恋人同士になって、変わったことがある。
先輩が、ポッポをしてくることだ。
それも一度や二度じゃない。
二人きりになると、頻繁にほっぺやおでこにちゅってしてくる。
そんなスキンシップが当たり前のように。
それは赤ちゃんや、小動物にするような、ちゅ。
俺を惑わせるにはじゅうぶんなやつだ。
「ジュノや~」
「先輩、そろそろ経費出してくださいね」
「うん、わかってる。だからこっちおいで」
事務所のソファに座っている先輩に、手のひらで招かれた。
そばまで近づくと、先輩はすかさず俺のほっぺにちゅっとした。
「えぇ……」
思わずネガティブな反応をする俺に、先輩は憤慨する。
「引くな引くな! なんでだ!? せっかくポッポしたのに!」
「だって……。アレからポッポしかしてくれない……」
俺は正直に今の気持ちを言った。
すると、先輩はすっとぼけて、よくわからないといった顔をする。
「他に何かしてほしいことがあるのか?」
「ありますよ、そりゃ。べろちゅーとか、それ以上のこととか」
「わぁああああ!!!」
先輩は慌てて俺の口を塞いだ。
「は、恥ずかしい事言うなよ! そんなの!」
「俺達、恋人同士になったんじゃなかったんですか!?」
「だからポッポしてるだろ!」
すれ違ってる。会話が。気持ちも。
これは一度ちゃんと話し合わないとだめなやつだ。
俺は真剣な顔をして、やさしい声色をつくった。
「先輩、俺、先輩のことが好きです。だからもっと触れたいです。先輩はそうじゃないの?」
先輩は真っ赤になって俯いた。
「お、俺も、すき。でも俺、こないだしたときから頭ん中エロいことでいっぱいになっちゃってすごく困ってるから、またしちゃうともっとおかしくなっちゃいそうで。俺、俺……」
俺は頭がくらくらしてきた。
こんなこと聞いてまともでいられる男がいるか!? 否!
興奮して襲いかかりそうな気持ちを、強固な理性でなんとかおさめながら言う。
「俺も同じですよ!だから……!」
そこで入口のほうからガチャッと音がした。
思わず二人とも固まる。
ドアが開いて、見知らぬ男が入ってきた。
「あのー、人を探してもらいたいんですけど……」
お客さんだ。
今までの会話は中断して、俺たちは営業スマイルをつくって対応することにした。
男は、三十過ぎのがっしりした体つきで、虚ろな目つきをしていた。
「探してもらいたいのは、女性です。恋人です。急に消えてしまいました」
先輩は、冷ややかな態度だった。
「ふられただけじゃないんですか?」
「違います! 僕のカトクの履歴を見てもらえばわかりますし、これ、一番最後に撮った写真です!」
男がスマホをかざして見せてきた写真は、髪の長いきれいな女性が裸で彼に抱きついているところだった。
「わっ! こんな写真、俺達に見せちゃだめですよ! 彼女のプライバシーが!」
「でも、信じていただけたでしょう!?」
「わ、わかりました」
その日から、彼女=イ・ミンファを探す仕事が始まった。
手がかりは少なかった。一人暮らしで住んでいたアパートは引き払っていた。勤めている職場はなんとなく特定できたので突撃してみたが、やはり辞めていた。
「困ったな。やっぱりただ逃げただけじゃないのかな」
あくまで男が捨てられた説を唱える先輩は、それでも周辺の聞き込みを続けた。
おかげで、近所でイ・ミンファとよく立ち話をしていたというおばさんを見つけることが出来た。そのおばさん曰く、イ・ミンファの親友が、町の大型書店に勤めているという。
「大型書店って、教◯文庫のことだろ? そして、喫煙者だということがわかっている。つまり……」
先輩と俺は、教◯文庫のビルの喫煙所に、さも従業員のような顔をして交互に立つことにした。
そしてイ・ミンファと近い年齢の女性が来るたびに、話しかけた。
「ところで、良い引っ越し屋知らない? 来月引っ越す予定なんだけど、どこがいいかわかんなくてさ」
「あ、それなら◯◯◯がいいでかも。こないだ友達の引っ越しに使ったらすごく良かった」
そんなふうに答えたのは一人だけだった。
メガネをかけた気の強そうな女性。
俺達は彼女にロックオンした。
退勤時間を見計らって後をつけた。
どう見ても一人暮らしのメガネは、部屋に入る時、「ただいまー」と明るい声で言った。
「あの部屋に誰かいるな」
俺達は、翌日、メガネが仕事に出ていった後、部屋を訪問した。
チャイムを押すが、反応がない。
「いないんですかね」
「いや、いるよ」
先輩がしつこく中をうかがっていると、メガネが戻ってきた。
「あんたたち、そこで何してるの?」
「あっ、あの、僕達、ミンファさんを探していて」
「ミンファの何? なんでここに来たの?」
メガネがきつい調子で聞いている間に、中からドアが開いた。
「……?」
「あっ、ミンファ! 出ちゃだめ!」
やっぱり部屋にいるのはイ・ミンファのようだ。
俺はすかさずドアの隙間に足を差し込んで、閉じさせないようにした。
「何すんのよ! ミンファ! 逃げて!」
「大丈夫です! 俺達はミンファさんの味方です! あの男から守ってみせます!」
すかさず先輩が言った。
「えぇ!?」
俺とメガネは思わず顔を見合わせた。
話を聞いてみると、やはり男とは恋人同士ではなかったという。
男はストーカーだった。
カトクの履歴や、裸の写真はAIで捏造したもののようだ。
