えっちなお兄さんは好きですか?

 ハン理事にお仕えして四年になる。
 軍隊で上官を殴って死なせ逃亡している私を拾ってくれたのが彼だった。彼は私の事件を金の力できれいにもみ消してくれた。
 それ以来、合法・非合法問わず、ハン・ヒョンチョルという男のためなら何でもする。
 そういう人間が集まったのが、わたしたち部隊である。
 命の恩人だから。しかし、それだけではない。
 初めて彼にお会いしたとき、空中に金の砂が舞っているのかと思った記憶がある。
 キラキラと輝いて見えた。
 無表情でわたしを一瞥し、頷いた動作だけで、わたしは冷や汗を抑えきれなかった。
 一族以外の人間を人間と思わないことが表情に表れている。
 その冷たい皮膚に、尖った鼻先、薄い唇、どれも胸に迫るようだった。
 惚れてんのね、とハン理事の生意気な義妹に笑われたことがある。
 それをいうなら、わたしたちの部隊は皆、ハン理事に惚れている。
 命を賭しても問わない、という意味ならば皆同じだからだ。
 わたしたちは個人的にというよりも、部隊としてハン理事をお守りしたいのだ。
 今日も、バスローブ姿で執務室をうろつくハン理事の姿を見ながら、その細いお御足にため息をつきそうになるのをこらえている。
 あぁ、いつかそのお御足で踏まれたい。
 そんな気持ちを押し殺しつつ、今日もわたしたちは無表情で彼をお守りするのであった。

 ある日、ハン理事が車から降りるとき、つまづいて転びそうになった。
 とっさに腕で体を支える。
 と、そのままハン理事はわたしに体重を預けたままにする。
「どうかしましたか」
「おまえ……」
 ハン理事の手がわたしの股間に触れていたので驚いた。
「ハン理事、どこをお触りになって……」
「びっくりした」
 ハン理事はわたしの腕の中で小声で言う。
「でかすぎる」
「え」
 耳を疑った。するとやっとハン理事はわたしの股間から手を離し、そっと囁いた。
「そんな顔をして、とんでもないものを隠し持っていたのだな」
「ハン理事!?」
 俺は理解が追いつかないまま、先を歩き出すハン理事の後を着いていく。
 部隊の他の者たちは、何やらこそこそ会話していたわたしたちを不思議そうにしていた。
 わたしも不思議だった。
 確かに、わたしのイチモツは通常より大きい。子供の頃からデカマラとからかわれたし、公衆浴場でも視線を感じる。女性とコトに及ぶ際などは怖がられたり泣かれたり散々だ。だから多少の困りごとというか、コンプレックスであった。
 それをハン理事に知られ、褒められた(のか!?)ことに複雑な気分がする。
 それから、ますますハン理事を意識してしまうようになった。
 こちらに向けられた視線を意味深に感じてしまう。
 細い足首に生唾を飲み込んでしまう。
 そんな些細なことだが、自分の中に変化を感じられて、それに恥じ入っていた。
 だが、
「水を取ってくれ」
「はい」
 父親の立ち上げた企業グループの子会社のIRをチェックしているハン理事に水の入ったコップを渡したとき、ハン理事の細い指がわたしの指に触れ、ゆっくりと撫でていった。
「…………!」
 一瞬の出来事にハッとしてハン理事の顔を見れば、あさっての方向を向いている。
 一度だけなら気の所為かと思った。
 二度目は、客先での出来事だった。理事会で反旗を翻そうとしていた男を、銃殺した。弾が命中したのはわたしの銃だったが、ハン理事はその銃身に触れて、上下に擦るような動きをしてみせた。
 今度は目が合った。
 いたずらっ子のような目つきで、わたしの心臓を撃ち抜いた。
 挑発されている、ような気がした。
 しかしそんなはずはないと自身に言い聞かせて、わたしは一歩後ろに下がった。

