イケナイ副操縦士

 せっかく二人揃っての休日だというのに、なぜかパク・ジェヒョクは最初から不機嫌だった。
 俺は買ってきたワインを開けながらたずねる。
「どうしたんですか、いったい」
 するとジェヒョクは恨みがましい目で俺を見た。
「おまえは気づかないのか?」
「えっ、何のことですか」
「さっき、メッセージが来てただろう」
「えー、キム・ギヒョク機長からのメッセージですか。見えたんですか? さすが、目がいいですね。こないだ頼まれてた土産物を渡したのでそのお礼ですよ」
 俺は、スマホを見ながら答えた。
 とくにキム機長からのメッセージはとくになんの変哲もないものだった。
 何が問題なのだろう。
「おまえ、キム機長からセクハラされてるだろう」
「は?」
 唐突に不穏な単語が飛び出してきて俺はびっくりした。
「セクハラ、ですか?」
「俺は見たんだ。おまえがあの男に触られているところを」
「…………はぁ」
 俺は困って首をかしげた。
「触るって……背中をさすったりとかそういうことでしょう? あの人は誰にでも距離が近いんですよ」
「キム機長はおまえにスケベ心があるように俺には見える」
「まさか」
「あの男、よくもうちの(ウリ)副操縦士に!」
「うちの子(ウリアドゥル)みたいに言わないでください!」
「とにかく危険だ」
「そんなのあなただけです」
 俺はきっぱり言って、ワインを注いだグラスを彼に手渡した。
「バカなこと言ってないで、機嫌を直してください。久しぶりに会えたんだから」
「…………うん」
 一応納得はしたのか、彼の眉間からシワが消えた。
 まったく、時々こうした謎の言いがかりをつけてくるから困る。
 スミンに対して過保護なように、俺に対してもその傾向があるようだった。
「はい、乾杯」
「乾杯」
 俺たちはグラスを鳴らしてワインに口をつけた。
 今日は二人で映画を見ると決めていた。
 液晶プロジェクターにネット配信の画面をつないで、スマホから操作する。
 俺たちはソファに並んで座った。
「まったく、この映画を見たことがないなんて驚きだよ」
 ジェヒョクに言われて、俺は肩をすくめた。
「なんとなく機会を逃したんですよ」
 彼は何度となく見ているという映画『ハドソン川の奇跡』が始まった。
 もちろん、映画の元となった事故のことは良く知っている。当時はまだパイロットになっていなかったが、なるつもりだったので食い入るようにニュース番組を見ていた覚えがある。ただ、実話を元にした映画のほうは見逃してしまっていたのだ。
「何度見ても素晴らしいな」
 ジェヒョクはつぶやいた。
 俺は黙って肯いた。主人公のサレンバーガー機長の経験値と能力には舌を巻く。
 それと同時に、この映画で事故を再現している役者たちの演技力にも感心した。たいていのドラマや映画に出てくるパイロットは子供だましだが、この映画は俺が見ても本物のパイロットたちのように見える。
「すごいですね……」
 二重の意味で感心した。
 話は進んでいき、悩めるサレンバーガー機長は公聴会に出席することになる。事故の顛末を知っていても、固唾を飲む展開だ。
 やがて真実は解き明かされていく――――。
「……良かったですね」
 感銘を受けた俺は、映画が終わって横にいるジェヒョクを振り仰いだ。
「…………」
 ね、寝てる!
 彼は座ったまま居眠りをしていた。すやすやと健康的な寝息を立てている。
 どうりで静かだと思ったら。
 まぁ何度も見た映画なのだからしょうがない。
 俺は横から彼の顔を見下ろした。
 すっと通った鼻筋。長いまつげ。薄い唇。
 眠っていてもきれいな顔をしている。
 こんなハンサムな顔をした男が、普段はオヤジギャグを言ったり、俺に過保護に執着しているのが信じられない。
 その唇に吸い込まれるようにキスしそうになって、ハッと我に返った。
 何をしようとしてるんだ、俺は。
 しかし、久しぶりに二人でゆっくり出来て、映画を見終わったら当然いちゃいちゃするものだと思っていたから、がっかりした感はある。
 人の気もしらないで気分良さそうに寝息を立てているジェヒョクを見下ろして、俺はなんだかムラムラしてきた。
 トントンと肩を軽く叩いてみたが、起きる気配がない。
 ちょっとやそっとじゃ起きないんじゃないか、これは。
 そう思ったら、いけない気持ちがむくむくと湧きおこってきた。
 ちょっとくらい。
ちょっとくらいならいいんじゃないか。
 そう言い聞かせて、俺はしゃがみこんでジェヒョクのベルトに手をかけた。音を立てないように緩めて外し、前のジッパーを開ける。
 下着の下から通常形態のちんぽを取り出した。