悪質な犯罪者に利用された俺達は、完全に切り替えた。
男から彼女を逃がし切ることにしたのだ。
男に偽情報を小出しに教えて、撹乱している最中に、ミンファさんにはソウル市外の遠くに引っ越してもらった。最終的には、見つからなかったといって男に報告したけれど、ある程度の情報があれば自分で見つけられると判断した男は、謝礼を置いていった。
「犯罪者から謝礼もらっていいのかなー」
「ミンファさんの引っ越し代として送ればいいんじゃないですか?」
「なるほど、そうしよう!連絡する!」
何かあれば協力するとして、俺たちはミンファさんと繋がっていた。
とりあえず、一件落着だ。
「俺たちは、タダ働きになっちゃいましたね」
今回使った経費をパソコンで入力しながら、俺は遠い目をした。
「まぁそんなこともあるさ」
先輩は余裕だ。
「報酬が欲しかったら俺があげるぞ」
そう言いながら近づいてきて、またポッポをしようとするので思い出した。
「そうだ、先輩! こないだの話ですけど!」
「うん?」
「俺も先輩のことばっかり考えて頭いっぱいだけど、もっと進展したいしたいんです!」
「もっと!?」
先輩はびっくりして目を丸くする。
「こ、これ以上、何することが……」
「もっといっぱいくっつきたいです!」
必死で言うと、先輩ははぁぁと大きなため息をついた。
「ジュノやのそういうところには負けるよ……」
先輩はそう言って、事務所の入口のほうに向かっていくと、ドアに鍵をかけた。
「せ、先輩……!」
その意味を悟って、俺はごくりと生唾を飲み込んだ。
いつでも出来るように準備は万端だった。
「ひぃっ、な、舐め、る、なんて……っ」
信じられないものをみるように、先輩は俺を見た。
俺がためらいもなく、先輩のちんちんを舐めたからだ。
「ひゃ、あっ、はぁっ、あんっ、ふぅっ、ひっ、あぁっ」
ぺろぺろ舐めたり、唇で挟むようにしたり、いろんな方法で刺激を与えると、先輩は泣き声のような声を上げる。
丸い先端からは、先走りがぷくぷく出てきて今にも射精しそうだ。
「ひぇんふぁい、らひはい?」
「んっ、うんっ」
「ひょっと、まってれ」
俺は、すぐには射精させなかった。
そのかわりに、おしりの割れ目に沿って指を這わせ、小さな穴に触れた。
「!?!?!?」
先輩は機敏に反応した。
「なにすっ!?」
「大丈夫だから」
俺は隠しておいたローションを出して、先輩に見せた。
「なんだそれ!」
「これを、こうするんです」
中身を手のひらに垂らして、おしりの穴に撫でつける。
「ひぃぃっ」
そして指でほぐし始めた。
「ま、まさか」
「はい、今日はここに挿れたいです」
「オーマイガッ」
謎のリアクションをする先輩を無視して、固く閉じた穴がローションのぬめりを借りて指になじんだところで、中指を押し込んだ。
「うっ」
浅いところをぐりぐり指の腹で撫で回す。
「やっ、へんっ、変な感じ!」
「そうでしょうね」
「このドS!変態!」
「なんでもいいです。先輩とひとつになれるなら」
必死になっているので、俺は額にうっすら汗をかいていた。
そんな俺の真剣な表情を見たせいか、先輩は黙った。
指は少しずつ中へ入っていって、根元まで押し込んだ。
先輩は、ひっひっふぅと変な呼吸をしている。
「そろそろ挿れますね、先輩」
先輩は黙って頷いてくれた。
ひっひっふぅ、のふぅのときのタイミングで挿れることにした。
その前にちゃんとゴムをつけて、濡れた穴に先端をそっとあてがう。
ひっひっふぅ。えいっ。
俺は腰を突き出して、先輩の中に挿入った。
「うぁっ、あっ、むりっ、えぇっ、あっあっ、ひぃんっ」
全然色っぽくない声を出して先輩は違和感に耐える。
俺はできるだけゆっくり、奥へと進んでいく。
「もっ、もっ、むり、ほんとに……」
「入りましたよ、ぜんぶ」
嘘をついた。三分の二くらいしか挿入っていなかったけど、このくらいにしておこうと思ったので止まったのだ。
「動きますね」
「えっ」
ぎりぎりまで引き抜いて、また三分の二くらいのところまで挿れる。
中でぎゅっとしめつけられて、あまりの気持ちよさに、俺は先輩を抱きしめた。
そうすると先輩も安心するようで、ぎゅっとしがみついてくる。
俺達は抱き合ったまま、腰を動かして、何度も出し入れを繰り返す。
腹の間で、先輩のちんちんも擦れて、先輩も悪い気分だけじゃなさそうだった。
「はっ、はっ、先輩っ、俺もう出そうですっ」
「うっ、うっ、俺もっ」
「一緒にイきましょうっ」
「うっ、うんっ」
しかしそんな高等テクを初体験でできるはずもなく、結局お互いそれぞれのタイミングで射精に至った。
「あぁぁっ」
「うぅっ」
快感に夢中になりすぎて、どちらが先かもわからなかった。
じーんと頭の芯まで痺れたような感じがして、俺は呼吸の仕方も忘れ、間抜けに口を開けてぱくぱくさせていた。
先輩は、俺の下でぐったりしている。
「……だいじょうぶですか?」
「……ジュノや、今日何日だ?」
「えっ? えーと、二十四日ですけど」
「そんな……、クリスマスイブに初めてとかベタすぎる……っ」
先輩はしくしく泣きはじめた。
「えっ、なんで!?」
「ばか、他の日にしろよ! くそ恥ずかしい……」
「えぇ……」
よくわからない理由でへこむ先輩をなだめるために、俺はこめかみに何度もポッポした。
おしまい