 その日は決して誰も着いてくるなと言われていた。
 誰かと密会のようだったが、わたしたちに知らされることはなかった。
 真夜中に音もなく帰ってきたハン理事に気がついて玄関まで迎えに出たのはわたしだけだった。人目を避けるように屋敷に入ってきたハン理事は、わたしが近づく気配に、震える声を出した。
「誰か、いるのか?」
「わたしがおります」
 間近まで接近する。
「なんだ、おまえか。良かった」
 ハン理事はわたしの顔を見て、ほっとして眉を下げた。それが非常に嬉しくて、自分が犬なら尻尾を振っているところだと思った。だがハン理事は苦しそうに息をつき、寝室のドアに手をかけてわたしに向かって手招きした。
「こっちへ来てくれ」
「はい」
 言われた通り、部屋に入ると、ハン理事はドアに鍵を締めた。
「どうやら、出先で、おかしな薬を盛られた」
「えぇっ」
 俺は思わず声を出して驚いてしまった。
 どうりで様子がおかしいと思った。相手が誰だか知らないが、万死に値する。
「なんとか逃げて来られたが、薬が効いてきたようだ」
「やはりわたしどもが着いていくべきでした。殺してきます」
 踵を返したわたしを、ハン理事は背広の裾をぎゅっと握って止めた。
「待て、俺を置いていくな」
「じゃあ誰かを」
 わたしは人を呼ぼうとしたが、それもハン理事に止められた。
「いや、大丈夫だ」
 強がりを言う。
「大丈夫じゃないです。熱もあるのでは?」
 ハン理事の顔が赤い。呼吸も荒い。すぐにドクターに見せればなんとかなるだろうか。
「大丈夫だと言ってるだろ。おまえこそ」
「え」
 ハン理事は片手を差し出して、わたしの股間を掴んだ。
 ぎょっとして言葉を失うわたしに、ハン理事はにやりと口角を上げて言う。
「おまえこそ、勃っているじゃないか」
 気づかれてしまった。苦しそうで色っぽいハン理事にあてられて、反応してしまっていたのだ。叱られるだろうと項垂れたところ、ハン理事にさらに尋ねられた。
「こんな俺を見て、勃ったのか?」
「いやっ、そのっ」
 あまり正直に答えるのもどうかと思い、しどろもどろになっていると、ハン理事はわたしの目の前でネクタイをほどき、まるで見せつけるようにシャツを脱ぎながら、ベッドの方へ歩いていく。
「誤魔化すな。来い」
 とうとう、パンツ一枚の姿で、ベッドの上に乗ってわたしを手招く。
「そ、それは、どういう意味でおっしゃられているのでしょうか」
 わたしは、ハン理事の白い体から目を反らして聞く。
「どういう意味だと? 俺は苦しいんだ。とっとと慰めろ」
 恐る恐る視線をやれば、ハン理事のちんぽはパンツの下で苦しそうに固くなっている。
「い、いいのですか? 本当に?」
「俺の命令が聞けないのか?」
 わたしは信じられない気持ちで、告白した。
「ずっと、お慕い申し上げておりました!」
 しかし積年の想いは、一蹴されてしまった。
「そんなのはいらん!いいから早く!」
 そんな場合ではなかったようだ。恥ずかしさにひとつ咳払いをして、わたしは両手を差し出した。
「失礼します!」
 ゆっくりハン理事のパンツを引き下ろすと、勃起しているちんぽの先端から先走りが糸を引いた。
 薄い下毛に、平均サイズくらいのちんぽが空気に晒される。わたしはそれを片手でやさしく掴み、先走りの雫を撫でつけるように上下に擦り始めた。
「あっ♡」
 喉を反らしてハン理事は喘ぐ。
「あっ♡ んっ♡ んぅっ♡」
 緩急をつけたわたしの手つきがお気に召したのか、ハン理事はすぐに射精を迎えた。
 ぴゅっぴゅっと飛び出した白い粘液を手のひらで受け止めて、わたしは尋ねる。
「すっきりされましたか?」
 すると、ハン理事は恨むような目でわたしを睨んだ。
「バカかおまえは!」
「え」
「これは飾りか?」
 ハン理事は裸足の爪先で、ズボンの上からわたしのデカマラを踏みつけた。
「あっ」
 思わず声が漏れてしまった。
 これを使えというのだろうか。
「いやでも、それはさすがに……」
 もじもじしている間に、ハン理事はわたしのベルトに手をかけて引き抜いてしまった。
「あっ」
 パンツもずり下げられて、わたしの通常サイズより格段にデカマラが天井を向いて飛び出した。それをためらいもなく両手で掴んだハン理事は、べろりと舌を出して根元から舐めあげる。口ひげが当たってくすぐったい。
「うっ、い、いけません。ハン理事がこんなこと……!」
 戸惑うが動けないわたしに、
「はぁっ♡ うるひゃい♡ あ♡ でか……♡」
 ハン理事はわたしの亀頭を咥えて、ちゅうちゅう吸う。
 腰にクる快感に、わたしは立っているのがやっとだった。
「うっ、出ます、出てしまいます」
「ばか。もったいないだろ」
 罵られて、余計に射精するかと思った。なんとか堪えて、ベッドの上に乗り上げる。
「では仰せのとおりに……」
 脚を大きく広げたハン理事は尻の穴をこちらに向ける。
 そこは柔らかそうに潤んでいて、わたしを誘っていた。
「あっ♡」
 亀頭を埋め、陰茎を少しずつ沈めていく。
「あっ♡ はぁっ♡」
 温かい沼の中に浸るような快楽に、何度も持っていかれそうになりながら、ようやく根元まで埋め込んだ。
「大丈夫ですか?」
「んっ♡ いい、から、動け」
「はいっ」
 わたしはゆっくりと腰を引き、抜けそうになるところで、一気に奥まで貫いた。
「あっ♡ あはぁっ♡」
 ハン理事が感じいっているのが、粘膜を通じて伝わってくる。
「ハン理事のナカ、うねうねしてひっついてきて最高です」
 感想を呟くが、ハン知事の耳には届いていないようだった。
 打ち付ける腰の動きに合わせて、彼は腰をくねらせる。
「んっ♡ いぃっ♡ あぁっ♡ きもちいっ♡」
 わたしのデカマラがお気に召したようで、歓喜の声を上げ続けた。
「あぁ、ハン理事、ハン理事っ」
「あぁっ♡ あーっ♡ イク♡ イキそう♡」
 絡みつく粘膜にわたしも射精を促される。
「あぁぁっ♡♡ あーーーっ♡♡♡」
 とうとうハン理事はシーツに顔を押し付けるようにして、絶頂を迎えた。 
 この人はナカだけでイケるんだ、とあまりの淫靡さにわたしは感動に胸を震わせながらイッた。

