普段マッサージをしてもらいたくなったときは、自宅にマッサージ師を呼ぶのだが、今日の場合は特別だった。
韓国一のゴッドハンドと呼ばれるマッサージ師だということで、いろいろこだわりがあるらしく、自身の診療所での施術を指定された。
昼間に車で乗り付けたところ、確かに外装は立派な診療所だったが、中は至って普通だった。受付には女優や国会議員の写真が顧客として貼ってあった。
「ふん……本当にそんな凄腕か?」
俺が呟くと、聞きつけたかのように、中から男が出てきた。
随分とガタイの良い、ハゲ……いやスキンヘッドで白い服を着た中年男性だった。
「これはようこそお越しいただきました、ハン理事様」
男はうやうやしく頭を下げ、自己紹介をしていたが俺は聞いていなかった。どうやらゴッドハンド当人だということはわかった。
「疲れてるんだ。さっさとやってくれ」
すると、その中年男性に別室に案内された。
「こちらで着替えてください」
「……他に誰かいないのか? スタッフとか」
「あぁ、今日はVIPがいらっしゃるので、人払いをしておきました」
「そうか」
診療所はどうやら貸し切りになっているようだった。
俺も部下を待合室に一人だけ置いておくことにした。あとは帰らせて、呼んだら戻ってくるように命じた。
別室で着替えようとすると、籠に置いてあったのは施術服ではなく、透明な袋に入った紙パンツが一枚だけだった。
(……これを履けというのか?)
かなり心理的に抵抗があったが、俺は潔く着ていた服を脱ぎ始めた。
紙パンツは粗末で履いても心もとなく、裸同然の感じがする。
「着替えたぞ」
「では隣の施術室にお入りください」
狭い部屋のもうひとつのドアを開けると、そこは施術室に繋がっていた。
部屋の中には良い香りが漂っていて、間接照明でリラックスできるような空間づくりがされている中、ゴッドハンドが佇んで待っていた。
「こちらにうつ伏せで寝てください」
示された簡易ベッドは、頭のところに穴が開いていて、うつぶせでも苦しくないようになっている。
俺は黙って従い、ベッドの上にうつ伏せになった。
「では、始めますね。最初はオイルを塗っていきます」
オイル?と思っていると、背中に温かい液体が垂らされたのがわかった。
それを大きな肉厚の手のひらで伸ばされる。
そこからはゴッドハンドの手腕がいかんなく発揮された。
軽く全身に触って、筋肉の張り具合を確かめた後、肩からほぐし始めた。
凝ったところを的確に柔らかくしかし強く揉みほぐす。オイルのぬめりのおかげで、筋肉の細かいところまで指の力がかかる。肩から首、肩甲骨の裏、腰、脚、足の裏、と順に揉みほぐされてため息が出るほど気持ち良い。
時間制限などないので、ふにゃふにゃになるまでしっかり時間をかけてほぐしてくれる。
これはまさしくゴッドハンド……!と俺は感動した。
あまりの気持ちよさに頭の中がトロトロに溶けて眠くなっていると、上から声がかけられた。
「次はあおむけになってください」
ハッと目が覚める。
ゆるゆるになった体をなんとか起こし、ベッドの上で身体を反転させた。
仰向けになると、間接照明でも眩しく感じると思っていると、ゴッドハンドは一旦どこかへ消え、タオルを持って戻ってきた。
「眩しいでしょう。目の上に温めた小豆を入れたアイマスクを乗せますね」
ゴッドハンドは言いながら自身の手で熱っされたアイマスクの温度を加減して、ちょうどいい温度になった頃、俺の瞼の上に乗せた。
(あったかい……きもちいい……)
あまりの気持ちよさに、また眠気が襲ってきた。
ふかふかのベッドの上で、あいつと戯れていた。
あいつはいつも丁寧な愛撫をするが、今はいつも以上にしつこい。
体中をねちっこく撫で回されて、俺はされるがままになっていた。
キスをしたいな、とか早く繋がりたいな、とか思うのに、ただ触られているだけだ。
あいつが俺に執着してくれるのは嬉しいが、こっちから動かないのはあまり性に合わない。俺もあいつの体を思う存分さわってやろうと思うが、何故か手足が動かない。
何故だ?と藻掻いてみて、これが夢だと気がついた。
(……ハッ、俺は今どこで何をやっているんだっけ?)
(あぁそうだ、マッサージを受けて……しまった!)
