。
長時間のフライトはいつも通り行ったが、海外のホテルで寝ている時にいろんな感情が湧き上がってくる。
ちょっと前まで、幸せで満たされていたというのに。
なぜわかってくれないんだという怒りと、会えない寂しさとでないまぜになっていた。
何より、そんな弱い自分が嫌だった。
会えないことに耐えられないだなんて、まるで彼に依存しているみたいじゃないか。
いつのまにそんなふうになってしまったんだと恐ろしくなる。
どうせ別れるならさっさと忘れよう。一人の生活にせっかく慣れてきたというのに、これじゃ台無しじゃないか。本当に、一人に慣れなきゃいけない。
そう思って、なるべく今まで通り、平気なふりをして過ごしていた。
日本に帰っていたある日、俺はやることがなくて車を飛ばしてちょっと都内まで出て、広い公園のある町を散歩した。昼頃になり、朝食も食べていなかったことに気づき、近くにあった小さな食堂に入った。
しかしそこで、意外な人物に出会ってしまった。
以前ジェヒョクが、俺にセクハラしている人物だと騒いだキム・ギヒョク機長だった。セクハラはしていないと思うが、人との距離が近いタイプなので少し面倒な気分になった。
「やぁ、チェ・ヒョンス副操縦士。奇遇だな。この辺に住んでるのか?」
「いえ、たまたま来たところに……ほんとに奇遇ですね」
「そうか、私はこの食堂のファンなんだ。ここはうまいぞ。こちらにどうだ?」
案の定、相席を誘われた。
「あ、ありがとうございます。でも……」
「いやいや、いいじゃないか」
「はぁ」
無理やり向かいに座らされた。注文をする前に、彼はたずねてきた。
「ちょっと痩せたんじゃないか? ちゃんと食べてるのか? 俺たちは体が資本だ」
彼の癖なのかしらないが、いつも背中を擦られる。俺は避けることも出来ずに愛想笑いを浮かべた。
「大丈夫です……あれ」
カトクの通知音が鳴って、俺はスマホを確かめた。
メッセージはスミンからだった。
『ヒョンスおじさん、アッパが大変。助けに来て』
「えっ」
大変ってどういうことだ? 何かあったのか?
まさか、パニック発作でもぶり返したのだろうか。
「すみません、また今度」
キム機長には申し訳なかったが、俺は席を立って、後ろも振り返らずに急いで店を出た。
スミンがメッセージを寄越すなんてよっぽどのことだ。何かあったに違いない。
俺は車を走らせて、ジェヒョクの家まで駆けつけた。
家の前に車を止めて降り、ベルを鳴らした。
「はーい」
中からスミンの声がした。
玄関が開いて、彼女が顔を出した。
「スミナ! 大丈夫なのか? ジェヒョクさんは!」
畳み掛けるように聞くと、スミンは俺の顔を見て笑顔になった。
「ヒョンスおじさん! アッパ、ヒョンスおじさんが来たよ!」
「え?」
ドアが大きく開いて、奥からジェヒョクが歩いてきた。
なんだ、普通に歩いているじゃないか。
俺はほっとして、じゃあ一体何が大変なんだ?と疑問に思った。スミンは嘘をつくような子じゃないし。
すると、近づいてきたジェヒョクは俺を見るなり両手を広げて抱きしめてきた。
「わっ、何してるんですか、スミンの前で!」
すると横でスミンは言う。
「アッパね、ヒョンスおじさんが来なくなって、電池が切れて大変だったの」
「電池が?」
俺は驚いて、ジェヒョクに尋ねた。
「そうだ。まず充電させてくれ」
俺の肩に顔を埋めたジェヒョクは、大きく息を吸った。ぎゅうときつく抱きしめられて、俺はむせた。
「会いたかった……」
消え入りそうな声で言われて、俺はうろたえた。
「こ、こないだ空港で会った時は、あんなつれない態度だったのに?」
「そりゃ、おまえが職場にバレたくないって言ってるんだから、特別な態度はできないだろ?」
「え……」
「おまえをさらに怒らせそうで、連絡も我慢していた。でも我慢の限界だった。それが、スミンにも伝わっていたのか。参った、なんでもお見通しだな」
「………………」
俺は恐る恐るジェヒョクの背中に腕を回した。
スミンは傍らでじっと見ている。
「スミナ、ちょっとアッパを借りてもいいか?」
「うん! わたし一人でお留守番できるよ!」
「ありがとう。ジェヒョクさん、来てくれ」
「え」
俺はジェヒョクの腕を引いて、玄関から出た。
車に押し込んで、俺も乗る。
「どこへ行くんだ?」
驚くジェヒョクに、俺は答える。
「とりあえず、どこでもいい」
言葉通り、俺は少し車を走らせて、一番近いところにあったモーテルの駐車場へ入った。
「……おい、いいのか?」
「だから、抱き合えるならどこでもいい」
俺はもう一度答えた。
すると、先に車を降りたジェヒョクが、今度は俺の腕を引いた。
「わかった。行こう」