 窓の外が明るくなってきた。
 もう何時間腰を振り続けているだろうか。さすがに疲れてきた。
「……どこ見てるんだ? おまえがもう限界なら、他の奴を呼んで来い」
「とんでもありません! まだイケます!」
 実際、わたしはぐずぐずになっているハン理事の尻の穴を見下ろして、ビンビンに勃起していた。疲れたが、精力は衰えていない。自分がデカマラの絶倫で良かったと今日ほど産んだ母親に感謝したことはない。
「ハン理事こそ、覚悟してください」
 わたしは亀頭を後ろを向いたハン理事の濡れた尻の穴にねじ込んで言った。
「わたしを忘れられない体にして差し上げます」
「ひん♡」
 ハン理事は背中をそらして反応する。
 わたしはその肩に軽く噛みついた。
「んふっ♡ 何して……♡ あっ♡」
 がぶがぶと甘噛みしながら、腰を素早く前後に揺する。
「あっ♡ くすぐったい♡ 変な感じ♡ んいぃっ♡」
 腰の動きを合わせながら、ハン理事は噛まれた肩の感覚がもどかしくて口をパクパクさせて喘いだ。
「いいっ♡ あぁっ♡ あっ♡ そこっ♡ らめぇ♡♡♡」
 ハン理事の奥深いところに入ろうとすると、甘い声で咎められた。
「だめですか? 腹に触ってみてください。ここまで入ってますよ」
「ひっ♡ らめ♡ 深いっ♡」
 ぼこっとわたしのデカマラの形に腹が膨れているサマを手のひらで触らせられて、ハン理事は初めて動揺した。
「あっ♡ あっ♡ すご♡」
 快感に目を閉じると、目尻から生理的な涙が流れ落ちる。
 美しい。わたしは見とれながら、しかし腰の動きは緩めなかった。
「はぁっ♡ あぁっ♡ くぅっ♡ いぃっ♡ イクぅっ♡」
「ハン理事っわたしも、イキますっ」
「うぅぅーーーーーーー♡♡♡」
 何度目かの絶頂を迎え、ハン理事はわたしの腕の中でびくびくと痙攣する。
 するとようやくハン理事の性欲がおさまってきたことに、萎えたままのちんぽを見てわたしは気づいた。
「苦しいの、おさまりましたか? ハン理事」
「ん、あぁ……気持ちい……♡」
 うっとりと呟きながら眠りに落ちるハン理事は満たされたように見えた。
 その寝顔に吸い込まれるように、わたしも睡魔に襲われた。

 目が覚めると、ベッドルームにハン理事の姿はなかった。
 慌てて服をかき集め、身につけた。浴室の鏡で髪型をセットし、慌てて、ハン理事の執務室へ向かった。
 部屋の中には、ハン理事が三つ揃えの隙のない背広姿で、何やら書類を確認している。ベッドの上とは別人のように清廉潔白そうに見える。
 他の部下たちがいなくて、俺はほっと息をついた。
「早いな、まだこんな時間だぞ」
 そう言って時計を見せるハン理事の顔はすっきりとして、昨夜の淫靡さの欠片もない。
 凛とした表情で、俺を見上げた。
「わかってるな、昨夜のことは口外するなよ」
 心做しか、声が掠れている。
「もちろんです!」
 わたしは素早く答えた。
「それなら、また、よろしく頼む」
「えっ」
 わたしはうろたえた。
「それって……」
 確かめる前に、部屋の扉が開いてわたしの部隊が揃った。
 わたしは口をつぐんだので、会話はそれきりになってしまった。
 ハン理事も目を合わせず、何事もなかったような顔をしている。
 わたしは、気持ちを切り替えて、部隊の一人としての顔つきを作った。
 昨日の晩のハン理事の密会の相手は、もちろんその後、無事に始末した。

 それからしばらくして「また」の機会が来るのは、別の話……。

おしまい

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