アイマスクのせいで目は見えないが、うっすら勃起してしまっているのを確信した。
恥ずかしさでいてもたってもいられなくなる。
が、同時に異変にも気づいた。
いつのまにか、脚を折り曲げられ、開いている。
しかも、内腿の際どいところにオイルをぬるぬる塗られている。
(!?!?!?)
(これは……普通のマッサージか?????)
頭の中が「?」でいっぱいになった。
何か言おうとして何を言えばいいのかわからなくなり、口をぱくぱくさせていると、ゴッドハンドが気づいたのだろう。声をかけてきた。
「随分凝ってますね。生殖機能にちょっと問題がありそうです。滞っているリンパをほぐしてさしあげましょう」
「えっ」
思ったより掠れて小さな声が出た。
揺るぎのない説明口調に、普通のマッサージなのかもしれない、という考えが頭をよぎる。だとしたら勃起してる俺が変態じゃないか。
(どっちだ???)
本気でわからなくなって混乱する。
しかし、次の瞬間、はっきりした。
ゴッドハンドが紙パンツの上から俺のちんちんを触ってきたのだ。
「気持ちよさそうですね。もっと気持ちよくしてあげましょう」
「このハゲ……!」
叫んだ。
起き上がって蹴り飛ばしてやろうと思ったその時だった。
ゴッと鈍い音がして、ゴッドハンドが床に倒れ込んだ。
「あ?」
俺の叫び声を聞いて入ってきたあいつが、ゴッドハンドの後頭部を花瓶で殴りつけたのだった。
「大丈夫ですか、理事!」
花瓶を置いて駆け寄ってきた。
「あ、あぁ」
待合室に一人だけ残しておいて良かったと言うべきか。
さすがの俊敏な挙動に感心する。
俺は簡易ベッドの上から、足元に転がったゴッドハンドを見下ろした。
「死んだんじゃないか?」
「そうですね。やりすぎましたか?」
「いや、いいだろう。とんでもないエロマッサージ師だった」
俺は断罪した。
どうせ常習犯だろう。道理で顧客写真に若い男がいなかったはずだ。
「死体を処分してきます」
さっさと片付けようとする彼を慌てて引き止めた。
「待て」
「はい」
「誤解するなよ? このハゲに触られて勃ったんじゃないからな! お、おまえの夢を見ていたんだ。おまえに触られてると思ったんだ」
自分でも言い訳になっているのか疑問な言い訳を口にした。
「……光栄です」
彼が男前の上に、珍しく(本当に珍しく)表情を崩して照れたように笑ったので、俺は心臓が止まるかと思った。
「それで……その……夢の続きがしたいんだが」
「死体が転がってても気にされませんか?」
「気にしない!」
秒速で言い切ると、彼は革靴で死体を蹴って端に寄せ、俺に近づいてきた。
頬を片手で触れられて、キスをされた。俺はその唇に夢中になって食らいついた。舌を絡め合って深いキスをしながら、ベッドの上に横たわろうとしたら、彼はそれを手で制した。
「これだと、壊れるか落ちてしまいそうなので」
確かに簡易ベッドなのでいつもの俺のベッドとは違い、すぐに壊れそうで、しかも狭い。男二人が乗るには不向きだった。
すると、彼は俺の腰を抱き上げ、身を翻して壁際まで連れて行った。
「このままで失礼します」
そう言って、キスを再開した。
俺は彼の首に腕を回し、壁に背中をつけてもたれかかった。
口の中を舐め合いながら、彼は俺の体をあちこち撫でた。オイルまみれの肌はよく滑り、感じやすくなっている。
「……んっ♡ ……ふ♡ ……ぁ♡ ……はぁっ♡」
俺の体を撫で回しているうちに、彼の方も臨戦態勢になったのが見て取れる。
彼は、俺のちんちんを触ろうとして、一瞬躊躇した。
「?」
何かと思って見たら、紙パンツに引いているようだった。
「くっ、この……! 紙パンツセッキ!」
恥ずかしくなって俺は慌てて憎き紙パンツを脱いだ。
「笑うなよ!」
「笑ってません」
「本当か? じゃあどう思ったんだ?」
「かわいいと思って」
初めて「かわいい」なんて言われたような気がする。
俺は顔が真っ赤になるのがわかった。