 ちらりとジェヒョクの顔の方を見るが、目は閉じて口は半開きのままだ。よし、大丈夫。
 俺はそっとジェヒョクのちんぽを手で握って擦った。それはみるみるうちに半勃ちになる。ゆるく上を向いたちんぽがとてもかわいく見えてきた。かわいいやつ。
 俺はそれに顔を近づけて、先っぽの丸い部分に唇をつけた。ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸う。するとちんぽはあっという間に完勃ちになった。
 俺はたまらずその勃起ちんぽを口の中に咥えて、舌でべろべろ舐め回した。
「…………っ」
 俺はちんぽの感触を口の中で味わいながら、腹の底がうずうずしてくるのを感じた。暫くの間、もじもじと腰を動かしていたが、我慢できなくなって、自分のベルトも外した。膝までズボンを下着ごとずり下げて、片方の手を後ろにまわす。
 狭い尻の穴を指の腹で広げていく。しだいに慣れてきたそこには、指一本くらいなら入るようになった。
「ん……っ」
 第一関節まで埋めて、浅いところを掻き回す。
 ちんぽを舐めながらそうしていると、やがて第二関節まで入るようになり、無理やりもう一本指を押し込んだ。二本の指を出し入れする。
 自分でも最近わかるようになった気持ち良いポイントを押すようにする。俺もいつの間にかちんぽは勃起していた。
「…………はぁっ♡」
 このままさっさと射精して終わらせられればいいのだが、やはり自分の指じゃ欲しいところに届かない。満足できそうにない。
 俺は、口からジェヒョクのちんぽを離し、後ろに入れていた指を引き抜くと、意を決して、ソファの上に乗り上げた。ジェヒョクの膝の上に跨って、本人の承諾なしに、そのちんぽの先を尻の間にあてがった。
 見下ろせば、ジェヒョクは黙って目を閉じている。罪悪感が湧き上がってくるがしょうがない。
「ん、ぅ♡」
 俺は、腰を落として、ジェヒョクのちんぽを尻の中に挿れていった。
 カウパーと唾液で濡れたそれは、ぬるぬると根元まで入っていく。
「……ぁ♡」
 声が出てしまいそうなのを必死でこらえる。
 俺は尻の中にちんぽをおさめて、しばらくじっとしていた。熱い感触がじんじんと伝わってくる。これだけでも気持ちがいい。
 しかし、中途半端な状態に耐えきれなくなって、ゆっくり腰をまわし始めた。円を描くように動く。めちゃくちゃ気持ちがいい。このままイッてしまいたい。でも決定的な何かが足りなくて、一人でイクことができない。
「……あ、だめだ」
「何がだめなんだ?」
「!」
 急に声をかけられて、びっくりして死ぬかと思った。
 気がつけばジェヒョクが目を開けて俺を見上げている。
「い、いつから、起き……」
「うん、ベルトを外されたあたりから」
「そんな前から!」
 俺は恥ずかしさに耳まで真っ赤になって、出来ることならこのまま漢江に飛び込みたいくらいの気持ちだった。
「いやぁ、副操縦士がこんなに欲しがってくれて嬉しいよ」
「うぅ」
「で、何がだめなんだ?」
「……最後まで、イけないから……」
 正直に応えると、ジェヒョクはなるほどと言うように肯いた。
「それは悪かった」
 そう言って、いきなり腰を下から突き上げた。
「あぁっ♡」
 俺は思わずのけぞって喘ぐ。
「俺が、こうすれば、良かったんだな」
 ジェヒョクはリズムをつけて、腰を突き上げてくる。
「あ♡ あっ♡ あんっ♡ あっ♡ あっ♡」
俺は奥を突かれるたび、喉を反らして感じ入った。あまりの快感に腰が逃げるように浮く。
「こら、逃げるなよ?」
 ジェヒョクは俺の腰骨のあたりを両手でしっかり支えて、下からちんぽを突き上げる。
「あぁぁっ♡」
 奥の奥まで貫かれて、俺は涙目になった。
「すごいっ♡ これっ♡ すごいぃ♡♡」
 信じられない快感が頭の芯まで痺れさせる。
「も♡ イクっ♡ イクっ♡」
「イきたかったんだろ? 副操縦士」
「うんっ♡ 機長♡ 機長♡♡」
 俺は頭が真っ白になって、絶頂を迎えた。
「あぁぁ――――♡♡♡」
 のけぞって硬直したかと思うと、がくんと力が抜けて、ジェヒョクの上に崩れ落ちた。
「おっと」
 受けとめたジェヒョクは、ぎゅっと俺を抱きしめながら射精した。
「うっ」
 熱い迸りが腹の底を満たしてくれる。
 ひとつになるような錯覚に陥る。
「機長……♡」
「よしよし、いい子だ。うちの(ウリ)副操縦士♡」
 子供みたいに頭を撫でられたが、悪い気はしなかった。
 快感の波が落ち着いてくると同時に眠気がおそってくる。でも眠りたくはない。
 休日はまだまだこれからなのだから。

おしまい

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