うらぶれたモーテルの入り口には管理人の年老いた女性がいて、料金を支払って鍵をもらった。エレベーターで上がったところの部屋だった。安っぽいピンク色で溢れた室内を一瞥する間もなく、ジェヒョクは俺を抱きしめてキスをした。
「会いたかった」
「うん」
「おまえがいないだけでこんなに弱くなるなんて思わなかった」
「俺も同じです」
貪るようなキスの合間に会話をした。
焦燥を感じていたのは俺だけじゃなかった。ジェヒョクも同じだったんだ。
そうわかっただけで、霧が晴れたような気がした。
奪い合うようにお互いの服を脱がせ、裸になった。広いベッドの上になだれ込む。
頬から、首筋から、鎖骨へと、荒々しいキスを落とされた。きっと痕がついてしまう。でも構わなかった。痛いくらいのほうがジェヒョクの存在を実感できる。
「あぁっ♡」
乳首に噛みつかれて声が出た。すると今度は慰めるようにぺろぺろ小動物みたいに舐めてくる。
「あ♡ あっ♡ あっ♡」
平らな胸を揉みしだかれ、腰骨のあたりを撫で擦られ、大事なものに触れるようなジェヒョクの手つきに俺の腹の底は重くなってくる。
「あんっ♡ あ♡ あぁ♡」
体中にくちづけられ、舐め回されて、息も絶え絶えになる。
すると、ジェヒョクはベッドヘッドに置いてあったローションを手に取り、指を濡らして性急に俺の尻の穴をほぐし始めた。俺はそれすらももどかしくて、自分から脚を広げて懇願した。
「も……♡ 挿れてくれ♡」
「いいのか?」
ジェヒョクはごくりと喉を鳴らした。
俺が何度も肯くと、ジェヒョクはバキバキに勃起しているちんぽを俺の尻の穴にあてがった。
「あっ♡」
ぐい、と押し入ってくる。
ローションのすべりを借りて、ジェヒョクのちんぽは難なく奥へと侵入する。
「あぁっ♡ あっ♡ あっ♡」
奥に届いたと思ったら、すぐに彼は動き始めた。
激しく肉を打つ音が室内に響く。
「あっ♡ あ♡ んっ♡ あぁぁっ♡」
奥に届いた時、ジェヒョクは腰を捻って抉るようにする。そうするとさらに深く入るようで俺は動揺した。
「あっ♡ あぁぁっ♡ だめ、だ、それっ、こわいっ」
しかしジェヒョクは止まらない。
こないだ言っていた結腸とかいうもっと奥まで入ってしまいそうだ。見知らぬ快楽がせり上がってくるのを感じる。
「ヒョンスや。俺の大事な副操縦士」
ジェヒョクは熱に浮かされたように俺を呼ぶ。
「大切なんだ。離れないでくれ。頼むから」
そんなふうに言われ、俺は迫りくる快楽の中で胸がいっぱいになった。
「俺だって、離れたくないっ」
一緒には住まないけど、一緒にいたい。心からそう思っていた。この気持ちが伝わるだろうか。わかりあえるだろうか。
「機長っ」
「大丈夫だ、大丈夫」
ジェヒョクはやさしい声で繰り返した。
それが肉体的な意味なのか、精神的な意味なのか、どっちかわからなかったが、俺は彼の優しい声に安心して、恐れを捨てて未知の快楽に身を任せることにした。
ジェヒョクのちんぽの先がぐぽっと奥のさらに深いところに入ってくる。
「あぁぁっ♡♡♡」
すごい。わけがわからなくなるほどの快楽を感じて俺は叫んだ。
「あぁぁ――――――♡♡♡」
「副操縦士、愛してる」
ジェヒョクの囁く声を聞きながら、俺は遠くへ意識を飛ばした。
結局俺は、単身用のマンションに引っ越して、一人暮らしを満喫している。
しかし、ジェヒョクの家からスープの冷めない距離だった。お互いに自立した関係を続けるには、ちょうど良い距離だ。
休みの日は、やはりジェヒョクの家に行く。
今日はスミンの誕生日で、俺が街のケーキ屋でケーキを買ってくる役目だった。
ジェヒョクは張り切って、ごちそうを作っていた。
もちろんプレゼントも用意してある。
「おめでとう、スミナ」
「おめでとう!」
「ありがとう、アッパ。ヒョンスおじさん」
誕生日おめでとうの歌を歌って、スミンがケーキの上のろうそくの火を吹き消した。
俺たちは拍手をして祝う。
「スミナ、願い事をして」
俺は促した。
「うん」
スミンは真剣な顔をして目をつむり、何か賢明に願い事をした。
「何をお願いしたのかな?」
ジェヒョクが尋ねる。
「あのね」
スミンは恥ずかしそうに、でもはっきりと言う。
「大きくなったら、ヒョンスおじさんのお嫁さんになりたいってお願いしたの」
「は?」
俺は思わず大きな声で聞き返した。
スミンは顔を真っ赤にして照れて笑う。どうやら冗談ではないようだ。
「はは……」
俺も笑った。
俺とジェヒョクの関係も全部お見通しかと思ったら、そうでもなかったようだ。
どこかでホッとしている自分がいた。
ジェヒョクを見ると、彼は今まで見たことないような奇妙な表情をしていたので、俺はさらに笑い転げた。
おしまい