「か……かわいいか? 俺が?」
「かわいいです。いつもですけど」
「いつも!? 俺のほうがずっと年上だぞ!」
そう言うと、彼は表情を曇らせた。
「失礼しました。ご無礼かとは思いますが、でも、かわいいです」
「別に……無礼じゃない……」
俺は降参して呟いた。
「そうですか?」
彼はぱっと明るい表情になり、ちゅっちゅっと頬にキスしてきた。
「あっ、こら」
「かわいいです、ハン理事、かわいい……」
繰り返し言いながら、ちんちんを触ってくる。扱かれて気持ちがいいが、すぐ出てしまいそうだ。
「も、いいから♡ おまえのでっかいちんちんをくれ♡」
「大丈夫ですか?」
彼は心配そうに凛々しい眉を潜め、あたりをキョロキョロ見回した。そしてベッドの横に置いてあるオイルの入っている容器を見つけた。腕を伸ばして手に取る。
「ハン理事、後ろ向いてください」
言われるままに俺は体を反転させ、壁に手をついた。
すると、彼はオイルを大量に俺の尻にかけてきた。
かけすぎじゃないかというくらいかけて、容器をぽいっと捨てた彼は、俺の尻を両手で揉んできた。
「はぁ……ハン理事の尻も小さくてかわいいです……」
熱っぽく言ってオイルに塗れた指を尻の穴の中に挿れてくる。
「あっ♡ あっ♡ んっ♡」
中をくちゅくちゅかき回されて、俺は思わず声を漏らした。
ぐちゅっ、ぶちゅっ、と恥ずかしい音が耳を打つ。
指で浅いところをいじられるのはむずがゆい。それに、もっと奥のほうが疼いている。
奥の奥をこいつのでっかいちんちんで突かれると本当に気持ちがいいんだ。
俺は待ちかねて、思わず腰をくねらせてしまった。
「はや……く……♡」
ごくりと彼が生唾を飲む音が聞こえた。
ベルトを外して、ズボンを下着ごと降ろし、相変わらずでかいちんちんを見せつける。
俺が待ち構えていると、彼はバキバキに勃起した亀頭を俺の尻の穴にゆっくりねじ込んで来た。
「あぁっ♡ う♡」
異物が入ってくる衝撃に耐えると、充足感に満たされる。
俺が欲しかったものをようやく与えられた喜びで全身が震える。
「あんっ♡ あ♡ はぁっ♡」
どんどん奥に入ってくる感覚に背中がぞくそくする。
「奥まで、届きました」
律儀に報告する彼に、俺は命令する。
「も♡ 動け……っ♡」
「はい」
素直な返事を返して、彼は腰を動かし始めた。
「はぁっ♡ あっ♡ あぁっ♡ んっ♡ くっ♡ ふぅっ♡」
でっかいちんちんを尻の穴に出し入れされて、中の良いところを擦っていく。
俺は感じすぎて、何もない壁に縋っていた。
オイルをつけているのも、滅多にない姿勢で繋がっているのも、刺激になっている。
まるで彼に乱暴に犯されているような錯覚に陥る。
「あぁっ♡ あっ♡ あんっ♡ あ♡ あ♡ あっ♡」
壁に押し付けて熱く滾ったものを打ち込まれる。
「あ♡ これ♡ すごっ♡ いぃ♡♡ へんなとこっ♡ 当たるっ♡ いぃっ♡♡」
俺はいつもと違うところにちんちんが擦れる感じに興奮した。
「はぁ、ハン理事っ、もう出そうですっ」
彼も興奮しているのか、いつもより早く射精を訴えた。
「んっ♡ いいぞ♡ 思いっきり出せっ♡」
「はいっ」
彼は最後にガクガクと俺の腰を揺さぶった。
「あっ♡ あっ♡ んっ♡ あぁっ♡ はぁっ♡」
その衝撃で、俺も限界を迎えた。
「いっ♡ イクっ♡ イクぅ♡♡ もうっ♡♡ あぁぁっ♡♡♡」
腹に出される精液を感じながら、俺は絶頂に達した。
頭の芯が痺れるような気持ちよさだった。
迎えに来た車のトランクまでゴッドハンドの死体を引きずりながら、彼は言った。
「ゴッドハンドとはいきませんが、わたしがマッサージして差し上げるという選択肢も考慮してください」
「おまえが?」
俺はちょっと考えた。
確かにいいアイディアだが、すぐエッチな気持ちになってしまいそうな気もする。
まぁ、それはそれでいいか。
「そうだな。今度はお願いしよう」
「はい!」
彼は元気よく返事をして、死体をトランクに詰め込んだ。
おしまい